勇者の称号を剥奪された体力バカ~「超回復:体力」を魔力とステータスに変換して無双します~

信仙夜祭

第1話 プロローグ

 「おい! 無能! 速く手紙を届けてこい!」


 「は、はい!」


 これが僕の仕事だった。まあ、朝の挨拶とも言う。

 僕の名前は、ビット。一応、〈勇者〉の称号を受けている。

 何故、一応かと言うと、今現在進行形で称号を剥奪されそうだからだ。



 この世界の人類の土地はまだ狭い。

 人類より強い魔物が、多くの土地を闊歩しているんだ。いや、強いと言うより大きい……かな。人類は、狭い土地で何とか生存している状況だ。

 そんな時に【スキル】が発見された。

 【スキル】にて魔法の奇跡や身体能力の強化を生み出すことによって、人類は初めて魔物に勝つことが出来た。


 そして、五百年掛けて人類が使える土地を増やして行った。

 時々、山の様な魔物が現れて、作りたての街を消すこともしばしばあったらしい。

 それでも、人類は土地を増やして行くことが出来た。

 まあ、簡単に言えば開拓だ。

 僕達の役目は、魔物を駆除して使える土地を増やす……。ただ、それだけだった。



 この世界では、十五歳で成人の儀がある。その成人の儀にて、【スキル】を与えられる。このスキルシステムにより人類は、魔物と争う力を得ることが出来た。

 しかし、この与えられた【スキル】により、その後の人生が決まると言っても良い。

 殆どの人は、生産系の【スキル】を与えられる。〈鍛治〉や〈農業〉等は、危険は無いが夢も持てなくなる。

 〈剣術〉や〈火魔法〉等の攻撃系は、優遇される。各街で魔物が発見されれば対応するためだ。ただし、怪我をして引退する者が殆どとなる……。


 だけど、特別な【スキル】も存在する。それが、〈超回復〉だ。

 〈超回復:負傷〉を持った者が現れて、多くの魔物を屠った。どんなに大怪我を負っても、一度対峙した魔物は必ず討ち取ったんだそうだ。そしてその者を中心とすることで開拓が大いに進んだらしい。

 その者は、初めて〈勇者〉の称号を得た人物だった。


 その後に、〈超回復:魔力〉を持つ者が現れた。その者は、無限の魔力にて魔物を駆除して行った。〈勇者〉の称号と共に〈魔導師〉の称号も受けた人物だった。


 そして、僕だ……。僕は、〈超回復:体力〉を与えられた。

 成人の儀で発覚した時は、大喜びされたことを覚えている。王城で接待を受け、豪華な料理も振る舞われた。

 そして、開拓村に来ることになった。この時は、意気揚々であったことを覚えている。僕の名前が人類史に残るのだと思っていたからだ。

 しかし、そこからが地獄だった……。


 まず、僕のスキルは魔物との戦闘には活用出来ない。逃げ回ることしか出来なかったのだ。怪我の回復具合も普通の人と同じ。

 ノコギリで樹を切ることも出来るが、そもそもフィジカルが低いので、他の人と変わらない。

 ただ走るだけなら、一日に100キロメートルは走れるけど、スピードは出ない。また、重い荷物を背負ってとなると、歩く速度しか出ないので、他の人と変わらない。まあ、距離が距離なので、手紙であれば、馬よりも速いだけだ。


 これではいけないと、とにかく筋トレしたけど、まったくの効果なし。どんなに腕立て伏せしようが、腕は太くならなかった。

 腕力で女性に負けるレベルで止まっている。


 とにかく色々な仕事を請け負ったけど、開拓村には人類のトップレベルの人が多くいるんだ。どんな仕事を請け負っても僕は成果が出ず、邪魔者扱いだった。


 最終的に、開拓村と王都を往復する、〈配達人〉となった。

 とにかく期待を込められた〈超回復〉持ちが、魔物との戦闘に役立たないどころか、開拓村の足手まといだ。

 まわりの落胆と失望が、僕を襲った。


 それでも、なんとか〈配達人〉に収まって仕事を得ることが出来たので、今は落ち着いている。だが……。


「さて、今日も走るか」


 こうして僕は、700キロメートル離れた王都へ、今日も走ることになる。

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