第17話 ダンジョン攻略その1~Bチーム、序盤~

-Bチーム 旧小学校跡-


 結局あの後、久原と取り留めない話をして時間を潰していた。気になったのは黒井沢さんの子育て方法で、やはり中々悪戦苦闘していたみたいだ。独身のおっさんが、突然幼少期から思春期の女の子を育てるわけだから……まぁ……色々あるわな。


 久原が年頃になって、お風呂を増設すべきか真剣に悩んでいたりしたらしい。久原自体は金の無駄だと一蹴したみたいだが黒井沢さんの気持ち分かるなー。


--------------------------------



「皆さんこっちですよ」



 ヌキチさんが手を振って集合場所を示してくれる。今回の攻略対象のダンジョン、旧小学校跡の校庭に十数人が集まっている。


「これで全員揃いましたね。では改めて。今回のダンジョン攻略責任者のヌキチです。本日は宜しくお願いします」



 ヌキチさんは慣れているのか、違和感なく場を仕切っている。こういうのがアカイさんじゃないのは、周知の事実らしく全員ヌキチさんの声に耳を傾けている。



「今日の攻略メンバーですが、


我ら『アカイ流』から私、アカイさん、ケイさん、犬ヲ、ユウの5人。


『デイム』から村上さん、久原さん、悠太君の3人。


十砲見聞六トウホウケンブンロク』から迫(サコ)さん、榴(ザクロ)さん、花音(カノン)さん、リッヒさん、徹晃丸(テッコウマル)君、瑠璃さん、琥珀さんの7人


計15名で行います。」



「久しぶりの収穫祭(ハーヴェスト)でテンションあがるわぁ」

「ここ最近小物ばっかりで物足りんかったし腕がなるのう!」



 いかつい男女が意気揚々と話している。二人とも上背180cmは超え、鍛え抜かれた体をしている。というかマッチョ率高いな!ボディビル大会で上位狙えるんじゃないかコレってくらいマッチョ達が和気あいあいと話している。



 『十砲見聞六』は初対面なので、そのマッチョ具合に面食らっていたら、


「あぁ、悠太君は初対面でしたっけ。そうですね、時間はまだあることですし自己紹介しましょうか」


 ヌキチさんが助け舟をくれた。初対面の方々は一斉にこっちに振り向く。


「ほいさ。キミが噂の記憶喪失君か。『十砲見聞六』の代表やっとる向坂榴ムカイザカザクロっちゅうわ。今日は宜しくたのんまぁ!」


「副代表の諸手迫モロテサコよ。治癒能力持ちなんだって?『デイム』も良い人材見付つけたじゃない。羨ましいわぁ」


「掘り出しものですー。あげませんよー?」

「あら残念。鍛えがいがある筋肉していると思ったのに」

「そっちですか!?」


 『十砲見聞六』のナンバーワンとツーか。榴さんは短髪に顎髭、はちきれんばかりに盛り上がる胸板が特徴的だ。これが雄っぱいというやつか。ふむ、全く嬉しくないな!

 迫さんは長い髪を後ろでひとまとめにして、ちょっときつめの目をした美人さんだな。アオザイのような衣装を着てシルエットが浮き彫りになっている。もちろん筋肉のシルエットが、だ。おっぱいなのか大胸筋なのか判断つかないレベルだ。


 見た目はどうあれ、威厳というかオーラが凄い。これがカリスマってやつかな。アカイさんには感じたことがないヤツだなと、チラッとアカイさんを見るとおやつ食べてた。


「ん?どした。なんで俺見てんの?そんなかっこいい?」

「いえ……いやそうですね。はい。アカイさんはかっこいいです。はい」

「急にそんなこと言われると照れるじゃーん。悠太は良いやつだな!」

「アカイは幸せなやつだな…」


 嬉しそうなアカイさんを見てると、本当のことはとても言えない。犬ヲさんが諦め感満載な一言をこぼしても、当の本人は真意に気づかず本気で喜んでる。アカイさん、大好きですよ。



「花音です……僕らがいれば蟲なんて瞬殺なんで、治癒の出番は無いと思いますよ」


「おいおいいきなりバカかお前。あっ、自分リッヒっす。このおこちゃまはちょっとアレなんで適当に流してください!」


「むー、僕を子ども扱いするな!」


「大人は初対面で喧嘩売らない。故に貴方は子供扱いされるのは自明の理です。すいません、申し遅れましたが、自分は徹晃丸と言います。まだまだ未熟者ですが、全身全霊で蟲を倒します。宜しくお願いします。」



 花音という失礼な僕っ子は不服そうな面をしている。ショートボブで身長は村上さんと同じくらいか?同じロリ系統だが中々鋭い目つきでこちらを睨んでいる。てか僕っ子っているんだ。敵視よりもそっちの方が気になるわ。


