第十話 奮戦

 武宮と桐山の活躍により、敵部隊は順調に数を減らしていった。

 しかし、如何せん元の数が多く、未だ多くの味方部隊が危ない状況であった。


 《喰らえっ!!》

 《うわああっ!?》


 巨大なランスを装備した敵メイルが、倒れているエルドシア軍のメイルへとそのランスを突き刺そうとしていた。


『させるかっ!』

 《ガあっ!?》


 しかしその時、飛来した散弾により敵メイルは姿勢を崩し、そのまま接近した武宮の機体が打ち込んだパイルバンカーにより完全に活動を停止した。


 《す、すまない。助かった》

『礼はいい。まだ動けるなら、一旦下がっとけ』

 《ああ、そうさせてもらう。お前も無理はするなよ》


 そう言ってそのメイルは退避していき、武宮は残る敵部隊に向けて機体を進める。その途中、隣に桐山の機体が並んできた。


『桐山、残りはどれくらいだ?』

『約80%だ。駐屯地ここの部隊も頑張っているが、如何せん数に押されちまってるからな』


 武宮達以外にも、駐屯地の部隊も盛り返してきているが、やはり押され気味でおり戦局を覆すには至っていない。


『空中にもいやがるから、地上の敵を倒してハイ終わり、って訳にはいかねえしよ』

『飛び道具が見えないのが不幸中の幸いだな』


 二人が確認できる敵部隊の殆どは近接用の剣や槍で武装しているため、空中の敵にも何とか対応できている。

 しかし、この世界には魔法がある為、油断は禁物だ。


『武宮。一つ提案だが、二手に別れないか?』

『何?』

『このままチマチマと削っていっても埒が明かねえ。俺が空中の敵をやるから、お前は地上を頼む』


 桐山の提案に、武宮は少し考え込む。

 確かに最新技術の塊であるグライツァーなら、一機でもなんとか相手できるだろう。だが、それでも一歩間違えば命を落とす可能性はある。それが戦場というものだ。

 その確率を引き下げる為の集団行動であるのだが、その利を捨てると、桐山は言ったのだ。


『何も全部相手にする必要はねえ。注意を引いて、駐屯地ここの連中が戦い易くするだけだ』

『……分かった。俺の装備は対空向けじゃないからな。だが、無理はするなよ』

『心配すんな。コイツの頑丈さは折り紙付きだぜ?』


 コンコン、とコックピットの内壁を叩きながら桐山はそう返した。

 武宮はその様子に薄ら笑みを浮かべると、フットペダルを深く踏み込む。


『終わったら酒でも飲もうぜ』

『残ってたら、だけどな』

『確かに……じゃあ後でな』


 そうして、武宮は残った地上部隊に向け、機体を加速させる。

 桐山も機体を制動させ、視線を上に向けると空中の敵メイルをマーキングしていく。


『やっぱ数多いな。だが、対空戦はグライツァーの得意分野だっ!』


 FCSによる調整が済み、ロックオンマーカーが表示されると、桐山はトリガー引いて空中の敵機に向けドライズマシンガンを放つ。


 《ぬおっ!?》

 《っ!?もらった!》


 地上からの思わぬ攻撃を受けた敵部隊は、墜落こそしなかったものの姿勢を崩し、その隙をつかれて駐屯地の部隊によって斬り伏せられる。

 その後も桐山は対空射撃を続けるが、そこはドライズマシンガンの性能の限界か、撃墜には至らない。


 《クッ!?あのメイルの攻撃が厄介だ!?》

 《新型の魔力投射砲か?奴から先に倒すぞ!》


 しかし、敵部隊にとって桐山の射撃は厄介極まりなく、複数の敵メイルが桐山へと向かってくる。


『来やがったか。クソっ、ヘリだったら落とせてんのによ』


 悪態をついてはいるが、桐山の額には脂汗が滲み出ていた。彼の機体は左腕にシールドこそ装備しているものの、格闘兵装は搭載していない。

 ドライズマシンガンを放って迎撃するが、ヘリ以上に空中を自在に動く相手に対して、マシンガン一丁では分が悪い。


 《もらったっ!》

『チィッ!?』


 ついに敵部隊のメイルが桐山へと肉薄し、その手に携えた両刃の手斧を振り下ろす。

 咄嗟にライディングホイールを逆回転させて回避。後退しつつ目の前の敵メイルへと銃弾を叩き込む。


 《ぬおっ!?》


 しかし敵メイルは持っていた盾で防御すると、そのまま離脱していき、代わりに別のメイルが桐山へと襲い掛かってくる。


『クッ!?』


 突き出された槍の穂先をシールドを使って受け流す。ペダルを操作して地面を滑らせながら、桐山は状況の把握につとめる。


(こっち来てんのは4……いや5か。を使ってもいいが、温存しておきたいしな……)


