第37話

つまり、それくらいふたりの仲は長いということで……。うーん、冒険者になるルートもいろいろあるんだな。セレストは貴族の令嬢として生まれたのに、冒険者に憧れて神殿経由で冒険者に。ナタンはセレストの護衛なのだろう。そしてルイは冒険者に拾われて自身も冒険者になり、レッドドラゴンの望みを叶えて現在、と。


「……ひとりひとり、物語になりそうね……」

「ふふ、それを言ったら、メイちゃんだって物語になりますわよ。故郷を救うため! って」

「あはは……」


 スケールが違うような気がするのは私の気のせいかしら? いやでも、いろんな理由で冒険者を目指すことになったのだから、それでいいのかもしれない。だって、女神さまも言っていたじゃない、この世界は生きているって。生まれ変わったのがまさかの小説の中だったけど、この世界はきっと女神が書いた小説の通りにはならないだろう。そのために、動いているわけだしね!

 一通り話が済んだ私たちは、洞穴の中をまた歩き始めた。ゴブリンたちが集めたであろう物を回収して、宝箱があるのを見つけるとトラップがないか確認して開けてみたり……。なんで洞穴の中に宝箱があるんだろうなんて、きっと考えてはいけないことよね。……宝箱といえば、森の中や山の中、平原にもポツンと置いてあるって噂、本当なのかな……?

 誰が置いているんだろう。神さまからの贈り物なのかな? ポーションとか傷を癒す薬系、武器防具系といろいろあるらしい。風の噂で聞いたことがある。……なんでレッドドラゴンのことは風の噂で流れないのに、宝箱の噂は流れたんだろう……。

 ……あ、もしかして……、ロベールのため……?

 そう考えるとなんだかしっくりくるわ。ルイとロベールは小説で一度も会ったことないはず。ロベールに必要か、そうじゃないかで風の噂がパント村に届いたり届かなくなったりするのかもしれない!

 ……でも、そう考えるとなんだか複雑な気持ちね……。

 そりゃあ、ロベールは勇者なのだから必要な噂は聞かなきゃいけないだろうけど、せっかくだからいろんな噂を広めてくれてもいいのに……。それとも、パント村にそういうなにかがあるかな……?


「メイ?」


 ルイが心配そうに声を掛けてきた。私はハッとしたように顔を上げて、「なんでもないよ」と慌てて両手を振る。


「宝箱があったことに驚いただけだから」

「あー、……確かに驚くよな、コレ」

「ダンジョンにあるのは不思議ではないと思うんだけど、洞穴にあるとは思わなくて……」


 冒険者生活二日目。驚くことはいっぱいある。その驚きをみんなに伝えると、みんな懐かしむように私を見ていた。きっとルイたちも最初そんな感じに驚いていたのだろう。


「世の中不思議なことがたくさんあるよな」

「それは言えてる」


 ルイと私の会話を聞いていたふたりは、柔らかい表情を浮かべていた。そして、洞穴を最後まで探検して回収できるものは回収して、王都へ戻ることになった。

 洞穴から出ると、あれだけいたゴブリンの遺体は消えていた。どうやら魔物を弔うとこうなるらしい。……本当にどういう仕組みなのか。そして、ナタンの放った火はゴブリンを焼いた後、勝手に消えたみたいだ。


「……すごい、火も消えている……」

「魔物を焼いたら消えるように指定したからな」

「指定? そんなことも出来るんですか?」

「ああ。魔法を使う時に細かい指定が出来る」


 ナタンはさらっと言っているけれど、多分……ううん、絶対にかなり大変なことだと思う。それを出来るってことは、ナタンは魔法使いとしてもかなりの腕前だ。だって、あれだけのゴブリンを燃やして、燃やし尽くしたら勝手に火が消えるように指定するなんて、どれだけ細かい指定なのかわからない。


「ルイは動、ナタンは静って感じの戦い方だし……、みんな本当にすごい……」


 ゴブリンたちと戦っていた時のことを思い出して、思ったことを口に出すと、ルイとナタンは私の肩をポンポンと叩き、セレストは私の頭を撫でた。


「メイちゃんの戦い方も素晴らしかったですわよ。弓で動きの素早いゴブリンたちを倒していったのですから」

「ああ、その腕ならもっと自信を持って良い」

「……っ、ありがとうございます!」


 ばっと頭を下げると、みんなもう一度同じことをしてくれた。弓の腕を褒められるのってなんだかくすぐったい。


「この依頼と……あと数件、魔物退治以外もこなせばすぐにランク上がりそうだね」


 ルイが指折りなにかを数えていた。なにを数えていたのかな、と思ったら、恐らく私の冒険者ランクを上げるための依頼を数えていたのだろう。


「えっ、そんなにすぐランクって上がるんですか?」

「上がる上がる。下級よりも中級のほうが選べる依頼増えるし、サクサク上げていこう」

「……みんなに上げてもらうのってずるくない? 大丈夫かなぁ……?」


 不安げに眉を下げてそう言うと、セレストがくしゃりと私の髪を撫でた。


「わたくしたち全員が、メイちゃんには中級になる資格があると言っていますのよ?」


 自信に満ち足りた言葉に、私は思わず目を丸くした。


「セレストの言う通り。俺らがメイなら大丈夫って思っているから推しているだけ」

「謙遜も過ぎると嫌味になるから、気をつけたほうがいい」


 ルイとナタンにも言葉を掛けられて、私はその意味を噛み締めるように胸元に手を置いて深呼吸を繰り返した。


「わかった、ありがとう!」

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