第三話 遭遇
『駄目だ、無線に反応はない』
『こっちもだ。GPSに繋がらない……どうなってやがんだ』
施設の内部から外へと脱出した武宮達は、何とかして情報を入手しようと手段を講じているが、望んだ成果は得られずにいた。
「あ、あの〜。そろそろ下ろしていただけませんか?」
二人が考え込んでいたところに、そんな声が掛けられた。
声の方向を見れば、未だにグライツァーの手に抱えられたままの少女の姿があった。
『おっと悪い。今下ろしてやるからな』
そう言って、彼は慎重に機体を操作し彼女を地面へと下ろす。
『怪我はないよな?』
「はい、何とか。……あの、あなた達は……?」
少女は少し乱れた髪を直しながら、彼らに向けてそう言った。自分達の事を尋ねられた武宮達は、機体のカメラ越しにお互いの顔を見合わせる。
『どうする?』
『どこまで言うか、だよな。取り敢えず所属を伝えて様子を見るか』
『そうだな』
どう答えるか決まった二人は、再び視線を少女へと戻す。
『俺達は、E.E.U.日本軍だ』
「い、いーいーゆー?」
武宮が少女へと自分達の所属を伝えるが、少女はまるで頭に?でも浮かんでいるかのように首を傾げるだけで、何の反応も示さない。
「ん〜……すみません、分からないです」
『……冗談を言っているのか?』
少女の言葉に、武宮はそう問い掛けつつ猜疑心を少しだけ抱いた。
「いえ、本当に分からないです。少なくとも私の国では聞いたこともありません」
声や表情から嘘は言ってないようだが、流石にそれを簡単に信じることは、軍人としてそこそこの修羅場を潜ってきた二人にはできなかった。
『おい、どうなっているんだ?』
『分からん。本当に知らんのか、或いは』
『何か企んでいるか、か』
『一先ず、彼女の事を訊いてみよう。何かわかるかもしれん』
警戒心を強めつつも、情報を得る為彼女に問い掛ける。
『ところで、君は何者だ?見たところ民間人のようだが』
「し、失礼ですね。私はリリア・カートライト。れっきとしたエルドシア王国の軍人です!」
しかし返ってきた答えに、二人は耳を疑った。
『エルドシア……?聞いた事あるか?』
『いや、ない。俺も世界中の国を知っているわけじゃないが……』
頭を悩ませていた二人だが、その時突如コックピット内にセンサーの感知音が鳴り響いた。
『近接センサーに感あり!後ろだ武宮っ!』
『なっ!?』
機体を旋回させ、反応があった方向に向ける。すると、一つの巨大な機影がこちらに向かって、何か武装を振り上げながら跳び込んできたのが確認出来た。
武宮はすぐさまペダルを操作してその場から退避する。
謎の機影は先程まで武宮がいた地点に着地し、同時に振り下ろした武装が地面へとめり込んだ。
『な、何だこいつは?』
『見たことない機体だ……それに、あれは剣か?』
コックピットのディスプレイに映し出されたその機体は、まるで西洋の鎧のような意匠をしており、彼等が知っているグライツァーのデザインとはかけ離れていた。
情報を得ようとマーキングするが、ディスプレイにはUnknownと表記されている事から、所属不明機であることしか分からない。
『まだ分からないことだらけだっていうのにっ!』
『おいっ!そこの機体、武装を放棄し―――うわっ!?』
不明機体に呼び掛けるも、まったく意に返さず、地面から引き抜いた剣をそのまま振り抜いてきた。
二人は咄嗟に距離を取り、機体に装備した武器を構える。
流石に警戒しているのか、不明機体は動きを止めた。
『剣にシールド。機体デザインも相まって、まるで中世の騎士だな』
『どうする?一気に制圧するか?』
『いや……奴の後ろを見てみろ』
言われて視線を向けると、不明機体の後ろに先程の少女―――リリアがいた。
『クソッ!人質のつもりか』
『流れ弾でも当たっちゃ目も当てられねえぜ……』
手を拱いていると、何と不明機体がリリアに向けて話し掛けた。
『リリア、無事か!?』
「もしかして、カイルさんですか?」
その会話の内容から、不明機体のパイロットは彼女の知り合いなのだろうか。
困惑する武宮たちを他所に、二人の会話は続く。
『吃驚したぜ。様子見に戻ってみれば、コイツらに襲われてたんだからな』
「ち、違います!この人達は」
『既に応援も要請した。もうじき隊長達が到着する、それまで耐えれば』
「だから違うんです〜っ!?」
