第34話

「うん、ここの巣窟のゴブリン全部出てきたようだ」


 ルイがにっと口角を上げた。――もしかして、戦闘を楽しんでいる系なんだろうか。……と言うか、ナタンもセレストも余裕そうに笑ってる。ええ、なんで笑うのこの人たち。私も笑うべき? なんて困惑していると、ルイがあの大きな剣を抜いて、ゴブリンたちに向かって駆けていく。大剣を振り回すルイと、ナタンは細剣に火の魔法を纏わせてゴブリンたちに向かっていく。ルイの大剣の擬音がブンッと言う力強い音だとすると、ナタンの細剣の擬音は……無に等しい。なにあの身のこなし! まるでダンスを踊っているようだわ! いや、ぐっさぐっさ細剣でついて内側から焼くっていうえげつないことしているけど! 突くための剣ってなんて言ったっけ……、レイピア、だっけ? いやいや、違う、私もちゃんと戦わないと!

 ルイが……多分、私も戦えるように気を遣ったのだろう、倒し損ねたゴブリンたちを私が弓で射貫いていく。鑑定のおかげでどこが急所なのかもわかるし、そこを狙って射貫く。がんばれ、私。


「――主よ、我らに力を貸したまえ――……!」


 なんだか身体に力がみなぎる。今なら、ゴブリン二匹を一気に貫けそう! そう考えて弓矢を放つ。私の想像以上の力だったようだ。急所を貫かれたゴブリン三匹はその場で倒れる。ルイも、ナタンもゴブリンたちをなぎ倒していく。

 戦闘時間、恐らく十五分程度。――私たちの勝利だ。

 濃い時間だった。手が震えている。なんで震えているのかわからない。ただ、やり遂げた、と言う安堵感があった。


「ご苦労さま。依頼達成だ」

「――こ、こんなにあっさり勝っちゃって良いのでしょうか……」

「良いんだよ。中堅ランクがふたり、規格外がひとりいるのだから」


 ナタンがそんなことを言いながらゴブリンたちの心臓らしき石を取っていく。ルイも。セレストはやっていない。私がおろおろしていると、ルイが私に視線を向けた。


「メイ、ゴブリンの素材って要る?」

「え、えーっと、……ちょっと待ってね」


 じっとゴブリンを鑑定してみる。……うーん、私にはあまり必要ないかな。


「要らないわ」

「そう? じゃあ、これは燃やして良いか」

「そうですわね。森は燃やさないように気をつけてくださいませ、ナタン」

「……やっぱりオレが焼くのか」


 諦めたようにナタンが肩をすくめる。ゴブリンたちから石を取り出し終わってから、ナタンがパチンと指を鳴らすとゴゥッと大きな音を立ててゴブリンたちが燃え出した。

 セレストは目を閉じて杖を握り、「――さようなら」と小さく呟いた。もくもくと立ちのぼる煙が段々とキラキラ輝き始めた。びっくりして目を大きく見開くとポンっとルイが私の肩に手を置いた。


「僧侶が魔物のことを見送ると、こんな風になるんだ」

「……そうなんだ……」


 ……そうだよね、魔物だって生きているのだから……。聖職者に祈られたほうが心安らかに逝けるのかな……?


「……さて、それじゃあ洞穴の探検に行こうか!」

「――へ?」


 依頼達成で終わりじゃないの!? と驚いていると、「ここからはただの探検ですわよ」とセレストがクスクス笑っていた。


「ゴブリンの洞穴にはどんなものがあるんでしょうか」

「いろいろ。ゴブリンが集めた……と言うか、人間から奪った物が主かな」

「人間から奪った?」


 ゴブリンが空き巣のように集めたのかな……? ……そんなわけないよね。

「こういう洞穴ってさ、雨が降った時に中に入ってしのぎたくなるだろ? そういう人間を狙って、ゴブリンたちが襲い掛かるんだ」

「セレスト、中に入ったらまず遺体の確認、もしも居たら祈ってくれ」

「かしこまりました、ルイ」


 ごくり、と唾を飲み込んだ。……そうか、そういうこともあるのか……。ルイがこの依頼を受けたのは、亡くなってしまった人を弔うためだったりもするのかな……?

 武器は構えたまま、洞穴の中に入る。セレストが「灯りを出しますわね」とホワンとした球体を数個出した。ほわほわしている。でもとっても明るい。ゴブリンを倒したから敵が現れることもないだろうし……。そう言えばこの世界って松明あるのかな? 魔法がある世界だから、松明はあんまり使わないのかな~?


「……ゴブリンたちの巣窟って、こんな感じになっているんですね……」


 辺りを見渡して感心したように呟くと、セレストがふふっと笑う。


「もっとすごいところもありますわよ」

「すごいところ?」

「ええ、ダンジョンです。わたくしとナタンも、たまに行っていましたわ」

「ダンジョン……!」


 ……そう言えばロベールも勇者のつるぎを手に入れるためにダンジョンに挑戦していたな……。本を読んでワクワクしていた前世を思い出して、懐かしくなった。私が目元を細めていると、なにを思ったのか、セレストは私の肩に手を置いて、明るい口調でこう言った。


「そのうち、わたくしたちも行きましょうね、ダンジョン」

「……うんっ!」


 行ったことがないから拗ねていると思われたのかな? でも、そんな風に気を遣ってもらえるのが嬉しくて大きくうなずいた。

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