第25話 新しい仲間と収穫祭
激戦のあった夜更け、月明りの下、病院の談話室で二人の女の子が会話をしていた。
重症は完治し意識を取り戻したが、念の為一晩入院することになった。
二人は最初は、思うところもありぎこちなさもあった。だがすることもないのでお喋りしていたら、いつの間にか仲良くなっていた。
「昼間あんなこと言ってたけどいいのー?」
「うん。決めた。代表にはお世話になったけど、僕はあの人の力になりたいんだ。助けてもらったしね」
「本人目の前でも、それだけ素直ならいいんだけどねー」
ウサギの耳をピコピコと動かして、女の子がからかう。
「うぅ、それが出来たら苦労しないよ……」
もう一人の女の子は顔を真っ赤にして俯く。
ウサギの耳の女の子は、そんな女の子をギュッとして頬ずりして吸いたくなるぐらい愛でたくなったが、反面少し複雑な気持ちになる。
見舞いに来たら死なない程度に殺そうと思っていたのに、見舞いに来る前に精神的に死にかけていたと聞いたら毒気も抜ける。しょうがないので許すことにした。
そうなると、未処理の感情は残り一つ。ピンチに駆けつけ、命を救ってくれて、更に初めて名前を呼ばれて芽生えた感情。
(しかしその感情に名前はまだない……!!)
女の子は自分の感情を即座に保留した。否定ではなく保留。それなりに複雑な人生を歩み、情緒を上手くコントロールできる彼女だからこその処理方法であった。
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[翌日 デイムのオフィス]
「と、というわけで、ああ新しく仲間になったぼ、
パチパチパチパチパチ!!
「もっと僕が来たことを感謝してほしい」
職場にきたら、僕っ子が仲間になっていたでござる。何言ってんだこいつ。
「か、花音君は、かか加奈君のチームに、は、入ってもらうとしししましょう」
「ほいさー、これからもよろしくねー」
「うん、宜しく。―――そっちも、足引っ張らないでよ」
「そうか、俺は足を引っ張るからお前とは組めない。残念だったな」
ばっさりと切る。こいつはダメだ。俺の勘がそう告げる。
「へ!?な、なんで……そんな……」
断られると思ってなかったのか、愕然とした表情をしている。そのうち、目に涙を浮かべ―――
「ぼ、僕とじゃ組めないの……」
か細い声で訴える。
いや、お前俺に何言ったか忘れたの?そもそも、あんな暴言吐いといて、何で一緒に組めると思ってんの?久原もちょっとムカついてたじゃん。何笑顔で受け入れてんの?何なの?違う世界線始まった?
僕っ子は両手で顔を覆い、ヒックヒック言いながらしゃくりあげている。
「うわサイテー。あんた女の子泣かして楽しいの?」
「上崎君酷いですよ。幻滅します」
「ちょっとどうかと思いますね。関節外しますよ」
「あああり得ませんね」
「えっ?なんで泣いてんの?何かあったん?」
約一名除いて全員が敵だと?不味い非常に不味い。悲しみの学級会が思い起こされる。
古今東西、女子が泣いて男子が悪いとなった流れを、覆す事が出来たことがあるか?いや、無い。そんな賢者には出会ったことが無い。
あるのは歯向かって屍になるか、ひたすら黙り込んでやはり屍になるか。
我を貫き通せば屍しか道が無い。そう、避ける道はただ一つ。
「……なーんて嘘でっす!これから宜しく!!」
「えっ、いいの?」
「よ、喜んで!」
「そ、そうだよね!僕が仲間になるんだもんね!全く、そういう嘘は人としてどうかと思うよ?僕だから許してあげるけどね!」
くっそうぜぇなコイツ。だが受け入れる以外の選択肢は無いのだ。
僕っ子はとても嬉しそうな顔をしている。周りは温かい笑顔で見守っている。白西さんは訳が分からない顔している。サチアフレタセカイ。
こうして僕っ子こと花音は仲間になった。
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「次、次イチゴ飴食べよ!」
「えーなに美味しそう!食べよ食べよ!!」
親睦を深める為に、3人でお祭りを楽しんで来いと命令が下される。
久原と花音は楽しそうに出店を回っている。
久原はツインテにぴっちりTシャツと短パンで、生足が魅力的な何時もの格好だ。
花音はゆるふわウェーブにノースリーブ、ふりふりのミニスカートと、ロリコンには中々扇情的な格好をしている。
どちらも美少女の部類であることには間違いない。
なので控えめに言って、美少女2人がキャッキャしている光景は尊いとも言える。
町は活気に溢れている。至る所に出店があり、食べ物だけでなくアクセサリーや服、果ては装備や武器も取り扱っている。
これが全部無料なんだから凄い光景だ。200年前なら無料というだけで、必要以上に入手したり転売したりする輩が発生するところである。
ただこの世界は、資源も人も限られている。よからぬ事を考える余裕など一切無い。
出店側も生産職の誇りがあるんだろう。食べてもらえたり、手に取ってもらえることの方に喜びを感じている様子だ。
「あのアクセ可愛くない?」
「ほんとだ、かわいー!!」
そして女子二人の勢いは衰えない。ただやたら長い髭を付け、焦点の定まらない目をした魚のモニュメントを可愛いと言う感性はどうかと思う。
うーん、色々考えたいことは山積みなんだけどなー。
「上崎君、調子は如何ですか?」
と思っていたら、ヌキチさんから声を掛けられる。
「一晩寝てだいぶ回復しましたよ」
「それは重畳で何より。ところで今時間ありますか?」
