嫌いじゃないクリスマス
「……別に嫌いじゃないよ」
昔は大好きだった。
外で拾った松ぼっくりとお気に入りのビーズなどをボンドでくっつけて、リースを作った。キラキラと光るオーナメントボール、カラフルなリボン、杖のキャンディやジンジャークッキーを模したものを丁寧に枝の先につけた。てっぺんの星を飾り付けたいがゆえに、椅子を脚立がわりにして、目一杯背伸びした。クリスマスまではコンセントを抜くのが我が家のルールだったけど、早くイルミネーションのライトを点けたかった。
友達呼んでパーティーとかして、チキンもクリスマスケーキも食べて、サンタさんに手紙を出して。朝の冷たい空気も気にせず、リビングに走っていったら、ツリーの下にプレゼントがあった。
だけど大きくなるにつれて、私はクリスマスが――具体的には、クリスマスの街並みが好きではなくなった。
「何というか、この期間、みんながクリスマスを楽しんでいるんだから、私もクリスマスらしく楽しまないといけない、そのためにあれこれしなきゃいけないっていうのに、疲れたんだと思う」
成長すると、家の中で指折りして待ち望んだクリスマスから、外に向けて消費するクリスマスへと変化していった。
一緒にイルミネーションを見にデートした。一緒にご飯を食べた。プレゼントをもらった。
そういう報告や写真を、逐一載せる人がいて、それが全く関係のない私のところにも流れてくる。
すごいでしょう。きれいでしょう。私は幸せでしょう?
今夜のために頑張って、恋人を作ったの。ほら、いいねも押されている。皆羨ましいって思ってる。
私は惨めじゃない、私は愛されている、だから一人でさみしい夜を過ごしていない。私は悲しい存在じゃない……。
この人たちは、誰のために、楽しいことをやるんだろう。愛されるために努力した。痩せたり服を買ったり化粧をしたり。それをしないと愛されない、そうしない自分はダメだ、恥なんだと。その否定に、渇きに、私が悲しくなった。
誰かに注目されないといけませんか。誰かに必要とされていないといけませんか。誰かにとって特別に愛される人間じゃないといけませんか。
――それより、ただの私が、「あなたもここを歩いていいんだよ」と、世界中から肯定される方が、ずっとよくないですか。
その人たちにとって、特別にならなきゃ、特別な日に街を歩いちゃいけないんだろう。それが、大人になれば当たり前なのが悲しかった。
「……でも、今は違うよ。ちゃんと楽しんでいる」
私はあたりを見渡す。
ツリーの前のベンチに座る、五歳ぐらいの女の子。隣に座っているのは、お父さんなんだろうか。女の子はお父さんの顔を見て笑いながら、床に着かない足をぶらぶら揺らしている。その靴の、なんと小さいことだろう。その足を一生懸命に動かして、ここにいる。
ツリーを挟んで向こう側には、一緒に歩く睦まじい男女の姿がある。こんなにもたくさんの人がいる中で、お互いにお互いを選んで、誰の目も気にせず、ただお互いの顔を見て、幸せそうに歩いている。
あのおじいさんは一人、大荷物を抱えて歩いていた。飾りつけのための買い物なのかな。パロルの短冊がひらひらと揺れていて、それを抱えながら、早歩きで進んでいる。
あの女性は、一生懸命物を売っている。あの男の子二人は制服を着ているが、学校の帰りだろうか。あの女性二人は、……。
私は、一人歩くクリスマスが恥とか悲しいと思ったこともなければ、一人がさみしいとも思ったことがない。だって、ああやって笑っている人を見ると、世界がとても美しいものに思える。それが世界にとってごく一部の人だと分かっていても、そのごく一部が美しいのなら、世界はきっともっと良くなる。そう思えるようになったのは、何時だっただろう。
自分の傍に、誰かの幸せがある。それが自分のものになる必要が、どこにあるというの?
自分が好きなように飾り付けた家の中は素敵だ。――それと同じぐらい、窓から見えるランタンの光も、あんなに綺麗じゃないか。
「もちろん、アル君ん家のクリスマスパーティーは楽しく参加しているから。安心して」
ただ少し、昔の気持ちに引きずられるだけで、今の自分が嫌なわけじゃない。
そう言うと、アル君は少しほっとしていた。
「よかった……日本人の友達から、『日本人そんなでっかいホームパーティーやらないよ』って言われたから」
「いやまあ、フィリピンほどはしないけどね?」
普通クリスマスパーティーって、呼ばれるとしても一回、二回ぐらいなものなのに、十二月はあちこち呼ばれて、しょっちゅう参加する羽目になる。ただの通行人なのに呼ばれて、他人ん家の庭で踊りまくって帰るのは、日本じゃそうそうないだろう。
っていうかアル君ん家みたいに、百人近くも集まれる家なんて日本にそうそうない。
「っていうか、やったの? 留学中」
「……」
何で無言で返すんだ。
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