第8話
私が首を傾げてお父さんを見ると、お父さんは「気になる?」と聞いて来た。こくりとうなずき、返答を待つ。
「量が増えれば増えるほど時間は掛かるし、エリクサーを作ろうと思ったらかなり時間が掛かる。主に、材料を手に入れるのに」
「……なるほど」
「……エリクサーって本当にあるんですか?」
「伝説扱いされているけど、エリクサーしか作らない錬金術師もいるくらいだよ。まぁ、その人たちはかなり
眉を下げて肩をすくめるお父さんに、ロベールは感心したようにうなずいた。
「ザールさんは作れますか?」
「時間があればね」
……うん? ってことは、お父さんはもしかして私が思う以上に錬金術師としての腕があるってこと? ……魔王が目覚めて、勇者が旅立って、その後すぐにこの村は滅ぼされる。……私の勘が正しければ、この村に住んでいる人は――……。
「メイベル? どうしたの、難しそうな顔をして」
「あっ、ううん。私も腕を上げれば作れるのかなって思っただけ」
「メイベルならきっと作れるよ!」
「……はは、ありがとう……」
……エリクサーを作れるのに、お母さんを亡くしてしまったお父さんの気持ちを考えると、やるせないものを感じるわね……。
「さて、メイベル。大人用の薬を作ってみるかい?」
「う、うん!」
お父さんは錬金釜の前に私を立たせた。私に錬金釜に入れる薬草と甘味草を持たせて、ひょいと抱き上げられた。……確かに私の身長では届かない。錬金釜に薬草と甘味草を入れる。薬草は一枚、甘味草は半分。ぐるぐるとかき混ぜて完成。
「……出来た……」
青い瓶に入った薬が出来た。……よし、もうツッコまない。
「すごいや、メイベル!」
ロベールが目をキラキラと輝かせてそう言った。眩しい笑顔だ。
「えへへ……」
お父さんも褒めてくれて嬉しくなった。頭も撫でられたし。
「それじゃあ次はロベール、作ってみようか」
「え、ぼ、ぼくも?」
「覚えておくと便利だぞ~」
お父さんがにこやかにそう言うのを見て、私は小説の内容を思い出した。そういえば、携帯用の錬金釜をロベールに渡していたような……。もしかしたら、こんな風に教えていたのかもしれないね。……お父さんはロベールが勇者だってこと、知っているのかな?
そんなことを考えていると、お父さんが「メイベルの初めて作った薬だよ」と青い瓶を渡してくれた。じっと見つめると鑑定された。
大人用のちょっと苦い薬、らしい。飲んでも掛けても効果はあるらしい。体力回復するらしい。便利な薬だ。
ロベールがお父さんに抱き上げられ、薬草と甘味草を錬金釜に入れてぐるぐるとかき混ぜる。赤い瓶の薬が出来上がった。
それをじっと見ると、子ども用の甘い薬、飲みやすいので飲みたがる子が多いと記されていた。鑑定能力、便利。
あー、風邪の時に飲んだシロップっぽい味なのかも。あれは飲みやすかった……と、前世の子どもの頃を思い出してゆっくり息を吐いた。
「成功ね、ロベール!」
「うんっ!」
嬉しそうに笑うロベールに声を掛けると、こくこくとうなずく。
「……あのさ、メイベル。今日作った薬、交換しても良い?」
「私が作ったのは大人用だよ?」
「それでもいいんだ。記念、だから」
記念? と首を傾げつつ、特に断る理由もないので交換した。ちなみに鑑定で制作者もわかった。本当に便利すぎて頼りになりそうな能力だ。これ、食材の食べごろとかもわかったりしないかな。
それがわかるととてもありがたいのだけど……。
「……あ、ぼく、そろそろ帰らなきゃ。剣の修行があるんだ」
「がんばってね」
「ん、ありがとう。またね。ザールさん、教えてくれてありがとうございました」
「また教わりにおいで」
「はい!」
ぺこりと頭を下げて去っていくロベールを見送って、お父さんは「あ、もうお昼だ……」と呟いた。錬金に夢中になっていて、こんなに時間が経っていたことに気付かなかった。空にある太陽はもう真上だ。早い。
……ロベールって私と同い年だから五歳。五歳から剣を習っているのね……。
「ねえ、パパ。パパも子どもの頃から武器の修行した?」
「うーん、子どもに武器は危ないからって、八歳くらいからかなぁ」
「ロベールは五歳から剣の修行しているけど、良いの?」
八歳も子どもじゃないか、と思ったけど口にはせずに別の疑問を口にすると、お父さんは一瞬真剣な表情を浮かべてから、すぐに私を安心させるようににっこりと笑った。
「ロベールは特別なんだ」
「特別」
「剣の才能があるんだよ」
まるで、ロベールが十六歳で旅立つことを知っていそうな……、そして、それを隠しているような表情だった。……この村の人たちは、ロベールが勇者だってことを知っている? だから、真っ先にこの村は狙われたのかしら。
勇者を絶望させることが目的かと思っていたけれど……、別の理由があるかもしれないね。
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