第13話 フラグ建ってます


「は、収穫祭ハーヴェストは、ひひひ久しぶりですね。さ、最近は大きないいイベントもなかったので、こ、これで町も活気づきますね」


「2年ぶりくらいやん、めっちゃテンションあがるわ!」


「正確には2年と3ヵ月ですね。大我、思う存分暴れていいですよ」


「前回はまだ入社してなかったんですよねー。めっちゃ悔しかったんで今回はその分私も暴れます!」



 職場に戻り収穫祭の件を伝えると、広場の人たちと同様に各々熱い口調で語りだす。儲けがいくらになるか、班分けはどうなってる、今回は蜘蛛型だから服飾系が盛り上がるね、可愛い服着れるやったー!等と会話は尽きる事がない。

 皆笑顔だ。良いと思う。やっぱり仲間が笑顔だとこちらも嬉しくなる。ただね、俺も会話に参加させてくれよ!!



「で、収穫祭について詳しく」



 帰り道も村上さんとヌキチさんは、振り分け班や作戦について熱く語っておりここにくるまで一切説明がない。我慢も限界があるので俺から切り出したが、皆きょとんとしている。だからやめろ、『お前何言ってんの?』的な顔するの!こっちみんな!



「し、失礼。あああまりにも気分がここ高揚して、ゆ、悠太君へのはは配慮を忘れていました。し、しかし収穫祭も記憶にないんですね」


 黒井沢さんの一言に心臓が大きく跳ねる。この人隠れた前髪からこちらを射抜くような眼で、こういう怖いことをサラっという。心臓に悪すぎる……



 

「収穫祭は、蟲の大量産卵シーズンですね」


 二の句が継げず、一瞬静まった場に村上さんの声が続いた。終始テンションが高かった村上さんだが、このやり取りで我に戻ったのかちょっと顔が赤い。俺は心の『村上フォルダ』にこの表情を保存した。


「通常蟲は個体毎に繁殖し、その周期は完全にアトランダムで私たちが把握することは難しいです。私たち狩り屋が間引いてるので、蟲からしたら計画性をもって繁殖出来ないというのも一因ですね」

「加えて言うなら、蟲にそこまで知性が無いというのが有識者の見解です」


 二人の説明に納得。互いに生存圏を掛けて戦っているのだが、人類側はこうして『生存と量産』に重きを置いた仕組みを構築している。対して蟲側の意識は『撃破』が大部分を占めている気がする。

 それこそ数は圧倒的に蟲側が多いが、その利を生かした侵略行為はしてこない。精々10~20程度の塊でしか攻めてこず、お世辞にも連携とか戦術等が取れているとは思えない。

 結果的に人類としては助かっているが、行動原理が固まっているのだから知性が無いと判断されても仕方がない。


「そんな生態ですが、たまたま繁殖期が重なり複数の産卵を行う蟲が現れます。それを探知し、狩り屋総出で狩りつくすんです」

「これがめっさボーナスステージでな。何しろ産卵で弱った親世代と卵と、生まれた直後の個体しかいないから仕留めるのはくっそ簡単なんや」


 白西さんは、高揚した気分を抑えられないのか、ぶんぶん脚を振り回している。多分当たったら頭破裂するであろう空気を割く音がしている。


「簡単と言っても、産卵場所はそれなりに強固。向こうも人類の迎撃態勢は整えて産卵しますからね」

「わ、我々はダンジョンと呼んでます。そそそこかしこに罠や、た、卵を守る蟲がい、いますからね」

「それでも!こっちだって必要な人員整えてダンジョン攻略するんですよね!」

 

 久原はいつもの間延びした喋り方が変わっている。目をキラキラさせて、ソファーの縁に手を置いて会話に入ってくる。おっぱいがむぎゅっとなっているのはお兄さん的に好感度高いよ?

 よっぽど今回参加できることが嬉しいらしい。


「もちろんです。ダンジョン攻略に情報伝達の即時性は必須ですからね。私も参加して十分な体制を整えますよ」


 そういう村上さんは少し嬉しそうだ。普段は狩猟ハントに参加せず、情報の集約、分析及び事務処理を担当している。そのことに歯がゆさを感じることがあるのかもしれない。



「そういえば班分けってどうなってんの?」

「今回10班編成です。私と加奈ちゃん、上崎君がBチームで旧小学校跡です。白西さんと真白さんはDチームで廃工場ですね。社長はお留守番です」

「えっ?チーム分かれるんですか?」


 てっきり全員同じチームだと思ってた。いやまぁ女性陣2人と同じチームだから、特に不満は無いんだけどね。


「ダンジョンの難易度が違うので調整が入るんです。Bチームは私たちの他に『アカイ流』と『十砲見聞六』の方々。Dチームは『スタークス』と『ホットソニック』ですね」


「なんやそっちは堅実やな。こっちは火力特化って感じがするわ」


「し、白西君たちのちちチームは速攻でお、終わらせて、ほほ他のチームのふ、フォローに入れってことですね」


「逆に加奈さん達はまだCランクと見習いだから固く、確実性をとったのでしょう」


 なるほど、統治者も考えているんだな。通常の狩猟は比較的視界が良好な開けた場所で行う。組織毎に蟲と戦っていても大体視認できる距離感だから、何か問題があればフォローが可能。だが今回は各地に点在した施設内が狩場な為、不測の事態に陥っても他からのフォローは期待できない。

 としたら対応策は、一方でひたすら堅実に固めたチームを作り、もう一方で火力特化チームが速攻で攻略して他を援護する、ということになる。


「まぁいつもの狩りに比べてたら楽勝やし、そんな心配することないけどな。パーと終わらして宴会楽しもや!」


 白西さん、それフラグ建ってません?

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