第11話

 ――そして翌日、今日は教会のミサの日だ。時間までに教会に向かい、始まったら神さまに祈りを捧げる。週に一度のこの時間は、村人たちにとっても大切なものだ。


 ロベールも祈りを捧げている。


 ……こっちの神さまについて思い出そうとして、そもそも「神の導きがありますように」とか「神はすべてを見ています」的なセリフはあったんだけど、神さま自体には触れられていなかったことを思い出した。


 十六歳で旅立つロベールには、仲間が出来るんだけど、そのひとりが聖女なんだよね……。っていうことは、やっぱり神さまの設定はあるのだと思うけど、あえて出さなかったのかなぁ……?


 うーん、大好きな本だったから何度も読み直したし、内容も結構頭に入っていると思うけど……。人の記憶って曖昧よね!


 つまり、原作を知っているからと言って、過信して進むことは出来ないってことだ。慎重にならないとね。うん。お祈りと言うか考察になってしまった、ごめんなさい神さま。そう心の中で謝り、ミサを終えて教会の外に出る。


 ミサのある日を休みに決めていたから、ロベールを誘って遊びに行った。村長たちはそのまま家に戻ったり、会話したりと楽しそうにしていた。大人の会話は子どもにはあまり聞かせたくない部類も出て来るだろうから、自主的に離れたのだ。


「メイベル、弓を習い始めたって本当?」


 ロベールと駆けっこで遊んで、息が切れてきたら「休憩~」と木の根元に座り込むと、ロベールが隣に座って尋ねてきた。……私が弓を習い始めたことを知っているロベールに驚いた。あの日から、ロベールはうちに来たりしなかったのに。


「そうだよ、よく知っているね」

「おじいちゃんが教えてくれた」


 田舎あるある、を体感した気になった。気付いたら村人全員が知っているってこと、ありそう。小さな村だし。


「……どうして、習い始めたの?」

「夢のため、かな」

「夢?」


 こくんとうなずく。私はロベールに軽く私の考えていたことを話した。すると、ロベールは目を大きく見開いて、それから泣きそうな顔になった。びっくりしてロベールを見ると、「メイベル、遠いところに行っちゃうの……?」となんとも悲しそうに聞かれた。


「……うん、でもね、一年くらいで戻って来るつもりなの」

「え?」

「仲間を連れて戻って来て、みんなと仲良くして欲しいなって!」


 ……本来の目的は村で一年住んでもらって、ロベールが旅立つと同時に魔物の襲撃に備えてもらう、なんだけど。


「この村ってさ、お医者さんくらいしか来ないじゃない? もうちょっと拓けた場所になって欲しいというか、なんというか」

「……メイベルは、この村の未来まで考えられるんだね、すごいなぁ……」


 涙を浮かべていたロベールが、今度はキラキラとした目で私を見つめた。


「内緒だよ、これは、私とロベールふたりの秘密」

「うん、約束する」


 いい子だ! すっごくいい子だ! もう頭をわしゃわしゃと撫でたいくらいに!


 ……ただ、多分、お医者さんくらいしか来ないのは、故意的だと思うんだよね。この村で、勇者を立派に育てるために、外の人を入れないようにしているんじゃないかって……。きっと村長にロベールを預けた人は、この村で伸び伸びと暮らすことを望んでいたと思うのよね……。この村、長閑のどかだし、いろんな美味しいものもあるし、店屋だってお父さんの工房で薬を売っているし、ホレスさんのところでは武器防具を入手できる。冒険に旅立つものが揃った村なのだもの。……うん、やっぱりそう考えると、ここがロベールに取って、一番旅に出やすい場所だったのだろう。


「メイベル?」

「休憩終わりっ、遊ぼう、ロベール!」

「うん!」


 だから、だからさ、今のうちにたくさんの思い出を、ロベールに作って欲しい。万が一のことを考えて。思い出は……失った時、最初は辛くても、後からきっと、力になってくれると思うから。わかっている、そうであって欲しいという、私のエゴだ。


 村を救う気ではいるけれど、どうなるかはわからない。


 だからこそ、いっぱい思い出を作っておきたいの。私のためにも。


 この村には大好きな人たちが住んでいるし、お母さんのお墓もある。


 ……こういう小説やゲームの中に生まれ変わった系の小説って、大体『原作の強制力』が働く気がしてね。そうなると、いくら手を回してもこの村滅んじゃうことになるかもしれないし。


 ……この世界の神さまって、本当にどんな存在なんだろう……?


 ちなみに原作者は崖から足を滑らせてそのまま……というのはネットニュースで見た。案外原作者も生まれ変わって、この世界を堪能しているかもしれないね。

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