第36話
そう言えば、ルイは元々パーティを組んでいたのよね。当時のメンバーはウォルターさん以外にいるのかなぁと考えていたら、先にナタンが口を開いた。
「確か、ウォルターとパーティを組んでいたよな。パーティメンバーは彼以外にいたのか?」
「いや、ウォルターとだけ。俺、目の色が紅いだろ。他の人は不気味がって遠巻きにしか接してこなかった」
「綺麗な色なのに……」
ぽつりと私が呟くと、ルイ以外のふたりが吹き出した。なぜ笑い出したのかわからなくて、ナタンとセレストを見ると、ふたりとも肩を震わせていた。
「……レッドドラゴンを倒してからはかなり構われていたじゃないか」
ナタンが笑いを治めてから、当時を思い返すように目元を細めた。ああ、そうだ。ルイは
「……それさ、前から訂正しようと思っていたんだけど……。俺がレッドドラゴンを倒せたのは、レッドドラゴンに頼まれたからだよ」
……レッドドラゴンに頼まれたから、倒せた……? しん、と空気が静かになった。
「どういうことですの?」
セレストが尋ねると、ルイはぴたりと足を止めて、ガシガシと後頭部を掻いた。なんて説明しようか悩んでいるみたいだ。そして、くるりとこちらを向いて口を開いた。
「一年前、採取の依頼を受けてそれを採りに行っていたところ、レッドドラゴンが暴れているって話を聞いて確かめに行った。不思議なことに、レッドドラゴンは周囲には被害を出さず、自分の棲み処でのみ暴れていた。老いて理性が消えたわけじゃないって気付いたさ」
ルイの口調は淡々としていた。でも、当時を思い出してほんの少し悲しそうにも見えた。
「やっと冒険者が来たか、とレッドドラゴンは言った。レッドドランゴンは、暴れることで冒険者が来るのを望んでいた。――自分を、冒険者に倒させるために。もちろん、暴れまくるレッドドラゴンを退治しに行った冒険者たちは結構いたけれど、みんな途中で引き返していたらしい。なんでも、幻術が使われていたらしくて、恐ろしくなった冒険者たちは逃げたそうだ」
肩をすくめるルイ。ナタンとセレストが「確かに聞いたことある」とうなずいていた。……そんな話題、一年前のパント村には全然来なかったけど……。パント村が田舎過ぎるのかしら……? そう思うと確かに田舎だけど……としか言えなくなってしまうけどね!
「レッドドラゴンは自分を倒す冒険者を選んでいるみたいだった。幻術が掛けられたことなんて知らない俺は、普通にレッドドラゴンの棲み処に登って、レッドドラゴンが『自分の命の終わりは冒険者に倒されて終わりたいのだ』と言ったから、望み通りにしてやっただけ。だから、倒したには倒したけど、あれはただ単に冒険者に倒されたいレッドドラゴンだったから倒せたってだけなんだよ」
そして自分の遺体は好きに使ってくれと言われたので、空間収納鞄に入れて王都まで戻ったらしい。ウォルターさんに経緯を話して、レッドドラゴンを解体してもらい(かなり時間が掛かったそうだ)、現在のルイの装備品になった……とのこと。
「……レッドドラゴンは冒険者と戦いたかったのかな……?」
「そのまま寿命を迎えるよりも、自分が選んだ冒険者の力になりたかったらしい」
……ってことは、幻術を破ったルイがレッドドラゴンの選んだ冒険者になったってことね。……それにしても不思議。どうしてルイには幻術が効かなかったのかしら?
「……ルイ、ひとつ質問してもよろしいかしら?」
セレストが顎に指を掛けてじっとルイを見つめた。
「もしかしてあなた……、他の幻術も見破られるのでは?」
え、とルイを見ると、ルイはすっと視線を逸らして小さく首を縦に振った。ぽかんと口を開いてしまった。ナタンも驚いているのか、目を大きく見開いていた。
「……昔、神殿で聞いたことがあります。幻術を破ることの出来る人のことを。あなたにも、その血が流れているのかもしれませんね……」
「俺、孤児だったからそういうのもよくわからないんだけど……。その血統ってまだ生きているもんなのかな?」
「わかりませんわ。探してみないことには……」
「……え、あれ? ちょっと待って、セレスト、神殿にいたことがあったの?」
怒涛の新情報についていけない人がここにひとり。確かに僧侶とは言っていたけど、冒険者になる前は神殿で暮らしていたの? いろいろ尋ねたいけれど、セレストは首を傾げたまま「そうですわよ」と工程の言葉を返した。
「……神殿で暮らしていた人が冒険者になれるんですか?」
「前提が逆ですわよ、メイちゃん。わたくしは、冒険者になるために神殿で暮らしていたのです」
冒険者になるために、神殿で暮らしていた……?
「わたくしは、神殿で神に仕えることで神聖力を賜りました。回復魔法、支援魔法を使えるようになるために、神殿で暮らすことを選んだのです」
「ちなみにオレも巻き込まれて、セレストが神殿で暮らしている間、オレも神殿で暮らしていた」
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