もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜言いたい事を全部言って、スッキリ爽快自由になります!〜

野菜ばたけ@『祝・聖なれ』二巻制作決定✨

第1話 婚約破棄ですね? はいどうぞ。



 学校でのダンスパーティー。

 それは、学校の運営をする生徒会が主催する行事の一つだ。


 その行事進行中に、あろう事か進行役の殿下が私に皆が見ている壇上で、高らかにこう告げる。


「エリザベート・ヴァン・キャスリング! お前のと婚約を、今ここで破棄する!!」


 と。



 

 この殿下と私は国王勅命の政略結婚だった。


 彼はこの国の王太子、その婚約者となれば私は未来の国母である。

 得られる富は大きいが、それ以上に責任は重大だ。

 

 それを分かっていたから私は、今まで自分を磨いてきた。

 あらゆる分野で殿下をフォローできるように勉強し、耐えてきた。

 どんなに面倒な事を押し付けられても、女にうつつを抜かしていても、私は自分がやるべき事を見失わなかった自信がある。

 やりたい事を諦めて、色々な事を我慢して。

 


 しかしそれも、今日で終わりだ。


 まさか自分の方から反故にする事なんて出来ないだろうと、ずっと諦めてきた。

 一生涯この殿下の尻ぬぐいに奔走しなければならないと思えば何とも気が重かったが、仕方がないと思っていた。


 それを、あちらがわざわざ反故にしてくれるというのである。


 ならば、私の答えはただ一つ。


「はい、どうぞ」


 そう、コレだ。



 私が特に怒りも悲しみも示さなかったのは、単にそれを感じる必要が無かったからだ。


 しかしその内情を知らない者は、きっとそうは思うまい。

 その筆頭である殿下は、ニヤリと嗤ってくる。


「痩せ我慢とは……そんなに俺に嫌われるのが怖いのか?」

「いえ別に」

「そうだろうな、お前は俺を愛しているから」

「いえ特に」


 先程と同様に、質問に対して思わず必要最低限の返事になる。

 だってそうだろう。

 彼の言う事があまりに的外れ過ぎて、言い返すのさえ面倒だ。


 なんて事を思っていると、彼がまたアホらしさをなお加速させて私の前を突っ切った。


「フンっ、お前がどれだけそうやって俺の気を引こうとしても意味は無い! 何故なら俺には既に『最愛』がいるからな! リズリー!」

「はい、殿下っ!」


 殿下の口から告げられた高らかな宣誓に、弾んだ声がすぐに応じた。

 

 ドレスの裾をはためかせながら軽快に殿下の元への走り寄るという貴族としてはあるまじき行動を披露したのが、その声の主である。



 彼女の事は知っている。

 最近殿下の周りのよく出没しては愛想を振りまき周りを大いに騒がせている、お騒がせ伯爵令嬢だ。


 伯爵家の令嬢であるにも関わらずこのようにマナーが成っていないのは、彼女が元々平民上がりで、男爵家の妾の子だったところを最近になって伯爵家に養子に入ったから。

 そしてその養子縁組を後押ししたのは、殿下の側近で生徒会所属のとある生徒だ。

 そこに殿下本人の希望がどの程度関わっているのかは分からないが、伯爵令嬢ならば一応、殿下の妃にも成れるだろう。

 

(少なくとも私がこのようなハッピーエンドを夢見つつ、敢えてどうにもしなかったという事には、彼女はきっと思い当りもしないんだろうけど)


 でも、それでいい。

 むしろ、それがいい。


 だからこそ、私は今日自由を手に出来るんだから。


「国民のお手本になるべき王族です、やはり愛する者同士が結婚する方が良いと思いますし……。エリザベート様、どうかここは身をお引きくださいっ!」


 だからダメ押しと言わんばかりにそう叫んだ彼女の声に、様々な突っ込みどころを全て飲み込み、多々一言「では殿下、お幸せに」と、笑顔で言い置きその場を後にした。



  

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