ちらっと二人を見ると、キモい魚のアクセサリーを楽しそうに見ている。うむ、あそこに交じる勇気は無い。
「大丈夫です」
二人に少し抜ける旨を伝え、ヌキチさんと近くのカフェに入った。
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「昨日は濃い一日でしたね。お疲れ様でした」
「えぇほんとに。あんなのは一回で十分です」
肩まである長髪を後ろでひとまとめにしているヌキチさんは、丸メガネのレンズを曇らせながら自家焙煎が売りの珈琲を味わっている。
俺はコーラを味わう。何だろうこの落差。いや良いんだけどさ。コーラ美味しいし。
「それはどうでしょうね。さておき、聞きたいことが二つありましてね」
「なんでしょうね。心当たりがありませんが」
とりあえずとぼけてみた。ヌキチさんの目が鋭くなった。気がする。周囲の空気は数度下がる感覚。コーラじゃなくて温かいのにしたら良かったかな。
「一つはキミの能力、治癒の件です。切断した手足を治すというのは前から出来ていたんでしょうか?」
「あの時が初めてですよ。ただ、出来ると思ったからやりました」
「嘘は言っていないんでしょうね」
背筋に冷や汗が流れる。
昨日の武力の反応、今日のヌキチさんの質問からどれだけヤバいことをしたのか、否が応でも認識させられる。
「もう一つは蟲のことです」
「蟲はいなかった。それが現時点の事実ですよ」
一応主導権は譲らないように試みたけど、もうなんか超怖いんですけど。いやでもあたい負けない。腹に力を入れて睨み返す。
信頼はしている。だが完全に信用しているわけではない。現状立ち位置が明確でない以上言うべきことは無い。
「やはり頭は悪くない。バカですが」
だからバカの一言いる?
「いいでしょう。貴方の立ち位置を教えます。大事でしょう?」
「先払いでお願いしますよ」
睨むように対面を見据える。ヌキチさんは一息ついて切り出した。
「治癒能力者が数少ないのはご存知でしょう。そもそも治すというのが
ヌキチさんは両肘をテーブルにつき、両手で顔を覆う。指の隙間から右目だけこちらを見ている。
相対するものを推し量る、そんな仕草だと気づいた。
「治癒って、理解する範囲が広すぎませんか?例えば切傷レベルなら、細胞の理屈を知っているだけで充分でしょう。でも切断レベルを治すって、難易度高すぎると思いません?現状の文明レベルでどうやって理解するんでしょうね」
「
「さて問題です。キミが施した四肢欠損の治癒が出来る能力者は、どれだけいるでしょうか?―――答えは分からないが正解です。少なくとも私が知る限り、五劦の統治区域ではそんな芸当が出来る治癒能力者は一人もいませんが」
息が詰まる。自分が何をしたか、正しく理解できた。これはヤバい。
大多数はこのヤバさを分かっていない。治癒能力者も鍛えればそれぐらい出来るだろうという認識だろう。
超常因子の見識が深い人のみが知っている真実。あの人は知っているだろうと予測は付く。その上で何も言ってこないことが、恐怖でしかない。
「対価は払いました。次はそちらの番ですよ」
「あっ……はい。見たこと全部話します」
恐らく学術院でも機密に位置づけするであろう情報を教えてもらった。誤魔化すとかそんなことは考えず、全てを話す。
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「やはり第三世代ですね」
「第三世代?蟲の?ヌキチさんはどこまで、いや何を知っているんですか?」
「申し訳ないですが、今は言えません。ただ蟲が進化しているのは事実。当然人間も進化しないと勝てないと言うことです」
うむ、さっぱり分からん。これで納得するとでも?
「キミが納得するかどうかは、どうでもいい。大事なのは事実を知っているか、知ったうえでどう動くかです。あと覚えていてほしいのは、陥れるつもりはありません。出来ればこの関係を続けていきたいと思っていますよ」
ヌキチさんは、そう言うと席を立ちあがって店を出る。
終わりなの?これで終わり?何か一方的に満足してません!?セフレ扱いされた女の子の気持ちになっちゃうよ!
さておき、残された俺は心があの修羅場に戻される。
あの時聞いた音は、天秤が傾く音だ。夢の中で俺が持っていた天秤だ。
そしてあの天秤は『幸運と不運を変換する』のだろう。変換因子とも言える。
あの時溜まっていた不運を幸運に変換し、『四肢欠損レベルの治癒』能力を与えられた。
転移当初、超常因子も同様の理屈で与えられたに違いない。
それは、俺の中には二つの超常因子があるということ。更にこの運の変換因子は、通常とは違う点が一つ。
可逆性ということ。
例えば村上さんは紙を鳥に変える事は出来ても、鳥は紙に変えられない。
誰しも能力は一つだし、変換因子は不可逆の法則があるのが常識だ。そして古来から、常識を覆すことを進化という。
今後の事を考えて頭が痛くなってたところに、二人の女の子が迎えに来た。
「遅いよ!!話終わったなら早く合流してよ!」
「そうだよー。親睦深めるのが目的なんだからさー」
「それに折角一緒にいれるんだから、もっと僕に気にかけてよ……」
「ん?何かいった?」
「なんでもない!!早く行くよ!」
考えたところで結論なんて出ないし、それなら女の子と遊ぶ方が建設的だな。気持ち切り替えよう。
しかしどうせ進化するなら、おっぱいを揉ませてくれるフェロモンに変換できる能力が良かったなぁと心の底から思った。
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