第3話 王城と姫様
七日かけて王都に着いた。
今回も魔物も出ず、とにかく順調な旅路であった。
衛兵に挨拶をして、王城に入れて貰う。
控室で待っていると王様と大臣が入って来た。
いつも通り、頭を下げて王様に書簡を渡す。
「ふん。残念勇者か……。月に二回そなたの顔を見るのも飽きてきたな」
王様が手紙を受け取り、部屋から出て行く。
王様が返事を書いている間、僕は控室で待機だ。
メイドさんがお茶を入れてくれた。何時ものように、汗で汚れた着替えを渡して、洗濯された服を受け取る。
一応、〈勇者〉の称号を得ているので、〈残念勇者〉であっても、城のメイドさん達は僕には優しい。
それほど開拓村は過酷であり、多くの人が命を落としていることを知っているのだ。
〈残念勇者〉であろうが、開拓村に席を置く者は、尊敬されているのだ。王族貴族や開拓村の過酷さを知らない人以外にはだが。
お茶を飲み。一息吐く。
「ふぅ~」とため息をつくと控室の扉が開かれた。
豪華なドレスを着た少女が入って来る。
「これは、ネーナ王女様。ご機嫌麗しく」
頭を下げて、挨拶をする。
扉が閉まり、二人きりになった。
「チョープ!」
僕の額を軽く叩く王女様。正直、威厳がない。
「お・う・じょ・さ・ま。そういう態度はいけませんって」
「婚約者に何を言っているのかしら? それよりも開拓村の話を聞かせてよ。待っていたのだから」
一応、〈勇者〉の称号を得た時に、婚約したことにはなっている。
一定の成果を上げるか、関所が完成すれば、結婚することになっていたのだが。まあ、もうすぐ婚約破棄になるのは目に見えている。でもネーナはそんな僕を慕ってくれている。正直嬉しいが、申し訳ない感がいなめない。
「開拓村は、関所の土台が半分出来上がったところですね。魔物は、こないだ大蛇を他の勇者が狩っていました」
「大蛇の大きさは?」
「5メートルくらいですね。数は、二匹といったところです」
「もっと詳しく教えてよ!」
僕は、開拓村にいる時間は、休日の一日だけなのだが。それも、ネーナに話す為のネタを集めるために使っている。
その後は、大蛇の毒の話や、大蛇のステーキの話をして、ネーナのご機嫌を取った。
「そういえば、ダンジョンから珍しい物が出たらしいね」
「え? 三番目の関所のダンジョンかしら? 魔剣というか、槍が出たのよ。〈剣聖〉には合わなくてね、今のところ〈槍聖〉とかいないし。誰に持たせるかで揉めているところかしら」
人類領にも、未踏破部分はある。それは、ダンジョン……迷宮である。
空間が歪んでいることしか分からない。だが、人類が作れる技術をはるかに凌ぐ道具を産出することがある。
また、魔石と呼ばれる石が産出される。魔石は燃料となり、人類の生活を支えていた。
ダンジョン探索も一攫千金を狙う者達で溢れていた。まあ、衛兵になれなかった攻撃系スキル持ち達が行き着く先である。
そして魔剣とは、ダンジョンから算出される、魔力を帯びた武器である。その性能は、人族が製作した武器よりもはるかに凌いでおり、高値で取引されていた。その中でも飛び抜けた性能を誇る魔剣は、国宝認定され、実力者に所有させている。
しばらくの間、二人で歓談というか、情報交換を行っていた。そんな時に、大臣が部屋に入って来た。
「今回の返書だ。ったく、そなたが開拓村に貢献出来ていれば、さらに関所完成が進むと言うのに! 王城で王女様と歓談とはな。職務怠慢もはなはだしい」
大臣は僕を睨んでいる。
それでも、黙って返書を受け取った。
ネーナは、すごい目で大臣を睨みつけている。ちなみに、この大臣はネーナの叔父に当たるそうだ。
その後、大臣が部屋から出て行った。
「それじゃ、僕はもう行くね。また、十五日後に」
「ねえ。王城には泊まれないの?」
「〈残念勇者〉に貸せる部屋は無いそうです。以前、聞いたじゃないですか」
「私の部屋に泊まれば良いじゃない」
「ネーナ。自分の立場を理解してね」
頬を膨らませる、ネーナ。可愛いな。
ネーナが僕の頬にキスをして来た。これだけでも、王様の耳に入ったら僕は王城への入場を拒否されそうだ。
王城を出て、自分の家で一泊する。月に二回寝るだけの部屋だが。
「そういえば、今日は何も食べてないな。まあ良いか」
食欲よりも睡魔に襲われて、そのまま眠りについた。
朝日が昇ったので出発だ。
お城のメイドが洗濯した服を着て、リセイ関長に貰った靴を履く。
外に出て、体中の骨をポキポキと鳴らす。
「さて、今日も走るか」
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