第6話 出会い
「っは!?」
意識を取り戻した。寝ていたわけではない。背中に何かの感覚を受けて、意識を取り戻したのだ。
周りを見渡すと、草原であった。
膝くらいの草のベット。
背中を打ちつけることもなかった。
とにかく状況の確認だ。地面は柔らかい草であり、体に損傷はない。服というか装備もダンジョン突入時のままだ。薬品も残っている。そして短剣を抜いて刃を確認する。
数度だが、魔物と戦ったことはある。今は、このナイフ一本が命綱である。
とにかく警戒をしながら周りを見渡す。
この草原は、森の中の一部らしい。少し距離はあるが、離れたところに密集した樹があり、この草原を囲んでいた。
そして、川と家が目に入った。
家の煙突からは、煙も出ている。
選択肢はない。
僕は、家に向かった。
◇
とりあえず川に着いたので、掬って飲んでみる。飲料水として問題なかった。というか美味しかった。
恐る恐る家に近づく。
家は、石造りの大きめの作りだった。二階建てである。
逡巡する。誰かがいるのであろう。
僕はダンジョンにいたのだ。ここもダンジョンだと思う。もしくは、異世界転移かもしれないが、ダンジョン内にいると思った方が良いだろう。
最悪なのが、フロアボスだった場合だ。僕では瞬殺だろう。
僕は、スキルにより〈資源〉を必要としない。戦闘さえなければ、いや、即死する怪我さえ負わなければ、僕は寿命まで生きられるだろう。選択を誤らなければ、ダンジョン内でも生存し続けることは出来るはずである。
もう帰る場所もない。そして、生きる意味もない。
唯一上げるのであれば、ネーナにまた会いたと言うくらいだろうか。
余計な思考をしていると、家に変化があった。
ドアが開いたのだ。
入ってこいと言うことだろうか。
罠かも知れないと思ったが、相手から姿を現した。年上の綺麗な女性……。
「……警戒しなくて良いわ。入って来て」
安心してしまった。人形の魔物もいるそうだが、どう考えても同じ人族である。
ダンジョン内なのかもしれないけど、生活している人がいるのだな。
一礼して、招かれるままに家に入る。
◇
「ここは、ダンジョン内ではないのですか?」
「ええ、そうよ。この空間は私の作り出した空間なの。まあ、ダンジョンと同じ作りかな」
「僕の知識では、そんなスキルはありませんでした。あなたは何者ですか?」
「私は、君とは別な世界の住人かな? 君からすれば異世界人が正しいのだと思う。そして、スキルと魔法が少しだけ進んだ世界の異世界人のようね。空間魔法の利便性を理解してないところを見ると、君の世界はまだまだ発展途上と言うところね」
「空間魔法?」
「四大属性魔法は分かるかな? 魔力がある世界だと、最終的に空間魔法か時間魔法に行き着くのよ」
意味が分からない。しかし、この人は僕よりもずっと先を知っていることだけは理解出来た。
「僕の世界では、火水風土の魔力操作だけでした。それが、四大属性魔法で合っていますか? 僕は魔力がなかったので実演は出来ません。知識としてしか話せないのですが……」
女性が微笑んだ。
「君も魔力を持っているのだけどね。それにしても、随分と異常なスキルを持っているのね。魔力は全てスキルに取られているので、君は魔力がないと勘違いしてるってわけね」
良く分からない。魔法は、成人の儀で決まるものだと思っていたのだが。
僕が思考を始めると、女性が指輪を差し出して来た。
「これは何ですか?」
「スキルに振り回されている君へのプレゼント。指にはめれば、一時的にスキルを封印することが出来るわ」
「スキルを封印して、僕に何の利益があるのですか?」
「体を鍛えたいのではなくて? そんな貧弱な体では、そのスキルは使いこなせないでしょう?」
ハッとする。体を成長させられる?
気がつくと僕は指輪をはめていた。
感じる……。スキルがなくなった感覚だ。僕のスキルは、一日に100キロメートルを走れるエネルギーの生成と疲労物質の解毒がメインだ。
それがなくなった感覚……、お腹が『ぐ~』と鳴った。
赤面してしまう。
僕のお腹の音を聞いて女性が微笑んだ。
女性は、手際良く料理を行い、テーブルに並べた。とても美味しそうな匂いだ。
「さあ、食べてしまって。話はそれからにしましょう」
「……ありがとうございます。頂きます!」
食欲には抗えず、行きよい良く口に詰め込んだ。
「……美味しい!」
今まで食べたどんな料理よりも美味しかった。
女性は微笑んでいる。
「君と私には、千年前くらい歴史に差がありそうね。スキルや魔法だけではないわ。料理や科学も君に教えたら面白そうね」
「あなたは、僕より千年後を生きているということですか?」
食べながら質問をする。
「私はヒルデガルト。ヒルデと呼んでね」
「はい、ヒルデさん」
「食べながらで良いわ。少し質問に答えてね。まず、そのスキルが発現したのは何歳だったの?」
「十五歳です。成人の儀で発現しました」
ヒルデさんがため息を吐いた。
「早すぎるでしょうに。せめて、十八歳か二十歳であれば、君も色々と活躍出来たのにね」
「百年くらい前は、二十歳で成人の儀を行っていたと聞きました」
「まあ、そうよね。君の世界は、今後百年を掛けて成人の儀の時期を調整するのでしょうね」
「成人の儀ですか? 僕は、スキルを授かるとしか意味を知らないのですが、ヒルデさんは何か知っていますか?」
「私の生きた時代にはなかったけど歴史として知ってはいるわ。私の世界では、【職業】を授かる儀式だったかな……。職業が発現するとそれに伴って、スキルや魔法が使えるようになる……だったかな?」
「無くなった理由は何ですか?」
「スキルと魔法の根源が解明されてね。誰でも希望のスキルと魔法が使える世界になったの。まあ、職業システムは不便なことが多かったら、結局は廃れてしまったのよ。転職が出来ないと言っても分からないわよね?」
「転職ですか? 鍛冶師から錬金術師になるとかですか?」
「あら? 言葉は伝わっているのね。その通りよ」
ここで食べ終わった。もっと食べたいが、腹八分目で終わりとする。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
互いに笑い合う。
「それでは、スキルと魔法の根源について教えることから始めましょうか」
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