第47話

 自分が粗悪な薬草などの素材を売っておいて、それで出来たポーションが粗悪品なんだと噂を流して……お店を潰そうとしているわよね、これ、絶対。


「……王都には、ポーションを登録できる場所ありましたよね。私、そこに商品をいろいろ登録しようと思います。粗悪品なんて言わせないためにも」


 確か商品の卸し方にはパターンがあって、ひとつは王都の商品登録所で登録したものを売れる。そしてもうひとつ、認可を受けている場所で作る方法。今日の依頼は認可の場所で作ったからまぁ大丈夫だろう。


「なら、明日は商品登録に行こうか。場所知っているし、ついでに観光する?」

「するー!」


 冒険者ギルドの依頼ばかりではなく、街の様子を見るのも目的のひとつだったりするのよね。パント村しか知らないから、王都がどんな風に賑わっているのかを見てみたい。田舎で暮らしているといろいろな不便があるけれど、王都で暮らしている人たちにもいろいろ不便なことがあるのかしら。


「……なら、俺も一緒に行って良いですか?」


 すっと手を上げたグレアムさんに、私とルイは顔を見合わせてそれから「もちろん!」と声を重ねた。パント村を出てから、初めての休日のようなものね。商品登録にはどれが必要かな。食器洗い用の洗剤と、化粧品と、ポーションと……後は……聞いてからにしようかな。それなりに日常生活に役立ちそうなものは作れるし、魔物討伐に役立つものも作れる。これだけのことを仕込んでくれたお父さんには本当に感謝している。

 その後、他愛のない話をしてからグレアムさんは帰って行った。明日の午前中に待ち合わせをして、私はワクワクとした心で食べ終えたお皿を重ねて厨房へ向かった。グレアムさんを玄関まで見送りに行っていたルイも、私がお皿を運んでいることに気付いて手伝ってくれたのだ。

 厨房まで行って食器を洗う。やっぱり食器用洗剤を使うと素早く落とせる。食器を全て洗い、ハンドクリームをつけて手の保護。


「そういえば、このハンドクリームも登録するの?」

「そうしたほうが良いかなぁ。これは冒険者用だけど、他のハンドクリームも作ってみたことあるし……」

「……メイ、もしかして作るのが楽しくなっちゃった?」

「それもある」


 肩をすくめる私に、ルイが可笑し気に笑った。作り出すと凝りたくなるじゃない?


「俺もたまに魔物を倒している時にバーサク状態になるからなぁ」

「バーサク状態?」

「うん。ランニングハイみたいな。身体が軽くなって、どんな敵でも倒せるんじゃないかって思えるくらいに感覚が研ぎ澄まされていくような……。……あ、これレッドドラゴン倒してからだ」

「……もしかしてレッドドラゴンの加護?」

「さぁ? まぁ、それで困ることないから良いかなって。……結構楽天家なんだ、俺」

「……そうみたいね……」


 私が眉を下げて微笑むと、ルイが「あはは」と笑った。苦労して来たからか、それとも元々の性格なのか、……まぁ、ルイの強さなら楽天家になるのもわかるような、わからないような……。


「生きていればなんとかなるって思ってさ」

「……ルイがそう言うと、言葉が重いね……」

「ほら、災い呼ぶらしいから、俺。災害だっけ? なんかもういろいろ言われ過ぎてごっちゃ混ぜになって来た」


 ……そんなにいろいろ言われていたんだ……。ぽん、とルイの肩を優しく叩くと、ルイは「メイ?」と不思議そうな表情を浮かべていた。


「――ウォルターさんとどんな冒険をしていたのか、聞いても良い?」

「別に良いけど……、あまり楽しくないかもしれないよ?」

「冒険談は大好きなのよ。お茶を飲みながら、ちょっと話さない?」

「……ん、いいよ。それじゃあ、お茶用意しよう」

「うん」


 どのお茶が良いかなぁと辺りを見渡していると、ダーシーとジェフリーがお皿を持って来た。私たちに気付くとお皿を置いてから頭を下げた。


「片付けてくださったのですね、ありがとうございます」

「助かります」

「こちらこそ、美味しいご飯をありがとう」

「とっても美味しかった!」


 ダーシーとジェフリーが照れたように笑う。ちょっと頬が染まっているところが愛らしい。ふたりとも食器を片付けてから私たちに身体を向けた。


「なにかお飲みしますか?」

「えっと……じゃあ、寝る前だからハーブティーをお願いします」

「かしこまりました。どこにお運びしますか?」

「それじゃあ……そうだな、談話室に。……ダーシーとジェフリーも一緒にどう?」

「よろしいのですか?」


 ダーシーとジェフリーが目をキラキラさせながら聞いて来た。ルイは私に視線を向けたから、私は首を縦に振った。ルイはそれを見て、ダーシーとジェフリーに対して「みんなで話そう」と改めて誘った。

 談話室までお茶を運んで、丸いテーブルに置いて椅子に座る。ダーシーがお茶を淹れてくれた。カップを手に取ってお茶を飲む。温かいお茶が喉を通り、じんわりと身体の中から温まる感覚に私はほっと息を吐いた。


「……ええと、それで、俺の冒険談だっけ? ……ふたりとも聞きたい……?」

「お聞きしたいです」

「冒険談好きです」

「ほら、やっぱりみんな冒険談好きなのよ!」

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