やり取りに若干力が抜けるような会話だが、その内容は二人にとって無視することはできないものだった。
『援軍だと……やばいな』
『こっちは2機。どれほどの数かは分からないが、戦闘になれば只じゃすまねえぜ』
『早く誤解を解かないと……おい、そこのお前』
外部スピーカーで呼び掛けると、その機体は視線をリリアから武宮たちへと移した。
『何だ?投降する気にでもなったか?』
『いや。それより、お前は一つ勘違いをしている』
『勘違い、だと?』
『ああ。俺達は彼女に危害は加えていない』
武宮がそう言うと、その機体のパイロットは剣の切っ先を向けながら返した。
『はんっ!嘘ならもう少しまともなのを言うんだな!』
しかし、当然と言うべきか聞く耳を持たない。このままでは間もなく到着するであろう増援に問答無用で制圧されてしまうだろう。
「カイルさん、その人達の言っていることは本当です!」
『リリア?何を言って……』
しかし、彼女が助け船を出してくれた事で事態は収まっていった。
彼女は遺跡内部であった事を、分かりやすく端的に伝えた。
『……それは、本当なのか?』
「はい。ですからこちらの二人は、私の命の恩人なんです」
聞き終えたその機体のパイロットは、少し考え込む素振りを見せると、構えていた剣をおろした。
『その、悪かったな。勘違いしちまって』
『いや、気にしないでくれ』
『まあ、知り合いが知らない機体に囲まれてたら、無理もねえって』
誤解も解けたことで、武宮達も構えていた武器を下げる。
しかし問題まだ残っている。まもなく到着するであろう援軍をどうするか。
『隊長達には、俺からとりなしておく。すまなかった』
『それなら、こちらから言う事はない』
『そう言ってくれると助かる。俺はカイル・マキリク。エルドシア軍の機甲兵だ。よければあんたらの名前も教えてくれ』
武宮達は少しだけ顔を見合わせると、再び彼―――カイルの方へ向き直った。
『E.E.U.日本軍所属、武宮龍巳だ』
『俺は桐山篤志、武宮の同僚だ』
『イーイーユー?聞いたことないな。何処の国だ?』
その言葉に武宮と桐山は、内心どういう事だと思っていると、いつの間にかセンサーに複数の反応があり、多数の機体の表記がレーダーに浮かび上がった。
その直後、周囲の木々の間から、カイルの機体と似た意匠の機体が多数姿を現した。
『な、何だコイツらは!?』
『敵か?いや、もしかして……』
動揺する武宮達を他所に、新たに現れた部隊の隊長機と思われる機体が一歩前に出て、右腕に搭載した槍を向けてきた。
『そこのメイルに告ぐ。貴様らは包囲されている、直ちに武装を放棄して投降せよ』
飛んできた警告に身構える二人だが、カイルが二人の前に出て、隊長機と対峙する。
『隊長、すみません。先程の救援要請は誤りでした』
『どういう事だ?』
『実は自分の早とちりでして……』
それからカイルは先程の事を隊長へと説明した。それを聞いた隊長機は暫く沈黙した後、再び武宮達へと話し掛けた。
『事情は分かった。部下が迷惑を掛けてすまない』
『あ、いや……』
『だが、たとえ誤解だとしても領内に所属不明のメイルがいるのを見逃すことはできない。悪いが、一緒に来てくれないか』
彼からの要請に、武宮達はディスプレイ越しに視線を交わし、通信をプライベートに変えて話し合った。
『取り敢えず、ついて行くしかないよな』
『そうだな。それに、色々と情報が手に入るかもしれないからな』
『決まりだな』
二人は通信をオープンに切り替えると、隊長機へと答える。
『分かった。アンタ達について行く』
『話が早くて助かる。その前に、武器を預からせてもらえるか』
『……仕方ない』
了承を聞いた隊長機は部下へと指示を飛ばし、武宮達は前に他の機体が出てきた。
何故か要求されたのはショットガンやマシンガンのみで、パイルバンカーやバックパックについては何も言われなかったが、、いざというときの為にも言わないほうがいいと判断し、銃器だけを預ける。
『ではついて来てくれ』
そう言って隊長機は踵を返し、来た道を戻っていく。部下の機体も武宮たちを包囲しつつ、隊長機に続いていく。
武宮達は自分達を囲んでいる部隊に警戒しつつも、彼らについて行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます