第33話
馬車で森へ向かい、目的地の近くで降りる。セレストはナタンにエスコートされて降りた。その姿がとっても貴族! エスコートし慣れている男性と、エスコート慣れしている女性。この部分だけ抜き取ると、お忍び貴族の道中って感じ。私もルイにエスコートしてもらったけど、あんな感じには出来なかった。ただ単に手を繋いで降りただけって感じ。うーん、やっぱり貴族ってひとつひとつの動きが洗礼されているのよね……。……セレスト以外の貴族って見たことないけど。
「森のどこら辺に巣窟があるかってわかるの?」
ルイに尋ねると、ルイは「もちろん」と首を縦に振った。ナタンとセレストは武器を持つ。私も鞄から弓と弓矢を取り出した。
「それじゃあ、少し待って」
ルイはそう言うと、タン、と靴を鳴らすように地面を叩きつけるように踏んだ。なにをしているのかな? とルイをじっと見つめると、その視線に気付いたのかこちらに顔を向けたルイが、「こっちだよ」と森の奥のほうへ指差した。
「ルイは魔物の位置がわかるのか?」
「うん。なんか、気付いたらそういうことが出来るようになっていた」
「まぁ、それはとても便利な能力ですね」
「うん。そのおかげでメイたちを助けることが出来たからね」
……そっか、私たちが魔物に襲われた時に、この能力を使って助けに来てくれたのか。ルイの能力便利だなぁ。
「その節はお世話になりました」
「こちらこそ」
レオパート・クイーンを倒した時のことを思い出して、小さく口角を上げた。そして、ルイの案内でゴブリンの巣窟まであっという間に辿り着いた。
「メイ、これをあの洞穴前に落せるか?」
煙玉を取り出したルイは私に差し出しながらそう聞いて来た。私は、煙玉を受け取って、「やってみる」と力強くうなずく。
「ええと、この煙玉をこうやって括りつけて……」
紐を取り出してなんとか弓矢に括りつける。しっかりと紐を結んで、落ちないように工夫した。
「……これ、どうやって火をつけるの?」
火をつけるところがあるから、火をつけてから?
「じゃあ、オレがつけよう」
「えっ?」
ナタンって魔法が使えるの? と目を瞬かせると、セレストがにこにこと笑いながらナタンが得意とする魔法を教えてくれた。彼は火と水の魔法が得意らしく、さらに言えばその属性を剣に纏わせて戦う魔法剣士。なるほど、魔法剣士ってそういうことなのか! 人が魔法を使うところを見るのって、実は珍しいからわくわくして来た! そりゃあお父さんが魔法を使ったところを見たことはあるけれど、身内以外の人は初めてかも。
「では、お願いします」
私は茂みの中にしゃがみ込んだまま、弓を構える。狙いを定めて――射る! 狙い通りに洞穴近くへ落とすことが出来た。そして、それと同時にナタンが人差し指に魔力を集めてすっと狙いを定めて煙玉に火を点けた。……もしかしてこれ、ナタンのほうが難易度高いんじゃ? ただ、洞穴のほうに煙が行くかわからなかったから、私はこっそり風の精霊に洞穴の中に煙を流し込むように頼んだ。風の精霊は「いいよー」とあっさり了承してくれた……。
「あら、すごいですわ……。煙が洞穴に吸い込まれているみたい……」
セレストの言葉にちょっとだけ肩をびくっと跳ね上げた。ルイが意味深に微笑んでいるのが見えたけれど、私はそっと顔を逸らした。
「さて、それじゃあ今のうちに、セレスト、お願いします」
「もちろんですわ」
セレストが心得たとばかりに綺麗に微笑んで、杖を握って目を閉じる。セレストがなにかを呟いているけれど、何語なのかさっぱりわからない。……でも、なんだか身体が軽くなったような気がした。なんだろう、これ?
「身体強化の神聖術です。回復と支援はわたくしにお任せあれ」
「俺が先陣を切るから、ナタン、メイ、セレストも続いてくれ。あ、セレストはフォローでね」
「ええ、残念ながらわたくしに攻撃力はありませんから……」
武器も杖だしね。しかもなんだか神聖な気がするから、攻撃するには向かないだろう。
「メイ、……クイーンのような戦い方はしなくて良い。出来れば、俺が捌けなかった敵を集中して倒して。ナタン、出来るだけセレストのフォローを頼む。神聖術持ちってことは、一番的になりやすいからな」
「……ルイはこういう連係プレーに慣れているのね?」
「うん、まぁね」
きっとルイはこうやって生きてきたんだろうなぁ……。そして、匂いにおびき寄せられたゴブリンたちがわらわらと出てきた。私は深呼吸を繰り返して、一度ぐっと拳を強く握ってからすぐに離す。大丈夫、ルイの強さを知っている。それに、ナタンとセレストがどんな戦いをするのかをこの眼に焼き付けないと!
前衛であるルイとナタン、後衛である私とセレスト。
――さぁ、ゴブリン五十匹討伐、開始!
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