第6話 出会い

「っは!?」


 意識を取り戻した。寝ていたわけではない。背中に何かの感覚を受けて、意識を取り戻したのだ。

 周りを見渡すと、草原であった。


 膝くらいの草のベット。

 背中を打ちつけることもなかった。


 とにかく状況の確認だ。地面は柔らかい草であり、体に損傷はない。服というか装備もダンジョン突入時のままだ。薬品も残っている。そして短剣を抜いて刃を確認する。

 数度だが、魔物と戦ったことはある。今は、このナイフ一本が命綱である。


 とにかく警戒をしながら周りを見渡す。

 この草原は、森の中の一部らしい。少し距離はあるが、離れたところに密集した樹があり、この草原を囲んでいた。

 そして、川と家が目に入った。

 家の煙突からは、煙も出ている。


 選択肢はない。

 僕は、家に向かった。





 とりあえず川に着いたので、掬って飲んでみる。飲料水として問題なかった。というか美味しかった。

 恐る恐る家に近づく。


 家は、石造りの大きめの作りだった。二階建てである。

 逡巡する。誰かがいるのであろう。

 僕はダンジョンにいたのだ。ここもダンジョンだと思う。もしくは、異世界転移かもしれないが、ダンジョン内にいると思った方が良いだろう。


 最悪なのが、フロアボスだった場合だ。僕では瞬殺だろう。

 僕は、スキルにより〈資源〉を必要としない。戦闘さえなければ、いや、即死する怪我さえ負わなければ、僕は寿命まで生きられるだろう。選択を誤らなければ、ダンジョン内でも生存し続けることは出来るはずである。

 もう帰る場所もない。そして、生きる意味もない。

 唯一上げるのであれば、ネーナにまた会いたと言うくらいだろうか。


 余計な思考をしていると、家に変化があった。

 ドアが開いたのだ。

 入ってこいと言うことだろうか。


 罠かも知れないと思ったが、相手から姿を現した。年上の綺麗な女性……。


「……警戒しなくて良いわ。入って来て」


 安心してしまった。人形の魔物もいるそうだが、どう考えても同じ人族である。

 ダンジョン内なのかもしれないけど、生活している人がいるのだな。

 一礼して、招かれるままに家に入る。





「ここは、ダンジョン内ではないのですか?」


「ええ、そうよ。この空間は私の作り出した空間なの。まあ、ダンジョンと同じ作りかな」


「僕の知識では、そんなスキルはありませんでした。あなたは何者ですか?」


「私は、君とは別な世界の住人かな? 君からすれば異世界人が正しいのだと思う。そして、スキルと魔法が少しだけ進んだ世界の異世界人のようね。空間魔法の利便性を理解してないところを見ると、君の世界はまだまだ発展途上と言うところね」


「空間魔法?」


「四大属性魔法は分かるかな? 魔力がある世界だと、最終的に空間魔法か時間魔法に行き着くのよ」


 意味が分からない。しかし、この人は僕よりもずっと先を知っていることだけは理解出来た。


「僕の世界では、火水風土の魔力操作だけでした。それが、四大属性魔法で合っていますか? 僕は魔力がなかったので実演は出来ません。知識としてしか話せないのですが……」


 女性が微笑んだ。


「君も魔力を持っているのだけどね。それにしても、随分と異常なスキルを持っているのね。魔力は全てスキルに取られているので、君は魔力がないと勘違いしてるってわけね」


 良く分からない。魔法は、成人の儀で決まるものだと思っていたのだが。

 僕が思考を始めると、女性が指輪を差し出して来た。


「これは何ですか?」


「スキルに振り回されている君へのプレゼント。指にはめれば、一時的にスキルを封印することが出来るわ」


「スキルを封印して、僕に何の利益があるのですか?」


「体を鍛えたいのではなくて? そんな貧弱な体では、そのスキルは使いこなせないでしょう?」


 ハッとする。体を成長させられる?

 気がつくと僕は指輪をはめていた。



 感じる……。スキルがなくなった感覚だ。僕のスキルは、一日に100キロメートルを走れるエネルギーの生成と疲労物質の解毒がメインだ。

 それがなくなった感覚……、お腹が『ぐ~』と鳴った。


 赤面してしまう。

 僕のお腹の音を聞いて女性が微笑んだ。


 女性は、手際良く料理を行い、テーブルに並べた。とても美味しそうな匂いだ。


「さあ、食べてしまって。話はそれからにしましょう」


「……ありがとうございます。頂きます!」


 食欲には抗えず、行きよい良く口に詰め込んだ。


「……美味しい!」


 今まで食べたどんな料理よりも美味しかった。

 女性は微笑んでいる。


「君と私には、千年前くらい歴史に差がありそうね。スキルや魔法だけではないわ。料理や科学も君に教えたら面白そうね」


「あなたは、僕より千年後を生きているということですか?」


 食べながら質問をする。


「私はヒルデガルト。ヒルデと呼んでね」


「はい、ヒルデさん」


「食べながらで良いわ。少し質問に答えてね。まず、そのスキルが発現したのは何歳だったの?」


「十五歳です。成人の儀で発現しました」


 ヒルデさんがため息を吐いた。


「早すぎるでしょうに。せめて、十八歳か二十歳であれば、君も色々と活躍出来たのにね」


「百年くらい前は、二十歳で成人の儀を行っていたと聞きました」


「まあ、そうよね。君の世界は、今後百年を掛けて成人の儀の時期を調整するのでしょうね」


「成人の儀ですか? 僕は、スキルを授かるとしか意味を知らないのですが、ヒルデさんは何か知っていますか?」


「私の生きた時代にはなかったけど歴史として知ってはいるわ。私の世界では、【職業】を授かる儀式だったかな……。職業が発現するとそれに伴って、スキルや魔法が使えるようになる……だったかな?」


「無くなった理由は何ですか?」


「スキルと魔法の根源が解明されてね。誰でも希望のスキルと魔法が使える世界になったの。まあ、職業システムは不便なことが多かったら、結局は廃れてしまったのよ。転職が出来ないと言っても分からないわよね?」


「転職ですか? 鍛冶師から錬金術師になるとかですか?」


「あら? 言葉は伝わっているのね。その通りよ」


 ここで食べ終わった。もっと食べたいが、腹八分目で終わりとする。


「ごちそうさまでした」


「おそまつさまでした」


 互いに笑い合う。


「それでは、スキルと魔法の根源について教えることから始めましょうか」

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