第2話 配達人

 王都へ向かう途中には、七つの関所と街がある。この関所は、100キロメートル間隔で建てられている。

 僕のノルマは、一日で関所間の移動だ。朝から走れば、日暮れ前後には次の関所にたどり着ける。


 もう何度も往復した道を、ただひたすら走る。

 川が見えると田畑が広がっていた。耕しただけで、まだ何も芽は出ていないが。

 その先には小さい集落がちらほらと見え始めた。


「この辺にも人が入植し始めたのか……」


 僕は走りながら一人言を呟いた。前回は目に入らなかったので、多分この数十日で移動して来た人達だろう。


「少しくらい寄り道も良いよな?」


 また独り言を呟いて、その集落に向かった。



 少し離れた場所から集落を見る。

 家の数は五軒であり、若い人達が、田畑と放牧を行っていた。少し離れた所に同じ様に家が見える。今回は、数十人単位での入植みたいだ。

 集落の周りには柵もあり、害獣対策もされている。何の【スキル】も持たない人達ではこうはいかない。建築系や生産系の人達であろう。それと、戦闘系の【スキル】持ちもいるはずだ。

 短期間で見事な集落が出来ているので感心しながら、その場を後にするはずであった。


「きゃあ!?」


 声を聴いて、反射で前を向くと、目の前に女性がいた。

 ぶつかる直前で方向転換をして、僕は地面を転がる。危ない、轢くところであった。ラッキースケベ? ありませんでしたよ?

 それとその女性は、尻もちをついて、痛がっていた。


「すいません、大丈夫ですか?」


 その女性に駆け寄る。


「あ、大丈夫です。……つかぬことをお聞きしますが、どなたですか? 関所の方ではないですよね?」


「僕は開拓村の住人です。開拓村と王都を往復しています」


 驚く、女性。手を差し伸べて立たせる。


「……もしかして、勇者の方ですか?」


「はい、一応勇者の称号を貰っています」


 ジロジロと僕を見て来た。そして、その後にため息をつかれた。


勇者さんですか。お仕事頑張ってくださいね」


 そう言うと、その少女は集落の方に向かった。

 僕の噂も広まっているのだな。

 役に立たない残念勇者。


 気を取り直して、関所に向かう。とんだ寄り道になってしまったものだ。

 そのまま、日暮れ前に次の関所に着くことが出来た。


「おお、来たか残念勇者! 今日は何時もより遅かったな。何時も定刻通りなのに何かあったのか?」


 嘲笑を含んだ僕のあだ名を、衛兵が言う。


「こんばんは、衛兵さん。この辺もだいぶ人が増えまてきましたね。集落を見て来たのですが、魔物は出ていませんか?」


「う~ん。まだ、魔物は出ているな。ここはまだ、魔境と近いからな。関所を通って来るのか元から住んでいるのかは分からんが、魔物の駆除は終わっておらんよ。まあ、実際のところ内地でも魔物は出ているしな……」


「そうですか。でも衛兵さん達がいれば、被害は出ませんよね?」


 衛兵は満面の笑みである。

 僕をバシバシと叩いてきた。


「俺達をお伊達ても何も出ないぞ。まあ、俺達の活躍とこの関所のおかげで、ここ数年魔物による被害は出ていないがな」


 ちょろいなこの人。


「それでは、通らせて貰いますね」


「ああ、怪我には気をつけるんだぞ。それとちゃんと休めよ」


 口は悪いけど、良い人である。





 関所の中は、衛兵が約千人待機している。新しく人類領となった集落を毎日往復して、魔物の発生の有無の確認や各街の状況を確認しているのだ。また、〈千里眼〉や〈順風耳じゅんぷうじ〉といった【スキル】持ちがいれば、索敵により被害が出る前に魔物を倒せる。この衛兵達はエリートなのだ。


「おお、ビットか。何時も時間通りだな。いや、今日は少し遅いか?」


 背後から不意に声を掛けられた。


「こんばんは、リセイ関長。今晩もお世話になります」


 一礼する。

 この人は、この関所の最高責任者。長官だ。そして、戦闘のスペシャリストでもある。【スキル】は、〈魔法剣〉だ。

 剣に魔法を纏わせて戦うという、いわば二重スキル。レアであり、正直羨ましい。

 また、実績も確かであり、屠った魔物の数は知れず、人望も厚いという完璧を地で行く人だ。

 本当に尊敬出来る人である。


「靴はまだ大丈夫か? 支給のブーツであれば持っていって良いぞ?」


 靴底を見る。かなりすり減ってしまっていた。もう少しで壊れそうだ。それを見たリセイ関長が、僕を備品室に案内してくれた。

 そして、僕の足にあった靴を渡してくれる。


「ありがとうございます」


 感謝しながら受け取る。


「君はまだ若い。真面目に仕事をしていれば、転機も訪れるだろう。諦めずに頑張るんだぞ」


 各関所の人達は、開拓村の過酷さを知っている。なので、僕をからかうようなことは言うが、蔑んだり暴力を奮って来ることは無い。

 さっきの集落の女性は、内地から来たのだろう。これから、過酷な生活が待っているのだ。あのくらいは目をつぶろうと思う。

 まあ、明日には忘れている人である。



 今日はここで、部屋を用意して貰って休む。日が昇ったら、また次の関所に向けて出発だ。

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