第十一話 グライツァー
ガィンッ
金属が激しく衝突する音が戦場に響く。
《ぐぅっ……!》
『ぬ、おぉっ……!』
敵メイルが振り下ろした大剣を、桐山がシールドで受け止めた音だった。
振り下ろされた大剣は、見るからに大質量で並の盾であれば諸共両断していたであろうことは明らかである。
しかしシールドは両断されるどころか、しっかりと真正面から大剣を受け止めている。
《な、何という膂力だ……っ!?》
おまけに桐山の機体グライツァーは左腕一本で支えている。普通であれば関節にかなりの負荷がかかる筈だが、それを全く感じさせない。
『舐めんじゃ……ねえっ!!』
《うおっ!?》
桐山がペダルを踏み込みながらコントロールスティックを押すと、何と片腕だけで敵メイルを大剣ごと跳ね除けた。
そのまま距離を取ると、中断されてたリロードを再開。右手のマシンガンに新たなマガジンが装填される。
《ぐっ、この膂力に堅牢な盾……これ程とは》
《なら、同時にかかればっ!》
予想外の堅牢さとパワーに戸惑いを見せたが、ならばと今度は二領がかりで襲いかかる。
『チィッ!うざってえ!!』
マシンガンで牽制するが、敵メイルはまるでホバーのように地面を自在に滑り、決定打を受けないようにしている。
《フンッ!》
『ぐっ!?』
接近した敵メイルが横薙ぎに振るった剣を、機体を後退させて回避するが、続けざまに先程の敵メイルが大剣で斬り掛かってくる。
『危ねっ!?』
その攻撃はシールドで受け止めたが、敵はそのままメイルを僅かに地面から浮かせると、桐山の機体を蹴り飛ばした。
『おわっ!?』
バランサーが働いたのと、咄嗟にペダルを操作したことで転倒こそしなかったものの、大きく体勢を崩されてしまう。そして、敵はその隙を見逃さなかった。
《喰らえっ!!》
『っ!?』
もう一領のメイルが桐山のメイル目掛けて剣の切っ先を向けて吶喊してきた。桐山の機体は体勢を崩されたせいでシールドを構えることができない。
剣は真っ直ぐ桐山の機体へと吸い込まれていく。
……が。
ガキィンッ
《なっ……!?》
敵の剣が機体グライツァーを貫くことはなく、装甲に弾かれてしまう。
『残念だったな』
《……っ!?しま―――っ!?》
あっけにとられていた敵兵士だったが、気付いた時には肩を掴まれており、コツと胸部装甲に何かが当たっていた。
《っ!?》
『閻魔に挨拶してきな』
桐山がグリップのトリガーを引く。瞬間ドライズマシンガンが火を吹き、至近距離から放たれた15.2mmの銃弾が敵メイルの装甲を貫いた。
『……ふんっ』
もはやただの鉄塊と化した敵メイルを無造作に放り捨てる。
その光景に、残った敵部隊は仕掛けるでもなく、呆然とその場に立ち尽くしていた。
機体を一歩進ませる。敵部隊は構えは解いていないものの、まるで桐山から離れるように後退る。
『こっちの兵器の事は分かんねえけどな、コイツの装甲を甘く見んなよっ!』
コックピットの中で、桐山は敵部隊に向けて啖呵を切る。この自信の元は、彼の乗っている機体にあった。
桐山の機体グライツァー、【流星】は重装後衛型の機体である。後方にて前衛部隊の火力支援を主とするこの機体は、高火力の武装を扱う為に高出力のエンジンを積んでいる。更に剛性を高める為装甲が厚く、生半可な攻撃は通さない。反面機体重量が重く、機動性が犠牲にされているが、用途的に問題はない。
しかし、そんなことを知らない敵部隊からすれば、桐山の機体は得体の知れないモノのように感じられた。
《直撃だった筈だぞ……奴は化け物か》
《ひ、怯むな!どんなに硬くても弱点はある筈だ!》
何とか士気を上げようとするが、そう簡単に恐怖は拭えるものではなく、盾を構えながら距離を取って桐山の様子を窺っているだけで動く様子はない。
『チッ、これ以上時間掛けらんねえ。ある程度注意は引けたみたいだし……使っちまうか。武装切替ウェポン・スイッチ!』
音声入力と同時にスティックのスイッチを押す。
するとサブディスプレイに表示されている武装の情報とHMDに投影されているレティクルが切り替わる。
そして変化は機体にも表れ、構えていたマシンガンを下げるとバックパックの武装が起動、砲身を敵部隊へと向ける。
《な、なんだ?何をする気だ?》
その光景に敵部隊は動揺するが、桐山は構わず敵部隊をマーキングしていく。
そして、ディスプレイに映っている敵メイルをあらかたマーキングすると、更に音声認識でとあるシステムを起動する。
『マーク完了。スキルシステム起動!』
桐山の声に反応して、メインディスプレイにシステムの起動を知らせる表記が浮かび、バックパックの砲身が回転を始めた。
サブディスプレイの情報では、その武装はこう表示されていた。
―――〔GATLING TURRET〕と。
『
ヴィィィィイイイッ!!
叫ぶと同時にトリガーを引く。蜂の羽音にも似たモーター音が鳴り響いた次の瞬間、無数の弾丸が射出された。
《ギャァァァっ!?》
《な、ガアァっ!?》
スキルシステム。
音声入力により、一時的に機体や武装のリミッターを解除することで特殊な行動を可能にする戦術システムである。
負荷が強く、連続した発動はできないが、その効果は絶大。そして、桐山が発動させたスキルは、現在の武装と非常に相性がいい。
《ま、まずい!退―――ギャアアッ!?》
『逃げられると思うなよ!』
このスキル、『
一瞬で敵メイルを蜂の巣にした回転砲は、弾丸の雨を途切れさせることなく次の目標へと降りそそがせる。
『25mmの雨霰、とくと味わいなっ!!』
そして武装、『GT-3リベレーター』。
航空機用のガトリング砲をグライツァー用に再設計した重火力兵装。バックパック左側に搭載された、4つの砲身から絶え間なく撃ち込まれる25mmの弾丸は、対空対地共に効果的であり、その威力は重装型グライツァーですら脅威になる。
それをまともに受ければ当然タダでは済まず、毎分約3600発のペースで放たれる弾丸は、敵部隊を瞬く間に物言わぬ鉄塊へと姿を変えていった。
時間にして10秒も経たないうちに、ガトリングGT-3リベレーターは回転速度を緩め、やがて完全に停止した。
後に残ったのは、鉄屑と化した敵メイル達と、仁王立ちでそれを見据えるグライツァー流星の姿だった。
『片付いたな。武宮と合流するか』
目の前の光景に感傷を覚えることもなく、桐山は機体を翻し、別れた同期の元へと向かった。
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