第十四夜「内側の宇宙」

 レーダースは意思の力で宇宙を探査するが、全ての探査に成果が有る訳では無い。むしろ、空振りに終わる事の方が多い。そんな時、イーグルは自分の内側を探査する事が有る。おそらく孤独感に苛まされるからなのだが、イーグルは人と行動を共にすることを好まない、時間は自分のためだけに使いたいからだ。


 私の名はイーグル…君名は何て言うの?


「僕?…僕の名はイーグル。地球から出られない人達の為に宇宙を探査する仕事をしている」

「今日、君は何か成果が有ったのかい?」

「残念ながら今日は何も成果が無い。誰も、僕の呼びかけに応えてくれないんだ。だから、ただ、ぼおっと宇宙の暗闇に漂っていただけだよ」

「そうか。宇宙に、闇と静けさに身を浸すのは好きかい?」

「いや、実はあまり好きでは無いんだ」

「何故だい?」

「それは、怖いから……」

「怖い?」

「そう、怖いんだ。この無という空間の中に居るのが」

「どうして怖いんだい?こんなに平和な空間じゃ無いか。静かで穏やかで」

 内側の意思が笑ったような気がした。

「確かにそうだけど、人間は仲間が居ないと生きられないんじゃ無いかと思うんだ」

「君は、仲間が出来るのを否定していた事が有ったじゃ無いか」

「他の仲間と付き合わない事は、煩わしく無くて気軽で良かった。でもそれが長く続くと寂しさが湧いて来る。そうなると、寂しい時には話し相手になって貰って、その時以外は感傷しないでくれる人が欲しくなる」

「それで満足できるのかい?」

「それでも満足出来なくなって、結局友達とか、恋人とかいて欲しいと願う様に成る。そして究極は、結婚願望というかたちで現れるんじゃないのかな?」

 結婚、イーグルは自分には関係のない言葉だと感じた。誰かと暮らして自由を奪われるより一人で気まぐれに暮らしたいと思っているからだ。

「君に友達は居るのかい?」

「今の処、ノベルが友達かな?」

「ノベル?」

「ああ、地球に住んでいる僕達とは違う種族の生命体だよ」

「種族が異なっても友達になれるのかい?」

「種族が違うから友達になったのかも知れない」

 内側の意思は少し考える。そして、まるで上目遣いに見上げるようにイーグルに尋ねた。

「何故……?」

「おそらく、何故?言葉が通じないから、纏わり付かれても不快で無いから。自分のテリトリーを持っていて、それ以上近づいて来る事は無いから」

 内側の意思は呆れたようにこう尋ねた。

「イーグル、君は孤独なんだね?」

「そう、僕は孤独、それは自分が望んだことだよ。自分の始末も自分でしなければならないし、意外とめんどくさい生き方だと思う。自分に対して最後まで責任を持たないといけないからね」

「だから他人には優しいの?」

 イーグルの心に刺さった質問だった。つまり、孤独であることを理由に、人に対して悪い印象を与えてはいけないしてはいけない、なぜなら、暮らしにくくなるからだ。これはとてもずるい処世術ではないかと考えたからだ。だから、イーグルはこう答えた。

「……分らない」

 内面は少し黙り込んだ。そして、こう言った。

「なるほど、そうかもしれないね。これはすぐに答えろと言った僕が悪いみたいだね」

 イーグルは少しほっとした。これ以上掘り下げられたら今度は自分が黙り込んでしまうしかなかったからだ。

「孤独なことを恥じることはないさ、それが生き方なら胸を張ればいい。他人がとやかく言う事でもない」

「そういってもらえると嬉しいよ。ただ、本当の孤独というのは僕のような境遇のものではないと思う、孤独というのは誰にも知られないことだと思う、僕は少し知られているからね」

「そうか、それは良いことだ。良かったら私を友人にしてくれないか?」

「友人?」

「ああ、そうだよ、私たちは友人だ、いつでも声をかけてほしい」

「……あ、ありがとう」

 イーグルは思う、そんなに簡単に友人になれるものなのだろうか、これは社交辞令というやつなのではないか、上部の挨拶のようなもの、本気にしてはいけないのではないかと。

「社交辞令だと思っているね?」

「え?」

「友人というのは簡単に作れるものだよ、ほんの一言話しかければいい、それだけだ」

「それだけで?」

「ああ、それだけだ」

 内側の意思の答えは自信に溢れていた、それは自分の本当の意思、つまりこれが自分の本質なのだと気が付くと、今までの暮らしが滑稽こっけいに感じられた。自分の本質は外に向いている。それをたしかめられたことが嬉しくなった。そして、少し前向きに生きようと考えてみた。

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