第2話 おしごと

今日も一日、図書館のお仕事だ。

 わー、嬉しいなぁ。

 排架というものをする時の心得は自分を騙すことを覚えること。楽しい楽しい楽しいと思っていれば、そのうち脳が騙されて楽しい気分になる。

 大型ブックトラックの一台分もそうやって排架をしていると楽しくてやめられなくなる。

 排架の達人とはそういうものだ。

 今日は児童書コーナーの排架を頼まれていた。ローテーション表を見たら特別に排架の時間帯が赤く囲ってあって、チーフに尋ねると自分だけ特別に児童書コーナーの排架要員に回されるということだった。

 ブックトラック三台分ということだった。

 どうやらこれらの本は正職員さん、つまりは本当の司書さんたちが勉強会をする為に集められたものだということだった。

 児童担当の司書さんは勉強熱心で、毎月一回は定期的に市内の図書館の児童担当が集まっているのだという。こんだけの児童書を使っているんだから、さぞ頭のいいことなのだろう。

 排架担当のボクはさぞ僻んでいるというものだろう。

 いや排架は楽しいぞ。

 請求記号通りの場所に本を排架するとピタリとパズルのピースを嵌めているみたいになって気持ちいい感じがするものだ。

 あー、楽しい楽しい。

 なんかさっきからぶちぶち文句ばかり言っていて自分でも楽しくないなとか思っていたけど、額に汗が滲んできた頃には楽しくて仕方ない感じになって早々と三台分終わらせてしまった。

 排架の時間は二時間ほど取ってあって残りの四十分くらいは整架という書架の整理をすることにしていた。

 児童書コーナーは特に乱雑になるので整架のしがいがあるというものなのだよ。

 さっきの排架の勢いの名残りなのか、黙々と整架をこなす。

 いつもなら靴を脱ぐのが面倒だから遠慮していた寝転んでも良いスペースにお邪魔して、そこにある絵本の書架も熱心にやる。

 そんな時、ちょっと気が緩んだ時に、なんか背中というか後方というか、気配みたいなものを感じた。

 ま、図書館の仕事をしているとよく感じることなので、ゆっくりと何気なく振り向いてみる。

 おっと! ちょっとどうした?

 後ろには子供がいた。何歳くらいだろうか。自分には子供がいないから歳のことはよくわからないけれど、小学生にはなってないんじゃないか。

 見た感じは男の子に見えた。

 振り向くと男の子は大きく笑顔を作った。

「これぇ、はかせて?」

 下を向いて腰を屈めて手を足に持っていく。いや足というか足先というか、その先というか、靴下のことを言っているのがわかった。

 靴下をちゃんと履いていなかった。靴下の中には爪先だけ入れてあって、あとはびろびろと前に伸びている。

 履きかけか? とも思ったけど、図書館で靴下履きかけというのもどうだろうか。

 まあでも子供のやることだからなあ。そういうこともあるのだろう。

 昔昔、弟がまだ小さかった時には何回かやって上げたのを思い出してしまった。それ以来ということになる。

 こっちも硬い体を屈めて、ピンク色だけど色褪せた靴下をゆっくりと履かせてあげる。ピンク色だし、なんだか闘う魔法少女のアニメ絵が描いてある。

 もしかしてこの子は女の子か?

 いやいや昨今は男の子だってそのシリーズを見る権利は保護されるべき風潮なのだから、ボクも偏見でみてはいけない。と戒める。

 しかし女の子かもしれないと思って見直すと、本当に女の子に見える。服装だってボーイッシュと言われればその範疇だし、黒いツヤツヤの髪は後ろで小さくピンクのゴムで束ねているのを見つけた。

 まあ、それでも男の子だってピンクのゴムで髪を縛ったっていいんだから、断定してはダメだな。

 あんまり不器用すぎて嘆きたくなるくらいあたふたしながら靴下を履かせることができた。

 まあ、まあまあだな。

「あにがとうごじゃいます」

 割と丁寧にお辞儀をすると、音が鳴るような小走りでその子は視界から消えた。

 まったく靴も履かずに寝転びスペースから出て窓側の書架の方に行ってしまったようだ。

 なんだか子供っていうのはよくわからないものだ。外国人のように肩をすくめようと思ったけども、様にならない自分が思い浮かんだのでやめた。

 気が削がれてしまったけれど、また整架に戻るとする。整架要員としては職分を果たさなければなりますまい。

 今度はさっきまでのペースにはなかなか戻らなくてタラタラやってしまった。

 まただった。

 なんかさっきと同じ感じに後方が気になったから振り向いてみた。

 あらら…。

 幻のようにさっきと同じ光景がそこにあった。

 同じ子だった。そしてさっきと同じに靴下に爪先だけ入れて脱げかかっている。

「これぇ、はかせて。おにゃがいしまつ」

 …ん、わかった。いやわからないけど、おにゃがいされまちた。

 これはたぶんなにかの試練なんだ。この図書館を救う、いや世界を大いに盛り上げるための試練…。ということにしておく。

 さっきよりはいくぶんましな感じでできたと思う。靴下履かせ職人の一歩は踏めたと思う。

「あにがとうごじゃいます」

「どういたしましてでござる」

 そしてまた走り去る。小走りのタリラリンなんて音が聞こえる。

 そしてこれは御多分に洩れず予想した通りの展開になった。

 あと3回、計5回はこの靴下履かせて攻撃を受けて、見事靴下履かせ職人の修行を終えたのだった。

 毎回「あにがとうごじゃいます」のお礼を言うとどこへともなく消え、また靴下半分以上脱ぎ状態で現れる。これのどこが面白いのだろうか。

 まあ、冴えない中年おじさんにかしずかれて気分がいいのかもしれない。そんなあんな歳で女王さま気質でもあるまいに…。

 排架のペースよりも大幅に進捗状況が悪く整架の時間は終わった。

 次のローテーションに入るために一度カウンターに戻って表を確認すると、ボクのところは訂正が入っていて、今度は排架でもなく整架の時間になっていた。まだあと一時間は整架なのか。整架は立ったり座ったりが多いから腰が辛い。みんなもあまりやりたがらなかった。

 あまりの無体ななさりようなのでチーフに確認すると、新人が研修でカウンターに入っているためだそうだ。無体なローテーションだとチーフもわかっているのか、休み休みやってくれとのことだった。

 まあ、そう言われればしょうがない。やるか…。

 とりあえず一旦バックヤードに戻った。そこに置いてある自分の水筒のお茶を飲んでから児童書のコーナーに戻るつもりだった。一般書の書架にはもう他の不幸な人間が行っているみたいだ。

 児童書のコーナーの書架は背丈が低くて腰の負担が大きい。今日はついてないみたいだ。

 水筒に口をつけて冷めたお茶を飲んでいるとなんか背中に視線を感じた。さっきと同じようでまったくもって違うような…。

 何気なく後ろを振り向いたけど何事もなかった。気のせいかね。

 まあ、しょうがないから児童書のコーナーにさっそく戻った。さっきの続きで寝転びスペースからやり始めようか…。

 その寝転びスペースには先客がいた。同業者という意味ではなく、本当のお客さん。見知った顔だ。

 さっきの靴下履かせてちゃんが、今度は座っていた。靴下は、ちゃんと履いている。よしよし。

 履かせてちゃんはボクの顔を見つけるとニヘラとゆるゆるに笑った。これはさっきまでと違ってだいぶ打ち解けた感がある。

「これぇ、よんでぇ。おにゃがいしまつ」

 立ち上がるとボクに駆け寄ってきて抱えていた絵本を差し出してくる。ぐいぐい押し付けてくる感じだ。

 うーん、まいったなぁ。あの靴下事件がここまで発展するとは…。

 今は仕事中でそんなことはもちろんできない。児童担当の司書さんはよくやっているのを見ているけど、ボクの仕事の範疇にはそれはないし、よしんばできたとしても、子供の扱いなんてそれこそ子供の頃しかやったことがない。それも弟に。

