「という訳なのです。お父様、お母様」

　あの後すぐに帰宅して、事の一部始終を両親に一通り話して聞かせた。

　すると母はゆっくりとティーカップを傾けてた後で「そうなのね」と言ってため息を吐く。

「王妃様から『どうしても』と言われたから了承した婚約だったのだけど……そう、やっぱりアレは駄目でしたか」

「王族の手前表立っては言わなかったが、アレは最初から最悪だったからな。今更驚きはせん」

　母に続き父からもそう言われ、私は昔を思い出す。

　殿下とは、婚約決定後に初対面を果たした。

　その時に彼が言った「ちょっとばかり出来るからって、偉そうにしやがって」という言葉は、今も忘れてはいない。

　その時の一部始終を見た父が探りを入れた所、どうやら会う以前から事ある毎に王妃様が私の事をやり玉にあげ「貴方もそれに釣り合う頑張りをしなさい」「女の子に負けていては恥ずかしいですよ」と言い聞かせていたらしい。

　それが分かった時には私も、子供ながらにひどく納得したが、必要以上の対抗意識を燃やした結果度々私に当たる彼は、とても迷惑な存在だった。

　そんな彼も、近年は競う事よりも「如何に私を上手く使うか」「如何に私の手柄を自分のものにでっち上げるか」に注力していたような気がするが。

「大体アレには、この国の次期後継者としての自覚が足りん。あんな非常識なのを国母になど……」

「殿下は陰で『あの天真爛漫さが良い』『思わず助けてやりたくなるようなあの儚さと可憐さが良い』と言っていましたよ？」

「そんなものの一体何が、国母として役に立つのか」

　そう言って吐き捨てる父に、私は思わず笑ってしまう。

　すると母が、最後にこう聞いてきた。

「エリザベート、ではこの婚約は正式に破棄という事で良いのですね？」

　母からの問いに、私は「はい、構いません」と即答する。

　するとそのあまりの速さに、父の方が吹き出した。

　思わず首を傾げると、クツクツと笑いながら「いやまぁ何だ、分かったよ」言われ、結局この場はお開きになったのだった。

　後で使用人から聞いた話だが、私が部屋を出た後、お父様とお母様はどうやらこんな会話をしていたらしい。

「……くくっ！　それにしても『歯牙にも掛けない』とは正にこの事だな。アレ如きの為に我が娘が心を痛めずに済んだ事は、うちとしては喜ばしいが」

「あれだけ羨まれる地位と権力と富を持っているというのに、それにさえも未練を持たせられないくらい人格に難があるのだから、男としての甲斐性の無さを露呈したようなものね」

　それはそれは楽しそうだったと、メイドが後で教えてくれた。

　その話を聞いた私は「何ともお父様とお母様らしい辛辣さだな」と思いながらクスクスと笑っただけで終わったのだった。

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