 リッヒはお調子者っぽくムードメーカなのかな?徹晃丸は堅物な雰囲気をうかがわせる。



「うちは瑠璃。そんでこっちは琥珀。見ての通り双子やよ。そっちの脳筋達と違って策敵職やってるんよ」


 琥珀と呼ばれた方がぺこりと頭を下げて、瑠璃の物陰に隠れる。持ち合わせていない嗜虐心をくすぐるぐらい大人しい子だ。


 逆に瑠璃はよく喋るタイプか。何かの論文で読んだが、双子の性格が真逆になるのは一定の法則があるらしい。200年経って遺伝子とか超絶進化してるけどそこらへんの根幹は変わらないみたいだ。



「上崎悠太です。こちらこそ宜しくお願いします。ところで教えて頂きたいのですか、『十砲見聞六』って名前の通り火力と索敵能力に優れておられるのですか?」



「あら、私としたことが説明してなかったわね。そうね、私たちは火力10策敵6の割合で構成されてる組織よ。火力職は全員砲撃系の能力もってるわ。大体は物質因子(マテリアル)で色んな大砲を具現化しているわ」


「んでうちら策敵職が周囲の状況を探って、火力職の的を探すわけ。うちは視覚、琥珀は聴覚担当。範囲は半径50mくらいなんよ」


「なるほど、普段は遠距離から一方的な高火力で、蟲をせん滅しているんですね」


「あなた、理解が早いのね。ますます欲しくなるわ」



 大砲での遠距離攻撃は安全性は高いが、着弾率が下がるという難点もある。着弾率が低ければ接近戦も視野に入れた構成にしなければならないし、結果的に安全率も下がる。だが策敵の精度が高ければ話は変わってくる。


 遠方の情報をリアルタイムで入手できれば、着弾率も大幅に上がり安全率も上がるわけだ。


 半径50mの索敵能力も驚異的といっても良い。言ってしまえば高火力の波状攻撃が展開できるわけだ。普通に考えれば大砲だけで成立する戦いなんて無いが、超常因子(ハイファクター)がそれを可能にしたわけか。


「いやはや、凄い組織ですね」


「当たり前だろ。僕らは『十砲見聞六』だぞ?そんなことも知らないとか、あんたほんとに狩り屋かよ」


「こーら!悠太君は記憶喪失なんだって聞いたでしょ?そんな言い方しないんよ」


「あらあら、ごめんなさいね。この子ただの反抗期だから気にしないで?」



 あぁ、中二病か。それは仕方ないな。変に大人ぶりたくなるし、むやみに攻撃的になったりもするもんな。多分右目か右腕が疼いたりしてるんだろ。うんうん、それは仕方ナイヨナ。


「……なんかすごいバカにされてる気がする」

「気がするじゃなくてされてんだよ。バカノン」

「誰がバカノンだ!リッヒのクソ野郎!」



「和気あいあいといい空気ですが、そろそろ自己紹介も終わりにして本題に入りましょうか」


 中二病をきっかけに混乱しそうな状況が、ヌキチ先生の一言で収束する。さすがヌキチさん。



「では、作戦を説明しますよ。まずは大きく前衛と後衛に分けます。基本は前衛で敵をせん滅、後衛で情報収集や細かい動きの修正、負傷者の治療を行います」


「なんだなんだ、分っかりやすい作戦じゃん」


「作戦はシンプルが一番です。あと貴方複雑な動き覚えられないでしょう」


「んだよーそんなこと言うなよー」


「アカイさんお静かに。さて、続けますよ。前衛は犬ヲ、ユウ、ケイさんが盾役となり、合間から榴さんと迫さんで大部分をせん滅してください。

 少し下がって花音さんと久原さんで打ち漏らした蟲をお願いします。後衛は5m~10m程度離れて、アカイさんを盾役に支援部隊が位置します」



 皆経験値は高く、ある程度は予想付いていたんだろう。特に配置に文句が漏れる事はない。ただ例の中二病は不満は隠しきれないようで、



「……足、引っ張らないでね」

「うん、頑張るよー。一時的なパートナになるんかな?宜しくねー」



 愚痴を零すもサラッと流される。中二病も久原の度量には適わないということか。まぁ精神性の経験値でいえば、中二病の卑屈なんて気にも止まんないレベルか。


「俺らは後衛ですか?」


「えぇ。流石に後衛と言えど安全とは言えませんので、リッヒさんと徹晃丸君は我々と共に哨戒をお願いします。ただ産卵地帯のラスボス戦は前衛に交じってください。恐らく装甲が硬いと予測されるのでお二人の力が必要です」


「りょーかいっす」

「心得ました」

 

「後衛の情報収集組は説明不要ですかね」


「はいはーい、うちらが視界と聴界を拾って、ヌキチさんに絞りたて産地直送な情報をお届けします!」


「そしてヌキチさんが精査した情報を私が前衛に届けます」


「その通りです。話が早くて助かります。随時後衛より状況に応じた修正を入れます。戦闘中の判断はお任せしますが、戦闘後の判断はこちらの指示をお待ちください。」


「また戦闘継続が厳しい負傷した場合は、後衛とスイッチします。それでも安全が保てない場合、つまり攻略不可能となる場合は即時撤退です。タイミングもろもろ全て私が判断しますので必ず従ってください」


