第11話 (閑話)テイム・ザ・ゲイム

 さて。俺が考えなしなのは否定しないものの、俺の仲間たちは考えなしではないのだ。

 特に、<ワイルド・スライム>のブラザーたち。そして、素直で物静かな<ピュア・スライム>たちも。ダンジョン内が寂しいので魔物やら獣やら有望な新人をスカウトしてきてくれないかと頼んでみたところ、快く引き受けてくれた。

 【召喚サモン】や【使役契約テイム】したばかりの魔物は使役主マスターなしでは行方不明になっちゃうらしいけど、ウチのスライムたちは【魔物合成】とレベルアップで完全に意思疎通ができるようになったので問題ない。問題があるとしたら、むしろこちらの意を汲み過ぎて暴走しちゃわないかって方だ。


「スライムたち、みんな外に出てるの?」

「半分だけですね。もう半分は、ダンジョン内で受け入れ環境を作ってくれています」


 マールのコメントで俺は首を傾げる。


「環境を作る?」

「スライムには環境改良する習性があるんです。<ピュア・スライム>は汚染浄化ですが、進化後の<ワイルド・スライム>ですと自律的に環境構築が可能ですね」


 ミミズが土壌改良するみたいな、それの上位互換みたいなもんか。

 マールに聞いた話ではそれ以上で、遠征チームが外で生き物を見つけて、留守番チームがそれの順応しやすい環境を作るようだ。すげえなスライム。小規模な神だろ、それ。


「ここの土も、最初はスライムたちの協力で改良されたんですよ」


 俺たちが見回りに来ているのは、ダンジョンの三階層。丈の長い草が生茂る草原だ。上のフロアから湧き水が流れ込んでいて、一部は湿原になっている。

 きれいな水と穏やかな気候、ダンジョン内なのになぜか日が差している。いつも小春日和の良い陽気で、草花の育成にはもってこいだ。出会ったときには萎れて枯れかけていた<アルラウネ>も、いまでは“穏やかなセクシーお姉さん”という見た目になっていた。

 釣鐘状の花弁は、本物の釣鐘くらいのサイズ。それに包まれているアルラウネ姉さんの肢体は、ほぼ全裸に近いので目のやり場に困る。下腹部は花弁の下で見えないし胸元はツタで申し訳程度に隠されてはいるものの、そのツタは触手なので何かするたびヒョイヒョイと離れていってしまうのだ。

 近くにいると思わず挙動不審になって、マールから醒めた目で見られてしまう。


「メイさん、顔が赤いです」

「そらそうだろ。無理言うな」

「魔物ですよ?」

「かもしれんけどさ。それを言うなら、俺たちだって魔物みたいなもんだろ」


 姉さんは三階層いっぱいに草花を広げてくれているのだが、広大なフロアには彼女の発する甘い香りが漂っている。なんというか、ナチュラルな香水みたいな。けして嫌な香りではないのだけれども、フェロモンなのか誘引物質なのか精神的に影響を受けているようなのがちょっと気になる。


「ねえアルラウネ、この香りって……?」

“祈りよ”

「え?」


 うふふ、と妖艶な笑みを返される。念話で伝わる声は、ちょっとハスキー気味のセクシーボイス。

 リアクションに困る上に、言ってる意味がよくわからない。ウチの子たちは、それぞれジャンルは違うけど、みんな不思議ちゃん系である。


“ますたー♪”

“あら、ハーピーちゃんたちね”


 パタパタと羽ばたきの音がして、<ハーピー>がふたり、舞い踊るように飛んで来た。

 こちらはこちらで露出が激しいというかなんというか。腕と足、あと尾羽が鳥で、他は小学生くらいの女の子。胸元と腰回りは羽毛で隠れてはいるのだが、オッサンは思わず「服着ろ」と言いそうになるのだ。

 まあいい。


「どした」

“すらいむちゃーん、いろーんなの、いっぱーい♪”

「???」


 うん。なんとなくわかった。新しいお仲間を捕獲スカウトしてきてくれたんだな。

 マールと見回りがてら四階層に向かう。二階層の湧き水が三階層を潤した後で四階層に落ちる。そして肥沃な土と草花の栄養分を含んだ水が、ここで湖になっている。

 機能制御端末コンソールによる環境形成から日がないので湖はまだ小さく浅いが、少しずつ着実に広がっているのがわかる。この湖面の先に、ダンジョンの裏口を作ったのだ。外に出るスライムたちも、出入りにはそこを使ってもらっている。


「おかえり」

“♪”


 大漁大漁、みたいな感情が伝わってくる。そのまま湖面の端まで行って、みんなでボトボトと戦果を放出してくれたのだが。

 ボトボトボトボトボトボトボト……魚とか鳥とか、放された途端にビックリした感じで逃げてゆく。


「すごい生きが良いな。スライムの収納能力って、生き物も入れられるんだ……」


 ボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボトボト……


「……ちょい、待て」


 スライムたちが出してきたのは、大きな魚が五、六匹に小魚が十数匹、アヒルみたいな水鳥やら小鳥やら虫やら小さめのシカやらイノシシやら。

 掛けることの、スライム遠征チームが四、五十体。となると、急にダンジョン内が生き物でいっぱいになってゆく。すぐに各フロアへと逃げ散ってくから、そのうち馴染むんだろうけれどもさ。


「マール、スライムの収納って、あんなに大容量なのか?」

「ぐんぐん成長しているみたいですね」


 見た感じ、そんな生易しいものではないようなんだけれども。ちっこいノアの方舟みたいになっとるぞ。

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