第10話 襲撃者たち

「そんな、開放前のダンジョンに部外者が入り込めるはず、が……」


 浮いているコア本体たまに触れたマールが、ギョッとした顔で俺を見る。

 分身体アバターにも察知できなかったか、俺が何かするとは思っていなかったのか。


「……メイさん、まさか」

「うん。少し前から【魔導防壁】と【隠蔽魔法】を弱めておいた」

「なぜ⁉︎」


 完全に遮断するのは自殺行為だ。だが、完全に守られている状態では、ダンジョン・コアの魔力を超えるもの――生き物としてはあり得ないレベルの化物――しか入って来れない。

 叙爵式まで間がないいま、それも緩やかな自殺行為にしかならないのだ。


開明的なひらかれたダンジョンを目指そうと思って」


 明るく言ってみたけれども、マールはピクリとも笑ってくれなかった。それどころではないのだろう。彼女にとっては死活問題だ。もちろん、それはわかっている。


「正直に言えば、ダンジョンの成長のために、野生動物と魔物の流入が必要なんだよ。できれば人間もだ」

「……餌、ですか。ダンジョンと、魔物の」


 俺は頷く。


「ああ。あのなかに、ケイアン・ダンジョンの関係者はいるかな」

「……いいえ。魔力も装備も動きも、ごく一般的な冒険者ですね。ランクはD、中堅下位です」


 マールがコアをタップすると、男たちの声が伝わってきた。


『お、おい!』

『しッ』

『ヤバいって。ここ、あれだろ。一年くらい前に踏破された、エルマール・ダンジョン……』

『再生してるなんて聞いてねえな。冒険者ギルドも把握してないのか?』

『王都のギルドは裏で貴族と繋がってるからな。なんか企んでるのかもしれねえぞ』

『なに、心配ねえ』


 男たちのひとりが、小馬鹿にした顔で笑う。


『元々が死にかけのゴミダンジョンだ。再生しようがするまいが同じことよ』

『そ、そうだな。だったら、俺たちがか』

『ああ。見てろ、ここで万年Dランクの汚名返上だ』


 なにやら勝手に盛り上がって勝手に結論に達したようだ。男たちは急にやる気を見せて、それぞれに剣を抜く。

 年齢不詳な四人組だけれども、案外あれで古株の冒険者みたいだな。


「いいな。最初にしては悪くない相手だ」


 俺は笑った。できるだけ穏やかな表情に見えるように。

 ひとを殺すのは初めてだ。それも、何の恨みもない相手を。


「あの……メイさん、階層内の魔物はどこまで配置されていますか」

「されてない」

「え」


 俺の余裕を準備万端と見ていたようだけれども、残念ながら考えなしなだけだ。ダンジョン・マスターとしては新米だしな。コアの機能制御端末コンソールで簡単にレイアウトと動線は組んだけど、ここから先は稼働させてみないと現実的な対策はできない。

 なので、サンプルが必要だったのだ。


「<ワイルド・スライム>のみんなには、好き勝手に散らばってもらってる。<ピュア・スライム>は入り口近くに配置してるし、三階層めを<アルラウネ>に任せてる。けど、それくらいかな」

「で、では……<ハーピー>は?」


 どうだろ。あの子たち、ワイルドブラザーを超える自由人だからな。なんだか俺の魔力を吸ってグングン成長してはいたけど、“今後に期待”で結果は確認していない。


「たぶん二階層から三階層にいくところの吹き抜けだろな。ウチで自由に飛べる空間って、そこだけだし」

「……」


 この世の終わりみたいな顔してる。マールにとっては、ある意味でその通りなんだろうけれども。

 男たちが、ダンジョンの奥へと進み始めた。


「心配ないって。みんなに任せてみよう」

「でも、それでダメだったら?」


 俺はマールを振り返って、肩を竦める。


「心配する必要がなくなる」

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