第39話

 私とセレストは、ダーシーにお風呂場へ案内された。そのお風呂場はとても広く、銭湯ってこんな感じかなぁって思うくらいの広さだ。身体を洗う場所も多いし……。……この屋敷って一体どんな人が元々所持していたんだろう。男湯と女湯でわかれているのもすごい。そしてそれとは別にこぢんまりしたお風呂場もあるそうだ。……お風呂場多くない?


「相当なお風呂好きが作ったんでしょうねぇ……」


 しみじみと呟くセレストに、私は同意した。

 脱衣所で服を脱ぎ、鞄からシャンプーとトリートメント、石鹸と石鹸を泡立てるためのネット、背中を洗うためのボディタオル、タオル……をセットしている籠を取り出した。濡れても大丈夫な籠だから、そのままお風呂場に持っていける。……ついでにお風呂に浮かべるアヒルもセット内容に入っている。お風呂と言えばアヒルのイメージがあるのよね……。浮かべて入るとなんだか童心に帰るのよね。


「……メイちゃん、それなぁに?」

「お風呂セットです!」

「いろいろなものがあるのねぇ……」


 感心したようにセレストが視線を落とす。籠の中身を見て、アヒルと目が合ったのかふにゃりと笑った。……うわぁ、セレストのその表情、すっごく可愛い!


「これはどうやって使いますの?」

「湯船に浮かべます。浮かべるとなんだか楽しい気持ちになります!」

「そうですの? ふふ、それは楽しみですわね」


 ……それにしても、セレストのスタイル良いなぁ。普段聖職者のローブを着ているからほとんど身体のラインがわからないのよね。髪の毛もサラサラツヤツヤ……。本当、綺麗で羨ましくなるわ……。

 一緒にお風呂場に入って、身体を洗うところへ。シャワーも設備されているし……と言うか、この世界を書いた女神さまが一体どの時代を想定して書いたのかもさっぱりわからない。もしかしたら、良いところをミックスさせているのかもしれないけれど。

 シャワーを浴びながらそんなことを考えていた。

 しっかりと地肌の汚れをシャワーで落としてから、シャンプーを泡立てる。爪で傷つけないように頭を洗って、泡を洗い流す。それをもう一度繰り返してからトリートメントに手を伸ばして毛先を中心に塗っていく。濡れタオルを用意して、髪の毛をまとめた。トリートメントを馴染ませている間に身体を洗う。

 石鹸とネットを取り出して、もこもこに泡立てる。腕から手のひらを使って洗う。手で洗うと肌に良いって聞いたことがあるけど、実際はどうなんだろう? 背中は手が届かないからボディタオルを濡らして絞り、もこもこの泡をボディタオルに乗せて背中を洗う。あんまりゴシゴシしないように。泡を流す頃にはトリートメントも馴染んでいるだろうから、濡れタオルを取って一緒に流す。その後に洗顔。さっぱり!


「……セレストの髪は長いから、洗うの大変そう……」

「慣れですわ、慣れ」


 私が全部洗い終わる頃、セレストは髪を洗っていた。腰まである髪の毛だから、洗うのもひと苦労しそうだ。


「……私が洗ってみてもいいですか?」


 そしてそんな綺麗な髪を見ていたら、うずうずと好奇心が湧いて来た。セレストが一瞬キョトンとした表情を浮かべたけど、私の顔を見て、「それじゃあお願いしてもよろしいかしら?」と微笑んだ。

 私がセレストの後ろに回り、彼女の髪に触れる。濡れているけれど、しっとりとした質感だった。きめ細かいというか……うーん、素晴らしく綺麗な髪だわ……。金色の髪の毛……。うっとりとしながら彼女の髪を丁寧に洗う。


「メイちゃん、洗うの上手ね」

「そうですか? ありがとうございます」


 自分の髪を洗うのと同じように……ううん、自分の髪を洗うよりも丁寧に洗っていたからかな?

 泡だらけになったセレストの髪。それを洗い流して、もう一度。長い髪の毛だから、三回くらいは洗わないといけないかな?


「セレスト、今何回目?」

「二回目」

「じゃあ、あと一回洗うね」

「ふふ、お願いします」


 もう一度シャンプーを泡立ててセレストの髪を洗う。セレストの使っているシャンプーは花の香りがした。多分、バラ。今日はもうどこにも行かないから、香りが立つのでもいいものね。良い匂い。セレストの雰囲気にも合っている。


「シャンプーはセレストが選んだんですか?」

「ええ。いろいろ試してみたのだけど、このシャンプーが一番わたくしに合っているようで……」

「うん、セレストの雰囲気に合ってると思う」

「ありがとう、メイちゃん。……ねえ、メイちゃんの使っているシャンプーってもしかして……?」

「あ、はい。私が作りました。錬金術で」


 なんせ錬金釜に材料を入れると出来るからね……。いろいろ試した結果、私は今のシャンプーが一番合っている。シャンプーやトリートメントも人それぞれだもの。


「錬金術師って本当にいろんな物が作れますのね……」

「はい。失敗したこともありますけどね」

「そうでしたの?」

「……ポーションの効能を上げようとして、激マズポーションを作ったことがあります……」

「まぁ!」


 飲むタイプのポーションだったけど、あまりの激マズさに直接傷口に掛けて使ったわ。それだけでも結構効果はあったけど……。


「他にも、マッサージオイルを作ろうとしてぬるぬるしたなにかを作り出したり……」

「ぬるぬるしたなにか?」

「オイルでは……なかったですね……」


 錬金釜にオイルとハーブを入れたのに、なんであんなにわけのわからないものを作ってしまったんだろう……。鑑定持っているとはいえ、錬金術は研究しないといけないってわかった事件だったわ……。ぬるぬるしたなにか、はお父さんの手によってヘアオイルに生まれ変わったけどね。


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