 思考を巡らす桐山だが、敵はそんなこと関係なしに襲い掛かってくる。


『チィッ!?』


 ホイールを使って機体を滑らせ、敵メイルの攻撃を回避し、そのまま反撃する。


 《ぐあぁっ!?》


 ドライズマシンガンの弾が敵メイルの装甲を貫通し、撃ち抜かれた相手は地面へと崩れ落ちる。


 《貴様ぁっ!?》


 味方が倒されるのを目にした他のメイルが桐山へと突撃してくる。

 ペダルを巧みに操作し機体をターンさせて回避すると、攻撃後の無防備な敵メイルに向け引き金を引く。

 しかし弾は発射されず、反射的に見たサブモニターには〔EMPTY〕の文字が浮かんでいた。


『弾切れ!?クソッ、リロード!!』


 桐山が叫ぶびながらスティックのボタンを押すと、機体が音声認識システムにより設定された動作を行い、マガジンを装填する。


 《隙ありっ!!》

『しま―――っ!?』


 しかし、リロードにより攻撃の手が止まった瞬間、敵メイルが桐山へと斬り掛かった。

 普段であればこの隙を味方がカバーしてくれるが、現在は単独行動中である。援護は期待できない。


『くっ―――!?』


 敵メイルの刃が、桐山の機体へと襲い掛かる。


 ◇


『どけぇっ!』


 桐山と別れた後、武宮は地上で戦闘している駐屯地の部隊を支援しつつ、敵部隊の数を減らしていった。

 しかしそれも一機では限界があり、徐々に武宮は敵部隊に囲まれていく。


『クソッ!奴ら装甲はそうでもないが、動きが捉えにくい!?』


 敵メイルの動きは武宮達のよく知るグライツァー以上に軽快で、FCSの性能のおかげで補足はできるが、ショットガンでは決定打を与えられていない。

 パイルバンカーであれば一撃必殺だが、接近戦はリスクが高い。


『かと言って、このままじゃ追い詰められる。どうにかしないと……』


 策を思案しながらも、機体を操作する手は止めていない。ペダルを巧みに操作して、地面を滑るように動かし敵の攻撃を躱していく。


 《何だコイツの動きは!?》

 《反撃の隙を与えるな!総員突撃っ!!》


 号令に合わせ、敵部隊が一気に武宮へと殺到する。


『チィッ!?させるかよっ!!』


 武宮はフォルテショットガンを放って牽制する。しかし敵メイルは装備した盾を構えて散弾を防いだ。それでも衝撃は強く、防いだ敵メイルは仰け反って体勢を崩したが、他のメイルも接近しているため、それ以上の攻撃はできない。


『このっ!?』


 フォルテショットガンを連射して敵の接近を止めようとするが、流石に手数が足りない。


 《もらったっ!!》

『っ!?』


 そして、ついに敵メイルの接近を許してしまい、敵メイルは振りかぶった両刃剣を振り下ろした。


『舐めるなっ!!』


 瞬間。武宮はペダルを操作して斬り掛かってきた敵メイルの脇を抜けるように回避した。

 しかしその直後に他のメイルが武宮に襲い掛かった。


『うおっ!?』


 武宮はまたも機体を滑らせて回避するが、今度は敵メイルが身体ごと突進し、武宮の機体に組み付く。


 《ようやく捕まえたぞっ!》

『このっ!?離せっ!』


 振り払おうとするが、ガッチリと抑えられている為なかなか抜け出すことができない。

 そうしてる内にも他の敵メイルが武器を構えて接近してきている。悠長にしてはいられない。


『離せって、言ってんだろ!!』


 埒が明かないと判断した武宮はパイルバンカーを装備している左腕を組み付いている敵メイルへと叩きつけ、トリガーを引いてパイルバンカーを射出する。


 《が……っ!?》

『おおっらぁっ!!』


 武宮はそのまま撃ち抜いた敵メイルを接近中の敵部隊へと投げつける。


 《なあっ!?》


 味方が投擲されるという、予想しない出来事に敵部隊は一瞬足を止めたが、武宮はその隙を逃さなかった。


『うおおっ!!』

 《むおっ!?》


 怯んだ敵メイルへと肩からぶつかって弾き飛ばし、そのまま近くにいた他の敵へとフォルテショットガンの引き鉄を引く。


 《ごば……っ!?》

 《き、貴様っ!?》


 激昂した敵メイルが後ろから武宮へと襲いかかる。だが武宮はセンサー越しにそれを確認すると、即座にライディングホイールを逆回転させ、背部からその敵メイルへと突っ込む。


 《グッ!?》


 敵メイルが怯んだ隙に、武宮は更にペダルを操作して機体をターンさせてその勢いのまま左腕を叩き込む。


 ガシュンッ


 射出されたパイルバンカーが敵メイルを貫く。しかし当て所が悪かったのか、敵メイルはパイルバンカーに貫かれたまま、武宮の機体の腕を掴む。


『しまった!?』

 《捕まえたぞ……》


 その隙を逃さず、残った敵メイル達が武宮に迫る。

 フォルテショットガンで牽制しようにも、目の前の敵メイルが邪魔でそれもできない。


『クソったれ―――っ!?』


 万事休す。武宮を襲う凶刃は、すぐ目の前に迫っていた。

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