 どうすればいいのか、てんでわからない。

 とは言っても…、子供に対して断るうまい言い方なんてわからない。

 履かせてちゃんは戸惑っている間抜けな大人のエプロンの裾をギュっと掴んで離さないつもりらしかった。

 どうしよう…。

 まあ、いつまでも悩んでいても埒があかないので、一社会人としての対処法としては上司に相談するのが真っ当なことだろう。

 結局はエプロンを握られたまま半ベソの子供を連れてカウンターに行き、チーフに説明したら相談するでもなくOKが出てしまった。

 うーん、逆に困る展開になってしまった。上司に怒られてシュンとしたおじさんを見て考え直してくれると思ったのに。おじさん、怒られちゃったからダメだよ。とか台詞まで用意していたのに。

 まあ、しょうがない。しょうがないものはしょうがない。

 とぼとぼと児童書コーナーの寝転びスペースに戻った。履かせてちゃんは帰りはニコニコ笑顔だった。

 それでなんとまあ、しおらしくボクの横に履かせてちゃんは大人しく座った。それでボクのたどたどしい読み聞かせを熱心に聞いてくれるのだった。

 冷や汗ものだったけど、こんなものでよかったのだろうか。

 とりあえず満足はしてくれたみたいで、次に仕事があるから、というボクの言葉を聞きわけてくれた。

バイバイなんて手を振りあって別れてカウンターに向かう。児童書のコーナーから直接にバックヤードに入れるようにはなっているけど、一応チーフには報告しておこうと思った。

 やれやれ、慣れないことをすると首が凝って仕方ない。肩や首を割と強い力で揉みながら、報告と次のローテーションの確認をする。次は書庫に入っての出納業務ということだった。

 とりあえずバックヤードに入って特製のお茶でも飲むことにしますか。

「…あんな薄らハゲのおじさんの方がいいなんて信じられない!」

 入った途端だった。女性の憤慨した叫びに近い声がした。いつもなら無視をするけれど、なんか自分の身体的特徴に対する言葉が聞こえてきたので敏感なお年頃のボクはやっぱりたじろいた。

 バックヤードの奥には二人の女性司書さんが立ったまま話しているようだった。

 ボクが入ってきたと同時に微妙な空気が漂いつぐむように話を止められていた。

 そんな状況を鑑みるに、その薄らハゲのおじさんはボクということなのだろう。いや、自分でもそんな感じの人間だとは思っていたけど、改めて他人から言われるとグサグサくるなあ。

 相方の司書さんは慌てたように暴言を吐いたなんかとても若い方の司書さんをバックヤードから連れ出そうとしていた。申し訳なさそうな困った顔を相方の司書さんはボクに向けていたけど、若い司書さんは明らかにボクの方を睨みつけてから出て行った。

