十五 三毛猫

 雨が降ってきてしまったので、画室高梨までの道を歩きながら、眼帯を外した。

 和美は小遣い稼ぎにやっているモデルの約束に行ってしまって、刑事たちは愛子ちゃんを北原画廊へ送ってくれた。

 雨の日は、いつもと違う妙な物がたくさん見える気がする。

「あ」

 八重さんが探していた猫がいる。

 動きが変なのは、どうやら左の前足を傷めているようだ。

「どうした、怪我してるのか?」

 触れようとして、猫が濡れていないことに気付く。

 右目を隠して見ると、消える。そこにはいないようだ。

 実在するものがそうやって現れるには、自分が知りたいと思っていて、相手からも伝えたいことが強くないと駄目だ。

 それに、その相手が目の前にいる時は起こらない現象だ。

 猫は、するりと足の間を抜けると、誰も住んでいないはずの空き家の敷地に入り込み、消えた。

 晴れていれば追いかけたかもしれないが、強風とともに雨足が強くなり、気にはなったが、画室高梨へと急いだ。

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