第五夜「炎の言い分」

「私は何者とも触れることは出来ない。」

 イーグルだけでは無く他の人物が見たとしても彼の言い分を覆(くつがえ)すのは難しいだろう。彼の体は高温の炎で出来て居るからだ。

「我々は極端な例だが、君達の様な体をつ持つ者と、理屈は同じ様な物だろう?」

 炎の問い掛けにイーグルは思った。確かに我々人間だって酸素を体内に取り込んで、それを燃やす事で生きて居るのだから彼らと原理は同じだと言われれば同じ様に思える。炎は更に続けた。

「もっとも、君達は体よりも心の方が熱いのかもしれないな」

「それは、どうだろう?人によるんじゃないかな。でも、確かに心が熱くないと人間は動けないだろうけどね」

 炎は表情を少し変えた。

「それが、恥ずかしいとか、うざったいとか思う事もあるんだろう?」

 イーグルの表情も少し変る。

「確かに、そう思う事も有るよ。人間は自分の生の感情を隠してしまう事が多いからね」

「我々は感情を隠さないよ。高揚すれば炎は大きくなるし、落ち込めば炎は小さくなる。だから、見た眼で今の気分が分かってしまうんだ。」

 イーグルは少し考えた。

「自分の感情を隠しておきたいと思った事は無いのかい?」

 炎は考える事は無かった。

「感情を隠す事に何か意味が有るのかい?それこそ隠しておきたい感情だよ」

「君達みたいに実直な性格の者だけなら感情を隠す必要なんて無いだろう、僕等から見れば本当に羨ましい事だよ」

 今度は炎が少し考えた。

「そうか、君達の星では本当の事を言わないでおく事が平和に繋がる事があるんだね。我々の星では隠し事をしない事が尊敬される唯一の方法だよ。」

「隠し事は無か…君達はそれが辛いとは思わないのかい?」

「何故辛いと思わなければいけないのか?」

 イーグルは炎の問い掛けに再び考えた。

「悲しい事や、触れて欲しくない過去は君達に存在しないのかい?」

「我々は全ての事を悲しいとは思わない」

「何故?」

「炎が消えてしまうからさ…」

 イーグルは考え込みながら深い宇宙の闇を見詰めた。地球人の心の炎とは何だろう、すでに失ってしまったのか。そうでないことを心から祈った。

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