第6話 友達として…

「里中さんは法専大ですよね。うちの大学と近いからか

 法大生と付き合っている子は多くて、同級生にも何人かいますよ」


 加奈は両校のカップルは結構いると伝えて、自分をアピールしたつもりだったが、裕人は、片山範子から彼女がいることは聞いているはずだけど、興立短大生までは知らないのかな?と全く違った受け取り方で聞いていた。そして、この話題の深追いは避けようと、加奈に別の質問をした。


「神大路さんは読書家だと聞きましたが、

 どんなジャンルがお好きで月に何冊くらい読まれるんですか?」


「里中さん、敬語じゃなくて大丈夫ですから。普通に話してください。

 ボクは中学から女子校で友達がいなかったんで本ばっかり読んでたんです。

 読む冊数は月によって違うけど、好きな作家ができたら、

 その人の本を一気に読むんで、40冊以上だったり、10冊だったりします」


 よくぞ聞いてくれましたとばかりに加奈は語り始める。彼女は本の話題ならば、ずっと話してられるほどの読書家だった。


「好きなジャンルは歴史小説と推理小説かな。それと紀行文や旅行記も。

 もちろん話題の新刊やコミックだって読みますよ」


「あと部活で食肉加工品を調べているんで、それ関係の専門書とかも。

 専門書は高いから学校の図書館や父から借りることが多いですね。

 ただ恋愛小説だけはボクには縁がないと思ってて、

 これまで全く読まなかったことを今日は、すごく後悔してるんですよ」


 恋愛小説に関する言葉は、さっきの学校の話題に関心を示さなかった裕人に対する再度のアピールだった。さすがに、これは裕人にも伝わり、シャイとは聞いていたけど、意外に積極的な面もあるんだなと感心した。


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 レストランのスタッフがテーブルの空いた皿やグラスを手際よく片付けて、コーヒーとジェラートを置いていく。その様子を眺めながら裕人は、間もなく合コンも終わりか。あっという間の三時間だったなどと思っていた。

 最初から相手が決まっていたので、他の参加メンバーと話すことは、ほとんどなかったが、御蔭で加奈の可愛さは堪能できたと考えているところに、加奈が笑顔で質問してきた。


「ノリ坊から聞いたんですけど、里中さんは彼女さんいるんですよね?」


 最後の最後にその話題か。仕方ない。それでは全てを話して、今日はお開きにしますかと裕人は決めた。


「はい。さっきの神大路さんの話じゃないですけど、

 興立女子短大に通っている彼女がいます」


「え!興立の短大生ですか?じゃあ、ひょっとしたら、

 ボク、キャンパスで里中さんの彼女さんとすれ違っていたかもしれないんですね。

 里中さんが好きになるくらいだから、きっと素敵な人なんでしょうね」


「素敵の物差しは人それぞれだから何とも。ただ私にとっては大切な女性ですよ」


「いいな。そう言ってもらえる彼女さんが羨ましいです」


 それで質問は終わった。もっと彼女について、いろいろ聞かれると思っていたので、裕人は拍子抜けした。しかし、彼女の目的が別にあることを、彼はすぐに知ることになる。


 加奈は両手の指で裕人のシャツ袖を摘んできて、意を決したかのように彼を見つめながら話し始める。


「あの、里中さん、お願いがあるんです。

 今まで、ボクは男性と話すのが苦手だったんですけど、

 里中さんなら平気でおしゃべりできます」


「ノリ坊から聞いてるかもしれないけど、

 ボク、会う前から里中さんのことが気になってたんです。

 ノリ坊から高校時代のエピソードとか聞いて、いろいろ想像してました。

 今日、実際に会ったら、性格も容姿も振る舞いも本当に素敵でした。

 里中さんのことをもっと知りたいし、もっと話もしたい。

 一緒に行きたいお店だってあります」


「里中さんに彼女さんがいるのはわかっています。

 だから、友達として、これからもボクと会ってくれませんか?

 友達だから里中さんに彼女さんがいても、ボクは全然平気だし、

 お二人の邪魔なんか絶対にしません」


「彼女さんとの予定を優先してもらって、

 もし里中さんに空いた時間が5分でも10分でもあったときは、

 ボクと会ってくれるとかはダメですか?」


 正直、裕人は加奈から「今日は楽しかったけど、里中さんには彼女がいるですよね。それなら仕方ないですね」と言われて終わりだと思っていた。加奈の可愛い仕草を帰り道で思い出しながら一晩寝て、頭を切り替えて、明日か明後日に美緒のマンションに行く。そんな風にシミュレーションしていた。


 万一、加奈から付き合って欲しいと告白されたときは、ノリちゃんとの事前の打ち合わせどおり、彼女がいるから無理ですと断ればいいと高を括っていた。そのときはノリちゃんもフォローしてくれる約束だったし。

 なので彼女がいても構わないから友達になって欲しいと提案されるのは、全くの想定外だった。



 

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