「くれぐれも間違えて欲しく無いのは、今日の攻略は死を天秤にする場では無いです。誰一人欠けるのは許されません。ご留意ください」



 ヌキチさんは多少語尾を強めて注意を促す。恐らくは久原の両親のことも慮っているのかもしれない。ここの一言には皆軽口を叩かず、真剣な表情で頷いた。



---------------------------------------------------------



 小学校は5階建てとなっており、蟲の生命エネルギーが集中している産卵区域は3階を根城にしているとのこと。


 『十砲見聞六』の火力なら校舎の外から撃ちまくれば良さそうだが、それだと卵も破壊されてしまう。卵の回収は絶対必須なので地道に攻略していくしかない。

 


 既に前衛は校舎に入っている。



「前衛は昇降口抜けたよ。左方、右方共に敵影無いんよ」


「前衛を中心に左右共に約20m先から蟲の息遣いが聞こえます。左方が大きいです」


「産卵区域は正面向かって左側ですからそっちに集まっているんでしょう。序盤から消耗する必要もないので右階段から行きましょうか」


「右側2つ先の教室で蟲の集団発見したんよ。体長3m程度の兵隊蜘蛛なんかな?数は10程度」


「我々の侵入は気づいているから待ち伏せでしょうね。宜しい、村上さんこれを」


「承知しました」


 ヌキチさんの能力『日日是稿執(ドラフトレコード)』は、本人の知識経験を自動で冊子にする製本化とは別に、記録用紙も存在する。


 行軍内容が記入された記録用紙は、村上さんの能力『燕之王子様(トリワタシ)』で鳥になって前衛に届けられる。ちなみに記入内容を音声再生する優れものだ。


「それでは我々も突入しましょう。挟撃は避けたいので、昇降口抜けた右方の廊下に壁を作りましょうか。リッヒさん、徹晃丸君の二人で適当に天井壊して壁を作ってください」

「お任せあれ!」

「御意」



 昇降口に踏み入れた直後、轟音が鳴り響く。



「やぁ、これは良い開幕音ですね。気合が入ります」

「着弾率良しやよ。半分は逝ったかな?残りも榴っちが一掃してるんよ」

「初弾の爆撃音でこちらに向かってくる蟲音が聞こえます」

「おっと、急ぐぞ徹晃丸。半壊程度にとどめろよ」

「出力50%程度で実行する」



 二人の両手から漂う青いオーラが、大砲を形作ると共に轟音を響かせる。あっという間に周囲は土煙が立ち込めて視界が奪われる。



「右側の壁がもうちょいいけると思うんよ。リッヒ、4時の方向、射角30度程度やよ」

「オーライ!てぇぇ!」


 こんな状況でも瑠璃さんの視界は状況を把握している。なんでそんなこと出来んの?



「うちらは里香ちゃんと同じ無機物を有機物に変える変換因子で、うちは目、琥珀は耳を複製してるんよ。人呼んで『壁耳有障子目有(オールグリーン)』ってね」


「うぉ……ど、どうも。どれくらい複製できるんですか?」


「タメ語でええんよ。有効範囲内ならいくらでもって言いたいけど、多すぎると情報処理しきれないから精々五つやよ。今はうちらの死角に一つ、前衛に三つ配置してんよ」


 怪訝な顔をしていたのか、瑠璃さんが解説してくれる。さっきも中二病をなだめていたり、こうやって周囲に気を配れるとか貴女相当コミュ力高いですね。

 

「では遠慮なく。解説ありがとう。疲労とかあったら遠慮なく言ってくれ。何時でも回復するよ」

「心強いんよ」



 ニカっと笑う。良い笑顔だ。ゆるふわロングウェーブで一見お人形さんみたいな見た目なのに、気さくで気配りも出来る女の子って需要高くない?でもこの能力持ち相手だと悪さは絶対出来ない。うむ。


 おっぱいは小ぶりだが、それはそれでいい。そこに優劣は無いが、キミと付き合うのは無理だな。すまぬ。


「……なんか不快になるんよ」

「キノセイダヨ」



 そうこうしているうちに土煙も晴れ、見事なガレキの山が出来上がっていた。



「いいですね。これぐらいあれば蟲も通れないでしょう」


「うん、向こう側のガレキ前で蟲がうごうごしてるね。パワータイプでも無いしこっちにくることは無いと思うんよ」


「では先に進みましょう。お二人方、前衛の状況を」


「負傷者無しやけど階段まで蟲が点在してるんよ。何れも兵隊クラスかな」


「では蹴散らして進みますか」


 初めてのダンジョン攻略だけど安心安全感が凄いな。こんなもんでいいのか?まだ序盤だけど物足りなさすら感じる。あの中二病が言う通り、ほんとに俺の出番は無さそうだ。嬉しいやら悲しいやら。


「悠太君、困難を排除する為に我々がいるんですよ。理想は前衛だけで全てカタをつけたいところです」


「ヌキチ暇だよー仕事くれよー」


「息でもしててください。重要な仕事です」


 アカイさんといつものやり取りをしながら、ヌキチさんに窘められる。


 うーん、俺ってそんな顔に出るタイプだったっけな。200年前はポーカーフェイスを売りにしてるはずだったのに、この世界に来てから欲求が全面に出過ぎてるような気がする。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る