第48話
私が拳を握って力説すると、ルイは後頭部に手を置いて眉を下げて微笑んだ。それから小さく息を吐き、一度お茶を飲んでから私たちを見渡す。
「ええと、じゃあ。……そうだな、これはウォルターと出会って、半年くらい経った時の話なんだけど……」
ルイはウォルターと出会い、彼に保護されて冒険者になったのよね。何歳かははっきりしないみたいだけど……。ウォルターさん、一度お会いしただけなのだけど、きっと強い人だったんだろうなぁ。ルイの保護者みたいな……ううん、『お父さん』と言っても過言ではないだろう。
ルイがどう思っているのかはわからないけれど……。
「その頃の俺はまだ小さくて、ウォルターはそんな俺を連れながらの依頼を受けることになって……、護衛の依頼を受けたんだ。目の見えない吟遊詩人の護衛。彼は目が見えないけれど、いろんなことを感じると言っていた」
懐かしむように目元を細めて、そして視線を下げて指を絡めた。ぎゅっと握って、テーブルに肘をつき淡々と話す。
「目が見えないから、俺の目の色がわからない。だからなのか、彼は俺にとてもよくしてくれたんだ。お菓子を分けてくれたり、旅の話をしてくれたり……、そう、吟遊詩人だから歌ってもくれた」
……この世界って吟遊詩人もいるんだなぁ……。一体どんな歌だったんだろう。探せば王都にも吟遊詩人っているかな。聞いてみたい。
「歌ってくれた歌の中に、滅んだ国のことがあって興味深かったな。……まぁ、当時は滅んだ国と聞いて怖かったけど」
小さい頃のルイは怖がりだったりしたんだろうか。そうだとしたら、なんだかいろいろと切ない。森の中で拾われたって言っていたし、一体幼い頃はどんな生活をしていたのかしら……。
「ただ、覚えておいて欲しいって言われてさ。それがなぜなのかはわからないけれど……、うん、まだちゃんと覚えているから、それだけ印象深かったんだと思う」
滅んだ国の歌を覚えておいて欲しい? ルイと滅んだ国がなにか関係あるのかな? それとも、護衛していた吟遊詩人が、自分のことを忘れないで欲しくてそう言ったのか……。うーん、どっちもあり得る気がするけど……、もしも後者だった場合、その吟遊詩人はルイのことをとても気に入ったってことなのかしら? 出会って間もない少年にそう言うってことは。
「どんな歌だったのか聞いても良い?」
「歌えないよ?」
「えーと、じゃあ内容だけでも!」
それなら、とルイが教えてくれた。
「世界の果ての王国が、魔物に一夜にして滅ぼされたけど、その国の王女さまは間一髪助かってどこかで勇者が来るのを待っている……って感じの内容だった」
……もしかして、その勇者とはロベールのことなのでは……?
……その歌に導かれて、ロベールは王女さまと出会ったりするんだろうか……。原作の細かいところまでは思い出せないな。
「それは……ロマンチックな歌ね」
「勇者……。本当に居るのでしょうか?」
「なんだか想像が出来ませんね。……しかし、最近魔物討伐の依頼が増えていると、冒険者ギルドの人たちが話しているのを聞きました」
魔王の復活まであと二年はあるはずなんだけどなぁ。……ううん、魔王の復活が徐々に近付いているから、魔物たちが敏感にその気配を感じ取って動いているのかもしれないわね。
「冒険者側が負けて教会に運ばれることも多いそうです」
「教会?」
こくり、とダーシーがうなずいた。ちらりとジェフリーに視線を向けると、ジェフリーが言葉を紡ぐ。
「……自分よりも強い敵に挑んだのか、それとも己の力量を
そう言ってすい、と視線を逸らした。……教会に運ばれるって、そう言うこと……? ぞくっと背筋に冷たいものが走った。思わずぎゅっと自分の身体を抱きしめるように腕を擦る。
「ランクが上がったばかりの冒険者に多いんだよなぁ……。受けられる依頼が増えたから、無理をしようとする人たち……」
ルイが肩をすくめているのを見て、もしかして日常茶飯事なのかと思いさらにゾッとした。
何事も慣れてからが危険とはよく言うものだ。初心を忘れないようにしないとね。
「ええと、話が逸れたから戻すけど、その吟遊詩人の護衛先が王都から結構離れたところでね、そこの湖がすっごく綺麗だったのを鮮明に覚えているんだ。まさに水の都って感じの場所だった。冒険者を続けていてもいなくても、一度は見てみて欲しい場所でさ」
ルイが明るい口調で話す。私のことを気遣ってくれたのだろう。その優しさに感謝しつつ、水の都と聞いて思い出した。
水の都リュノール。そう、それはロベール・サーガにも登場した街だ。大きな湖を囲うように出来た街。そこでロベールたちはつかの間の休息を取るのよね。バカンスにもちょうどいい街って書いてあった。
「きっと素敵な湖なんでしょうね……」
村を救ったら是非とも行ってみたい。最優先順位は村を救うことだから、救ってから考えたいところね。
「うん、きっと気に入ると思うよ」
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