アナザーアウター
おるのん
第1話 ここはブラックホール
「はぁ、なんでいっつもこうなんだよ」
茨城県つくば市へ修学旅行に来ていた「
最初の訪問場所は国立つくば量子研究所だったが、そこでの集団レクチャーは眼鏡を忘れたうえ、後ろの方で何も見えず、話も無駄に前の男女がいちゃついてるのが気になって正に話半分しか入ってこなかった。そのあとやっと外の広場で自由休憩になりはしたものの、それは16時半くらいだった。ほぼ夕方。
で、現在時刻は17時17分。30分休憩から大幅に遅れてしまったのはワケがある。要は、昼食に当たった。でもって、トイレが遠かった。でもって、道に迷った。
控えめに言って困っている。引率の先生方も焦っているだろう。ワンチャン置いてけぼりくらった可能性がある。というか、たぶん先行ってる。が、それもわからないくらいには困っている。
やっと研究所から外にでて、巨大なドーム型の建物の横を通り過ぎたとき、建物のなかから、
「ドーン!」
と巨大な爆発音が。同時に、暴風が吹き荒れ吹き飛ばされる。冗談でも誇張でもなく、物理的に吹き飛ばされた。気がする。
多分数分くらい意識を失っていたのだろう。あたりは暗くなっていた、静まり返っていた。
「なんだよ、研究所の人もみんな帰っちゃったっぽいじゃん。」
つい独り言をつぶやくが、何かがおかしい。ドーンという音は紛れもない事実。あれは相当大きな事故だったはずだ。それは体感的に知っている。ならば本当はもっと騒然としているはずだ。パニックになっている可能性すらある。しかし、この静まりようはなんだ。それに、人だけじゃない。鳥も猫もいないし、車の音も施設の換気扇の音もしない、完全な無音。耳が痛くなるほど何も聞こえなくなってる。
だんだんと不安になってきたところに、突然、
「ここには誰もいない。君と僕以外は。」
急に話しかけられ、ビクっとする。振り向くとそこには子供がひとり。見たことはない、と思う。なんだろう、これをデジャヴというのだろうか。理解しようと思うがなかなかキツイ。それでも必死でやろうとするも全く追いつかない感じがあった。その子は続けて話す。
「ここは、アウターではブラックホールと言われている世界の内部。そして僕は君がここに来ると同時にブラックホールが生成した情報。」
全く意味不明。困惑を通り越してまた気を失いそうだ。ふいに集団レクチャーで聞いた研究員の話を思い出した。
「最近の研究では、ブラックホールの周囲にはブラックホール内部の情報が密集していることがわかりました。ブラックホールの中は実は情報の塊、超巨大なUSBメモリーのようなものなんですね。」
子供はその困惑具合を察知したのか、言った。
「大丈夫、ここにはあなたを脅かす一切はありません。ひとまず深呼吸しよう」
深呼吸を何回かするたびに、心拍数が落ち着いてくるのを感じる。よくわからないけど、この子は何かいろいろ知ってるみたいだし、何が起こったか聞いてみようと思った。
子供はその考えを理解したかのように続ける。
「もう一度言うね。ここはブラックホールの中。あなたがもともといた世界とは完全に異なる世界と思って差し支えない。そして、あなたと僕以外は誰もいない、今は。ここは完全な情報だけの世界。情報しかないから不完全とも言えるけど。」
「もしかして、死んだ?」
「『死ぬ』という状態がどういう定義かわからないのでその答えはわからない、だけど、もとの場所、もとの時間に戻ることはできる。アウターの状態はこの世界とは無関係だから。」
ふむふむ。ここは、もといた銀河系の地球の日本の茨城県の研究所のここというわけではなく、ブラックホールの中らしい。で、死んだわけではないらしい。で、もといたところに戻ることもできる、・・・らしい。
らしい?・・・らしい。
「そう、ここから出てもとの場所、もとの時間のアウターに戻ることはたぶん可能。だけど、ここに居残ることもできる。あなたはもはやただの情報だから、年を取ることもないしおなかもすかない。」
確かに、今はおなかも痛くないし、さっきまであった不安とかもない。気分は今までないくらいすっきりしてるし、疲れてる感じもどこへやらって感じだ。
ひとまず、周囲の状況と自分が置かれている状態を確認するために散歩することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます