第3話 ゲロ甘国王、だったらしい。



 例の騒動の翌日。

 夕食の席で、両親から「陛下と話は付けてきた」と聞かされた。


 まさかの電撃解決だが、面倒な事は早めに終わらせるに限る。

 私は素直に、驚きつつもお礼を述べた。


 すると父は疲れた顔で苦笑する。


「それがなぁー……アレが何やらまた面倒な事を言っていてな」

「面倒な事、ですか?」


 大抵の事には耐性のある父なのに、ここまで疲れているのはあまり見ない。

 そう思って尋ねれば、彼はこう教えてくれた。


「私が陛下と破棄について話していたら一体どこから聞きつけたのか、殿下がいらっしゃってだな。『張りぼての婚約者という存在に俺の最愛の人の心はずっと傷付けられてきた。その問題を解消しなくては未来の国母の精神が病む。その危険を取り払ったのだから破棄は正当だ。俺に落ち度は一つも無い!』と主張したのだよ」

「え、その言い方だと、陛下とお父様のお話し中に殿下が乱入してきた様に聞こえるのですが……」

「その通りだ」


 そんな良く分からない理屈を囀る殿下が、余程面倒だったのだろう。

 深いため息を吐いた父を見ていると「先程感じた父の疲れは、もしかしてそれが理由でもあったのかもしれないな」と思ってしまう。



 が、私は殿下のそのアホな言いぐさよりもずっと、殿下の『粗相』の方が気になった。


「その乱入、陛下はお止めにはならなかったのですか?」


 普通、必要に迫られる場合を除いて国王と誰かと謁見中に第三者が乱入する事は許されないのだが。


「『公の場では無いから許してやってくれ』と」

「ゲロ甘ですね」


 私まで、思わず辟易としてしまった。

 我が国の王妃様は誰に対しても完璧を求める人だったが、国王様は息子に甘くていらっしゃる。

 これは本格的に、あの家に嫁がなくて正解だ。


 と、それはさておき結果としては。


「だがまぁ、予定していた権利云々は全て受け取る事ができた。結果は上々だ」

「あらそう。ならば新しい領地、早く視察に行かなければね」

「お前はあそこの採れたて特産をお腹いっぱい食べたいだけだろう?」

「あら、自領の特産品の美味しさを知っておく事はとても大事よ?」


 そんな風に軽口を叩き合いながらも楽しげに話す二人は実に、仲睦まじい夫婦である。


「あ、ところでお父様。社交は当分欠席しますが、学校の方はどういたしましょう?」

「どちらでも良いが……行きたいのか?」

「えぇ、せっかく今まで皆勤賞で来ていますし」

 

 彼の言葉に私はそう肯首する。


 学校とは、子供達が知識や技術(スキル)を身につけるために通う学び舎であり、あの一件の舞台となった場所でもある。

 おそらく行けば、様々な噂が漏れ聞こえてくることは必至である。

 

 が、だからと言ってこの件の為に皆勤賞を逃すのは惜しい。

 それに、だ。


「休んでしまえば、周りからはきっと『婚約破棄にショックを受けているのだ』なんてデマを流されてしまうでしょう。殿下が今回の件を私のせいにしたいのならば、猶更です。どちらにしろ噂を囁かれるのは変わらないのですから、堂々としていた方が良いと思います」


 そんな風に私が言うと彼は「うむ」と頷いてくれ、その後苦い顔になる。


「アレがまた、変な事をしなければ良いが」

「……祈っていてください、お父様お母様」


 それについては、肯定はしたくないが否定もできない。

 そんな複雑な気持ちで、私は二人にそう言った。


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