 やっぱり勘違いじゃなく被害妄想でもなく、ボクのことだったのか…。

 なんだか大きく息を吐いて気にしないそぶりを自分に対してすると、補修用のいつものテーブルに向かった。

 部屋の隅にあるこのテーブルは作業台ではあるけど、なんかホッとしてしまう。ここは自分のような身分の人間が使う場所だからだな。水筒も気軽に置くことができるしね。

 もうそのテーブルにはバイトである大学生女子が座っていて、本の背表紙の裏にタトルテープを器用に貼っているところだった。

「おつかれさん」

「おつかれさまです。あの、大丈夫ですか?」

 何が? とか惚けようとしたけど、あんな状況では言われてしまうのはしょうがないか。

「まあね…」

「ヒドイですよね。あんな風に言うなんて」

 この子は見た目も真面目だけど、中身も同じくらい真面目なのだ。本気で心配してくれているようだ。アンダーリムのメガネを直す仕草が学級委員長みたいだ。

「あの職員の人、妬いてるんですよ」

「何が?」

「先パイがみゆちゃんと仲良くしているから」

「みゆ…ちゃん…?」

「あの子有名なんですよ。人に懐かなくて」

 懐くって…、犬じゃあるまいし…。まあ、でも人にも使うか。

 よくよく話を聞いてみると、あの靴下履かせてちゃんはこの図書館の常連さんなのだった。ほんの小さかった頃、乳児のための読み聞かせ教室にお母さんに抱っこされてきていたというからだいぶ年季が入っている。いやそれでも5年くらいだけど、ボクがこの図書館で働いた年月よりは長い。

 そのみゆちゃんが図書館で特別視されるようになったのは、一年くらい前のことだった。その頃に両親が交通事故にあって亡くなってしまい、おばあちゃんに育ててもらうようになったのだ。

 おばあちゃんはみゆちゃんの様子がなんだかおかしいことに気づいて…、まああんな小さいのに大きな不幸に出会ったんだから当たり前かもしれない。色々と関係機関を頼った一環としてお母さんとの思い出があるこの図書館で過ごすことになったのだと言う。

 始めは誰にも心を開かなかったみゆちゃんだったけど、前の児童担当の女性には懐いたみたいだった。たぶん努力の賜物だったんだろう。

「でも、覚えてますか? 三ヶ月前に急に退職した職員さんがいたじゃないですか」

「…ああ、思い出した。確か脳梗塞か何かで入院したとかなんとか」

「その人がみゆちゃんの心を開いた前の児童担当だったんですよ」

 ふーん、まあ、あとは予想通りというか、世の中の仕組みはこうなっているのだろうね、という展開だった。

 つまりは、またまた信頼していた人が急にいなくなり心を再度閉ざしたみゆちゃんの関心を引いたのがボクだったということで、前任者から託されて息巻いて頑張っていた後任の現児童担当のあの若い司書さんがやっかんでハゲと罵ったというわけだ。

 整理してみるとわかりやすくて、なんだって感じだけど、なんか辛い…。

「…あの人、悪い人じゃないし、勉強熱心な人なんですけど、すごく子供っぽいところがあって好きになれないんですよね」

「いや、まあ、ねえ…」

「どうしたんですか? 随分ボケた顔してますよ」

「失礼な。ぼやっとした顔は生まれつきだよ。ただ感心してるだけだよ」

「何がです?」

「けっこうな事情通じゃないか?」

「え? けっこう前から児童担当の仕事も入ってるんですよ」

「へ? バイトなのに?」

「はい…。知らなかったんですか?」

 知らなかった。バイトは全員ボクと同じカウンターとか排架とか書庫出納とかの業務にあたると思っていた。

 どうやらバイトも経験値が上がると色々な部署の仕事も割り振られるみたいだ。

 まあ、身分的にはバイトではないボクには当てはまらないことなのかもしれないけど、バイトでも司書さんに準じるような業務ができるんだね。

 まあ、ボクなんかが児童担当なんかに行ったら毎日罵倒されて薄い髪の毛が無くなってしまうかもしれないから、これでいいって言えばいいんだけど…。

 もう少し事情がわかったほうが嫌な思いをしなくてすむんだけどなあ。

「でも、すごいですよ。私も何回かみゆちゃんに話しかけたことがあるんですけど、全然ダメで…」

 そんなに感心されるようなことでもない。それにそもそもが履かせてちゃん、ああ、みゆちゃんか、を特別に思うことが間違ってるんじゃないか。おかしいようには見えなかったし、気難しいのは大人の方が多いくらいなんだから、あれくらいは普通なことだと思うけど。

