第3話
翌日もゆっくりと休んで、身体の調子はすっかりと良くなった。お父さんもそれをわかっているのか、「明日からお手伝いよろしくね」と優しく微笑む。私がこくりとうなずくと、お父さんはそっと私の頭を撫でた。
そして待ちに待った待望のお手伝い初日!
お父さんと一緒に薬草を採取しに行く。
「お弁当も作ったから、一緒に食べようね」
「うん!」
採取というよりピクニックでは……? と思いつつ、私はお父さんと一緒に村の近くの森まで歩いた。……流石に、五歳の子どもの体ではお父さんと同じようには歩けなかった。お父さんは、私が来るのを待っていてくれた。良い人だ。手を貸そうともしてくれたけど、私はそれを断った。ちょっと寂しそうな顔をしていたお父さんを見て、胸が痛んだけれど……。
ひとりで出来ることは、ひとりでしてみたいの。まだ五歳だけど、中身は十六歳だもの。それに、前世ではこんな風に身体を動かせなかったし!
「メイベル、ここがいつも採取している場所だよ」
「わぁ、お花もいっぱい咲いてる! きれい!」
「そうだろう? いつかメイベルを案内したかったんだ。こんなに早く連れてくることになるとは思わなかったけど……」
……いつかは手伝って欲しかったのかな? そんなことを考えながら、私はお父さんに薬草の種類を教えてもらいながら採取を始める。……ん? あれ? なんだろう、これ……?
私の目の前に飛び込んできたのは、よく漫画やゲームで見る説明欄のようなもの。
あ、もしかしてこれ……、鑑定? ライトノベルやアニメでよく見るやつ!
私がじっと目を凝らして薬草を見ると、『薬草。煎じて飲むと体力が回復するがとても苦い。だが、甘味草と合わせることで飲みやすくなる』と説明されていた……。
辺りを見渡して、他のも確認してみる。
『甘味草。そのまま食べても甘い。甘すぎるため個別には使われない』
そのまま食べられるの!? 甘すぎるってことは、砂糖やはちみつのような感じかな……?
他にも『苦味草。痛み止めの効果があるがとても苦い。大人が泣き出すほど』とか、『毒草。人間の致死量は毒草×七を煎じて絞った汁。ただし煎じた際に発生する煙にも毒があり、暗殺には向かない』など……ものすごく詳しく説明されていた。っていうか毒草の説明怖いわ!
あ、でも注意書きがある。『一枚なら麻酔にも使われる』……毒と薬は紙一重というやつかしらね。
「メイベルには見分け方、まだ少し難しかったかな?」
「ううん、大丈夫だよ、お父さん!」
……それにしても、どうしていきなりこんなものが見えるようになったのかしら。これまで見たことないよ、こんなの……。
私が悩んでいると、お父さんが「お昼にしようか」と声を掛けた。私はうなずいてお父さんの近くに向かう。持って来ていた水で、手をきれいに洗って、ハンカチで水滴を拭きとると、お父さんがお弁当箱を取り出した。お弁当箱には私の好物がぎっしりと入っていて、私は思わず、「わぁっ」と声を上げた。
だってすっごく美味しそうなのだもの!
ロールサンドにからあげ、ミニトマト、ブロッコリー、アスパラのベーコン巻き。そしてなにより玉子焼きがハートの形になっている!
「美味しそう!」
「そ、そうかい? がんばった甲斐があったよ」
ふにゃりと笑うお父さんに、私も笑みを返した。
お父さん、お母さんが亡くなってからずっと私を育ててくれた。最初は慣れない家事に戸惑っていたけれど、どんどんと家事を覚えて今では立派な主夫になれそうなほど……。お父さんの作ったからあげは冷めてもジューシーだし、ロールサンドは食べやすいように工夫されていて、見た目も可愛い。女の子の心をよく掴んでいるなぁと思う。
「……メイベル、野菜を食べられるようになったんだね……」
感慨深そうにいわれて、ちょっとドキッとした。そうね、前世の記憶がよみがえる前の私は野菜が大っ嫌いだったもんね……。偏食を治そうとがんばってくれたお父さんには本当に感謝しかないわ……。
「美味しいかい?」
「美味しいよ、パパ!」
にこっと笑ってそう答えると、嬉しそうに目元を細めてお父さんも食べ始めた。ふたりでこんなに風に外で食べるのって、なんだか不思議な感じ。玉子焼きもシンプルな味付けなのに、どうしてこんなに美味しいんだろう。ブロッコリーもトマトも美味しくいただいてから、遅くなる前に家に帰る。
「メイベルが手伝ってくれたから、たくさん採れたよ」
良い子、とばかりに私の頭を撫でるお父さんに、私はえへへ、と笑ってみせた。そのうちになんだかうとうとと眠くなってしまった。……子どもの体力は急激に減るのね。
「お昼寝しようね」
「……うん」
お父さんに抱っこされてベッドに横になる。目を閉じるとあっという間に眠りに落ちた。……うーん、体力つけないといけないね……。
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