死後の世界の案内人
仲仁へび(旧:離久)
第1話
今日、死んだ人間が一人いるらしい。
私は案内人だから迎えにいかなければならない。
でも、憂鬱だ。
相手はみな、さっきまで生きていた人間なのだから。
日常的に、きつい事を言われたりする。
死にたかった人なんてほとんどいないから、仕方がない事なのだろうけれど。
きっと、こんな仕事やりたがる人なんていないだろうな。
「貴方は死にました」
俺の前に案内人がやってきて、そう言った
嘘……だろ。
俺は愕然とした。
覚えている記憶の中で俺は、事故で重い怪我を負っていたけど、まさか死んじまうなんてな。
「だからあなたを、死後の世界へ案内します。ついてきてくださいね」
「おれ、もう少し生きたいんですけど」
「死体に戻っても、誰も喜びませんよ」
えっ、そういう感じになるの?
魂だけ朽ちた肉体に留まって、ゾンビみたいな感じになっちゃうのかな。
でも、あきらめられない。
いきなり死んだとか、言われたってな。
「拒否権はありません。ついてきてください」
案内人らしきそいつは鎖をどこからかとりだして、俺をぐるぐる巻きにした。
そして、引きずられる。
これじゃあ、ついていくんじゃなくて連行されてる絵じゃないか。
「いや、離してくれ! 俺はまだ死にたくないんだ!」
「話してくれ? では、詳しい説明をいたしましょう」
漢字が違う!
それは誤訳だ!
「ここから死後の世界に行くまでには、様々なエリアがあります。分かりやすく説明すると、炎が噴き出ているところや、どこまでも深い水が満ちたところ、毒が満ちた所などなど」
抵抗に忙しい俺は反応しない。
すると案内人は勝手に話を進めていく。
「ですから、案内人の言う通りについてこないと。焼けたり、おぼれたりしますよ」
えっ、こわっ。
俺は大人しくならざるをえなかった。
「ひょっとしてここ地獄?」
「ええ、案内人がいない人は、地獄でさまよって罪を祓うのです。でもあなたは普通の人だったので、案内がついて安全なルートを通る事ができます」
罪のない善人とかの場合はどうなるんだ?
「あなたがたは人間ですよ? 罪の一つや二つ必ず犯すでしょう?」
言われてみれば。
どんなにいい奴でも、完璧な人間はいないしな。
「って事は天国はないのか」
「ええ」
そうか。ちょっと残念だ。
実際にあるなら。どんなところか見てみたかったのに。
まあ、普通の俺じゃ、いけないだろうけど。
地獄をさまよう羽目にならなかった事は喜ぼう。
しかし、俺、本当に死んじゃったのか。
ショックだな。
りなちゃんとか、みえちゃんとか、もあちゃんとか。
もよぎちゃんとか。あんこちゃんとか。しゅなちゃんとか。
あとりんちゃんとか……。
もっとかわいい女の子たちを愛でたかった。
「あらあら、泣いてるんですか」
泣きもしますよ。
もっと生きたかったんだ。
「よしよし、そんなに泣かないでください」
案内人に頭をなでられた。
包容力あるぅ!
俺の案内人ポイントが1上がった。
「きっと次の人生は良い事ありますよ」
「転生とかするんですね。あっ、案内人とかにはなれないんですか?」
「死んだ人の対応は大変ですよ。なかなか死んだ事を認めない人もいますから」
あー、それはいるだろうな。
俺も認めたくなかったし。
今も結構認めたくない。
でも、「案内人になる方法があったら、ぜひ教えてください」すぐ生まれ変わるってのもなー。
それに、ちらっ。
この人、なんか気になっちゃうし。
「まったく、こりませんね。二股して彼女さん達の喧嘩にまきこまれて死んだんでしょう?」
俺は愛に生きる男なので。
「先輩、よろしくお願いします」
「まあ、あなたほど前向きな方が向いてるかもしれませんね」
おっ、少し嬉しそうじゃね?
ひょっとして脈あ「違います」。
あっ、そうですか。
死後の世界の案内人 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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