九 過去

 小さい頃から、僕をちゃんと見てくれる人は少なかった。


「啓、母さん何も見えないわ」

 母さんは、僕が見えたことを話すと、とても困った顔をしていた。


「右目は確かに畸型きけいと言えますが、視力も精神状態も問題ありません」

 父さんは医者に問題ないと言われると、それきり僕には関心を示さなくなった。

 自分が人と違うらしいと自覚してからは、僕は無口で無表情な子どもになった。


「お化けはあっち行けよ」

 同級生たちは僕を嘘つきだと決めつけたり、赤い目を悪く言って石を投げたりして、それに飽きると、いつしか僕をいないものとした。

「放っといて向こうで遊ぼうぜ」

 だから僕はいつも独りだった。

 見えるものをひたすら絵に描いた。

 紙に描くと捨てられるので、地面に描いた。


「啓。上手だな。絵を描きたければ、私の家で描くといい」

 初めて絵をほめてくれたのはお祖父さまで、僕の赤い目もちゃんと見てくれた。

 高梨先生を紹介してくれたのもお祖父さまだ。

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