第4話 別な勇者
また、七日かけて開拓村に帰って来た。
明日は休みだ。というか、この十五日間の情報を集めて、ネーナと会話するための情報を集めなければならい。
まず、魔法紙の確認だ。
魔法紙とは、魔法を使用した情報伝達手段である。国中の情報を集めることが出来る。
開拓村や各関所、王城の情報も得ることが出来る。
魔法紙の技術が進めば、僕の仕事も無くなるかもしれないが、そうは上手く行かないらしい。
大量の複製を作るには向いているが、短文を送るのは不向きらしい。各関所に、魔法紙を作れる人材を配置してリレーの様に伝達すれば良いのだが、一人につき日に1~2回しか出来ないのでは、実用性に欠けるのだそうだ。
「ふむ。第五の関所で魔物が出たのか。でも怪我人多数だが、死者無し。それとダンジョンで死亡認定されたパーティーが出た……と」
とりあえず、大雑把に国の情報を得ることが出来た。
後は、開拓村の話題集めだな。
とりあえず、開拓村を一通り見て回る。
鍛冶場、炊事場や洗濯場、そして関所作り。石切場や木材加工場もある。唯一娯楽施設が無いが、皆不満なく働いている。
この国の未来を担う人達。その過酷さにも負けずに黙々と働いていた。
始めにこの開拓村に来た時に聞いたことがあったのだが、『関所が出来れば残りの人生は遊んで暮らせる』と言って、お酒を煽っていた。皆、責任感を持って仕事に勤しんでいる。
そんなことを考えている時であった。
「おい、残念勇者! そこにいたのか!」
呼ばれた方を見る。そこには僕以外の〈勇者〉の称号を受けた二人がいた。
「こんにちは。勇者さん。何か御用ですか?」
〈超回復:負傷〉の勇者、ロベルト。
そして、〈超回復:魔力〉の女勇者、イルゼ。
開拓村で、魔物を屠っている二大勇者だ。
「ふ~ん。『勇者さん』ね。あなたも勇者の称号を持っているじゃない?」
「おい、イルゼ。そういじめてやるなよ。もうすぐ称号剥奪が分かってんだからさ」
この二人は貴族である。幼少期より魔物駆除の鍛錬を積み上げた人達であり、〈超回復〉のスキルを遺憾なく発揮していた。開拓村に現れる魔物を、この二人でかなりの数を屠っている。
過去に〈超回復:負傷〉と〈超回復:魔力〉を持つ者は、大きな功績を残しているのだ。この二人は開拓村どころか国民の期待を一身に背負っている。そして、見事に結果を出していた。
僕は、孤児だったので鍛錬どころか、毎日雑務しか熟して来なかった。この差はとても大きな物となっている。
成人の儀の後、いくら特訓しても何も覚えられなかったのもあるのだが……。
「これからダンジョンに潜るのだが、人手が足らない。連絡要員だがお前も着いて来い」
ロベルトから意外な命令が来た。
なんだ? こんなことはありえない。僕は、〈配達人〉で開拓村には役に立たないが、僕にしか出来ないことがある。
僕が怪我をすれば、それこそ王城との連絡は途絶えてしまう。詳細な情報が伝わらなくなってしまうのだ。
違和感を感じる。
「何か変わったことでもありましたか?」
「良いから、黙って着いて来いよ」
「ロベルトの命令よ? 断れるの?」
「今日僕は、休日を頂いています。また、明日から王城に向かう準備もあるので時間は割けないのですが」
ロベルトが舌打ちする。
「なあ、ビット。簡単な仕事だけでなく、たまには開拓村の役に立とうとか思わないのかよ? 休暇なら明日にするように俺から進言しておいてやるよ」
こう言われると断る理由が無くなる。
ロベルトはこの開拓村の実質的な責任者である。命令と言われたら断れない。
「分かりました。同行します」
二人が、獰猛な笑みを浮かべた。これは何かあるな。逃げる準備だけはしておこう。
この二人からの嫌がらせは常に受けてきた。嫌がらせで怪我をするだけならばまだ良いが、〈配達人〉としての仕事を奪われるのは避けたい。
僕は、ネーナに貰った短剣を握りしめた。そして立ち上がり、ロベルト達に付いて行く。
その後、三人の男性が合流して、計六人となった。
こうして六人で、ダンジョンに潜ることになる。
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