第35話
洞穴の中を進んでいくと、確かに人のものらしき衣服や鞄があった。その周りに見えているのは……じ、人骨!? びくっと身体を震わせた私に、ルイとナタンが困ったように眉を下げ、セレストはそっとその場にしゃがみ込んで祈りを捧げた。ふわり、と白い球体が浮き上がり、天へと昇っていく。……セレストの祈りで、成仏出来たのかな……、この世界成仏って概念あるのかな……なんて考えながらその様子を見ていた。
「……この近くに住んでいた人でしょうか……?」
「いや、多分冒険者だな。持ち物がそれっぽい」
「えっ、あの、漁っていいものですか……?」
「漁るというか、回収。冒険者カードもあるし、ポーションに松明、その他冒険に必要なもの諸々、さらに武器。仲間がいたかはわからないけれど……、ここで襲われて亡くなったようだ」
「……そういうのもわかるんですね」
人骨の近くにあった荷物をルイたちは回収していく。こういうところで亡くなった冒険者の持ち物は冒険者ギルドに預けて、冒険者になる前に記入した用紙を確認して遺族が居れば遺品として渡すそうだ。
ルイが地面を掘って人骨を埋め、お墓を作った。みんなで祈りを捧げてから、奥へと進む。
「……人骨はそのままなのね」
「肉体がここで果てたからね。骨もここで眠らせる……そうすると、天でまた同じ身体になれるらしいよ」
本当かどうかは知らないけど、とルイが言葉を続けた。……この世界では、そういう仕組みになっているのだろう。魔物は人間を襲い、人間は魔物を襲う。……一体、どちらが始めたことなんだろう?
「メイちゃん? ショックが大きかった?」
「……あ、ううん。冒険者になるって決めた時から、こういうことはあるだろうなって思ってはいたの。……ただ、そうだね、なんというか……、魔物は魔物の、人間は人間の暮らしがあって、相容れることは出来ないのかなって考えちゃって……」
私が前世で読んでいた、この世界の小説。勇者であるロベールが魔王を打ち倒すっていう、ありふれた設定でもあったのだけど、勇者には勇者の葛藤があり、魔王には魔王の葛藤があった。魔王が目覚めた時、それは既に人間が魔物を退治するのが当たり前の世の中で、魔物を守るために魔王は立ち上がる。そして、魔物を守るために人間の村を襲う。もちろん、人間も抵抗するけど……。
同じ世界で暮らす同士、相容れることは出来ないのかなぁ……なんて。
「……メイちゃんは面白いことを考えますのね……」
「面白いことかな? 人間も、魔物も、生き残るのに必死ってことだよね」
「ん~……、そんなに深く考えなくても良いと思うけど」
「え?」
ルイが先頭を歩きながら、ちらりと私のことを見て肩をすくめる。
「そりゃあ、人間を襲う魔物もいるし、悪巧みしている魔物もいるだろう。でもそれって、魔物だけに言えることだと思う?」
ルイの言葉に重みを感じた。……言葉が通じる人間でさえ、争っているのを知っている。そして、ルイは自分が紅眼と言うことで、余計につらい目に遭っていた。
「俺らは冒険者だ。依頼を達成することだけ、考えればいいよ」
「……そんなもん?」
「そんなもん」
「要注意、が魔物だけには限らないからな」
ナタンがつけ足した。山賊だって海賊だって、人間がやっていることだろ、と。……うーん、確かにそう考えると、私の考えはちょっとアレなのかもしれない。冒険者として、ふわふわした考え方になっていたな。反省。
「……そっかぁ……」
みんなに話してみて良かった。なんとか自分の考えが纏まった。うん、私は目の前の目標をひとつひとつこなしていこう。悪さをしている魔物たちを退治したり、人の役に立つ冒険者になりたい。そして、絶対にパント村を救うんだ。ロベールが安心して帰省出来る場所にするんだ。
パンッと頬を両手で打った。気合を入れるように。みんな驚いたように目を丸くしていたけど、私はにこっと笑ってみせた。
「ありがとう、冒険者としての心構えが定まったわ!」
「……それは良かった」
「メイちゃん、メイちゃんの考えも素敵でしたわ。わたくしではそういう考えは出来ませんでしたから……。そのままのメイちゃんでいてくださいませね」
褒められているのかどうか少し怪しい気がしたけど、セレストが美しい笑みを浮かべながらそう言った。ナタンが「この人は……」とどこか呆れたような視線をセレストに送っていたのが印象的だった。
「生存競争って感じだなぁ……」
「はは、確かに」
とりあえず、今の目標は……冒険者ランクを上げること、かな。
「……それにしても、この洞穴広いね……?」
「そうだな……、きっと新しい住処だったんだろうな」
「新しい住処? どうして?」
「犠牲者が少ない。さっき見たひとりだけ。あとは綺麗だし……」
綺麗じゃない洞穴ってどんなのだろう、と想像しようとしてやめた。なんか、怖い。
「みんなは、そんな洞穴に入ったことがあるの……?」
恐る恐る尋ねると、一斉にこくりとうなずいた。……ひぇぇ……。
「あの光景は忘れられませんわね……」
「まぁ、すごかったからな……」
「俺はソロになってから……まぁ、いろいろと?」
それぞれ見たことがあるらしい。そしてあまり思い出したくないのか、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。
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