 などと、そんなこんなをこのうら若き相棒に話そうと思っていたけど、言いたいことの三割くらいしか喋れなかったし、伝わったことなんて一割もいかないんじゃないだろうか。

 ボクってヤツはいつもそうだ。言いたいことも言えないで言い淀む。こんなんで子供の心を掴むことなんてできるわけがない。

 さっきのはたぶんあれだ。たまたま波長がその時だけあっただけなんだな…。

 …次の日、ローテーションは元通りになって、午前中は順調にカウンター、書庫出納、排架とこなした。

 午後一番目は一般書架の排架と整架だった。

 順調に気合を入れてこなしていると、またまた後ろからの視線を感じた。

 ゆっくり振り向いてみると、おお! 意外と接近されていてビクッとしてしまった。

 みゆちゃんだった。小わきに絵本を抱えていて、そして寝転びスペースからそのまま来たのか靴下のままだった。

「これぇ、よんでぇ、おにゃがいしまつ」

 今日はペコリと頭を下げて来た。

 なんかその姿があまりにもなんというかいじらしいというか、涙腺の弱くなってきたおじさんの目にはちょっと涙なんかが滲んできてしまった。

 なんか、なんだかなあって思うよ…。

 この子の、こんな子供の世界がもう少しだけいい方に広がるといいのに、と切に願いたくて仕方なくなる。

「ここじゃなくて向こうに行こう」

 みゆちゃんはコクリとしおらしくうなづいた。そしててとてとなんて音がしそうに寄ってくると、今日はボクのエプロンじゃなく手を握ってきた。

 小さくて、体温の高い手だ。柔らかくて儚い手だ。

 なんだろう。ボクがまともな生活を送れていれば、こんな娘がいたかもしれない、などと心が疼いてしまった。

 あり得なかった未来の妄想が心を侵食してきているように感じる。

 軽く、隣の小さな存在に悟られないように小さく息を吐いた

 まあ、いてもおかしくはないだろうけど、もし順調な人生なら、今のボクの年齢ならもっと大きい子がいるんじゃないだろうか。六歳違いの弟の子供はもう中学生だからな。

 まあ、一瞬の幻のように、あったかもしれない未来が見えて一生できないと思っていた超貴重な体験をしてしまった。何者にもなれなくてもお父さんくらいにはなれたのかもね。

 児童書のコーナーに行くと、遠くの方で睨むようにあの若い司書さんの姿が見えた。

 みゆちゃんは急にボクに体を寄せてきたのは、そのせいなのかもしれない。

「あのおばちゃん、キアイ」

 嫌いか…。おばちゃんって若いのに可哀想な感じがするけど、まあ仕方ない。

 …。…ああ、そうか。そうだな。

「みゆちゃんは絵本好き?」

「しゅき」

「そっか、好きか。なら良いこと教えてあげる」

「なあにぃ?」

「あそこにいるおばちゃんね、実は魔法使いなんだよ。昨日読んであげた絵本の中にも出ていたでしょ、魔法使い」

「うん…」

「あのおばちゃんは絵本のことならなんでも知ってる魔法使いなんだよ。面白い絵本をいっぱい知ってるよ。おはなしも面白いんだよ」

「でもきょあい」

「大丈夫。怖くないよ。ボクが…、いやおじさんが一緒についていってあげるよ。怖いときは助けてあげるよ」

「ほんとぉ?」

「本当だよ。いつだっておじさんはこの図書館にいるからいつでも助けてあげるからね」

「うん…」

 みゆちゃんは緊張でぎこちなかったけど、ゆっくりおどおどと歩き出した。

 これが第一歩なのかもね。

 いやそれともただボクの言うことを聞きわけてくれただけなのかな。

 それとも見放されたとか思うかな…。

 まあ、これからどう転ぶかは司書さんの頑張りに期待するしかない。

 おばちゃんなんて呼ばれて怒るなよ、子供相手に。薄らハゲのおじさんは笑いながら怒るからな。

 近づいていくと握っている小さな手に力が入ってきた。汗ばんでもきているようだ。

「大丈夫だ。大丈夫」

 みゆちゃんにだけでなく、自分にも言い聞かせた。自分のこれからにも…。

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