第38話
私の弓の腕は、彼らのお眼鏡にかなったってことよね。だったら、私は堂々としていればいい。きっと、そういうことを伝えてくれたのだろう。
「ところで王都へはまた馬車で?」
「ああ、このくらいの時間帯なら来るはずだから」
なんと、ルイはそこまで計算して洞穴の中を探索していたらしい。
「……気になることもあったし、ギルドマスターに報告しておこう」
「気になること?」
「言っただろ、綺麗だって。いくら新しい棲み処でも、あれだけ綺麗なのはおかしいから」
冒険者になったばかりの私には理解出来ないけれど、ルイたちにはなにか感じるものがあったみたいね……。みんなが少し深刻そうな表情を浮かべているのを見て、私はぎゅっと拳を握った。そして、ルイを先頭に森の中を歩き出す。
「……素朴な疑問なんだけど、ルイとナタンならどちらが強いのかな?」
セレストと一緒に歩いていたから、彼女にこそっと聞いてみる。セレストは私の言葉が意外だったのか、目をぱちぱちと瞬かせてそれから人差し指を立て、唇の横に当てて「そうねぇ……」と考えているようだった。
「メイちゃんの言うように、ルイは動、ナタンは静って感じだから、それぞれ強いとは思うけれど……、ふたりが戦ったらどちらに分があるのかしら。ねぇ、ナタン。あなたはどう思って?」
「ルイかと。オレはセレストを守れるくらいには強いけど、ルイと戦うのは絶対にイヤだ。剣が折れる」
「大事な剣なんですね」
「ああ。……オレが持てる、最高の品だからな」
確かにルイの大剣とナタンの細剣なら、バキッと大剣で折れそう。そんな失礼なことを想像しつつ、ルイが「俺だってナタンと戦いたくない」と言い出した。その理由は、内側から焼かれるのって絶対にヤダ、とのこと。
ゴブリンとの戦いでそういう戦い方していたもんね。
「その前にその防具突き破んないといけないだろ、レッドドラゴンで作った防具! 防御力どんだけあるんだよ……」
「え? ……そう言えばそうだった。なんか軽くて丈夫でつい使ってしまうんだよな、この装備……」
……ルイの装備品ってもしかして全部レッドドラゴン産? その剣ももしかしてレッドドラゴンの骨? ……どれだけ冒険者の力になりたかったのだろう、そのレッドドラゴン。
「……洞穴で言いそびれたけど、レッドドラゴンって喋るんだね……」
「生まれたばかりのレッドドラゴンは話せないらしいがな」
「そうなんだ~……」
この世界では、ドラゴンは人間の言葉を話せるもの、のようだ。
じゃあ、もしも別のドラゴンに会えたら会話も出来るのかなぁ? その前になにしに来たって襲われちゃうのかなぁ。
「……ドラゴン、見てみたいか?」
「機会があれば」
「なら、ますます冒険者ランクを上げなきゃいけませんわね」
どうして? と首を傾げると、セレストはこう続けた。
「だって、ドラゴンが棲んでいるところは、中級から行ける場所が主ですもの」
下級の冒険者が行って朽ち果てないように、そういう決まりがあるらしい。なるほど、自分のレベルと同等の依頼を受けられるって処置よね。
……中級なら逃げられるってことなのかなぁ……? 万が一、遭遇しても。
「あ、馬車が来た。ほら、王都に戻って、それから身体を休ませよう。昨日と今日、魔物退治だったから、明日は身体を休めるか、採取の依頼を受けること」
「冒険者生活って自由ね……」
「身体が資本だしな。明日の朝までになにをするか考えを纏めておくこと」
「うん、わかった」
馬車はあまり人が乗っていなかったから、私たちはそれぞれ適当なところに座って王都まで戻った。
王都に戻り、冒険者ギルドに向かった私たち。受付で依頼達成の報告と、洞穴で見つけた遺品を渡すと、受付の人は真剣な表情になり、「確かにお預かりしました」と深く頭を下げた。そして、ルイが「ギルドマスターっている?」と声を掛ける。
「はい、今日は二階に」
「わかった。ちょっと話してくる。メイたちは先に屋敷に帰っていて」
「ああ、それじゃあまた後で」
ナタンが小さくうなずくと、ルイは軽く手を振って二階へと向かって行った。ナタンが報酬を受け取り、私たちはルイの屋敷へと足を進めた。……いつ見ても広い屋敷よね……。
「……ルイが話す内容ってどんなのでしょうか」
「ゴブリンたちがあそこを棲み処にしていたのは、人間の仕業かもしれないってことじゃないか」
「えっ」
「人工的に作られた洞穴のように見えた。手が掛かりすぎているというか……」
そんなことまでわかるんだ!? 冒険者の観察眼ってすごいなぁ……。いや、私が知らないだけで、みんな知っているのかもしれないけど……。
屋敷に辿り着いて玄関から中へ入ると、ジェフリーとダーシーが「お帰りなさいませ」と頭を下げて出迎えてくれた。
「ルイさまは?」
「ギルドマスターに報告することがあるってことで、先に帰って来た」
「かしこまりました。メイさん、セレストさん、お風呂沸いていますが、入りますか?」
「入ります!」
私とセレストの声が重なった。
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