第10話 超常因子の戦い

「大技くるぞ!!構えろ!!」


「どっせい!!」




 3mは超える巨大なカマキリが、刃を付けた腕を横一閃に薙ぎ払う。


 それを受けるのは『アカイ流』の4人。全員巨漢でその身には鎧をまとい、手には身長と同じくらいの盾を持っている。


 4人は横並びに盾を構え、死神の鎌のような凶悪な斬撃を見事受け流す。




「気を抜くな!もう一発来るぞ!」




 巨大カマキリはもう片方の手を振り上げる。受け流されたのが心外なのか、その目は苛立っているように見えた。いや、蟲の表情なんか分からんから雰囲気だけどね。


 素早く陣形を変え、2人が前に出て盾を上に構える。見下ろした人間を真っ二つにせんとする振り下ろされた鎌は、またしても受け流され地面に突き刺さる。盾で受けた瞬間の爆発音で耳が痛くなるぐらいその威力は凄まじいが、当の本人たちは平然としている。


 4人は豚の動物因子アニマルで、脂肪が緩衝材代わりなのだ。全身が衝撃吸収材となっており、ちょっとやそこらの攻撃は意に返さない。




「おらよっと」




 その短い攻防の間、左右に距離をとった2人が盾を構えたまま突進。カマキリはバランスを崩す。




「あとは任せた!!」


「任されましたー!!!」




 後ろで待機していた久原、真白さん、白西さんが飛び出す。


 真白さんは駆け寄ると同時に地面に刺さった腕の関節を破壊する。真白さんはゴリラの動物因子アニマルであり、その特性を握力と指の操作性に振り分けている。


 関節といえど蟲の表層は硬く、試しに残骸蹴ってみたら骨まで響く衝撃だった。




 腕を破壊されたカマキリは、もう片方の腕を真白さん目掛けて振り回す。


 が、真白さんは向かってくる巨大な鎌をわずかに身を倒して避け、腕が通り過ぎると同時に関節を破壊。


 巨大カマキリは、その最大の攻撃力をたったの2合で失った。




 続いて側面に回り込んだ久原は、勢いよく下半身にドロップキックをくらわす。半歩程吹っ飛んだカマキリは、それでも体制を立て直そうとする。


 だが、待ってましたとばかりに反対に回り込んだ白西さんは、上半身に回し蹴りを放つ。


 虎の動物因子アニマルをもつ白西さんは、その足先に人間大のオーラを纏い、虎の前足を形作っている。


 オーラはそのまま質量となり、上半身を木っ端みじんに粉砕した。




 動物因子は真白さんみたいな身体強化や、白西さんみたいにオーラを何十倍の大きさにも具現化して攻撃面積を増やすことも出来る。


 前者はまぁ納得できるが、後者は完全にファンタジー。初めて見たときはその破壊力におしっこちびったよ。内緒だけど。




「突出してきた一匹は楽勝だったな!犬ヲ!ユウ!ケイ!大丈夫か?大丈夫だよな!よし、残りも楽勝だな!」


「アカイさんステイ。残りがくるまで多少時間あるから情報整理しましょう」






 俺と一緒に後方で控えていたヌキチさんは、ハードカバーサイズの本を片手で構える。ほのかに黄色いオーラが纏われて、頁が数枚浮かび上がる。


 頁はディスプレイのように空中で固定され、そこには依頼内容と蟷螂蟲の情報が載っている。


 ヌキチさんは物質因子マテリアルの能力で、本を具現化する。本の中にはありとあらゆる情報が入っており、念じるだけで必要な情報が書かれた頁が抽出される。


 ひそかにグーグル先生と呼んでいる。








「今回の依頼は蟷螂蟲26体の討伐。うち1体は倒したので残り25体。見ての通り薙ぎ払うか振り下ろすが基本パターンです」


「犬ヲが正面、左右をユウとケイさんで固めて壁内サークルをつくる。『デイム』のお三方は先ほどと同じように後ろから射出し撃破。押されたら壁内サークルに戻ってやり過ごす」


「アカイさんは後方で俺と悠太君の壁。打ち漏らした蟲から守ってください」



「いつも通りじゃん!」



「いつも通りが一番良いんです。勝率高いですし。ただしBランクの蟲なので気を抜かないように。お二人も久原さんのフォローを忘れずに。万が一があれば回復お願いしますね。悠太君」




「「「りょ!」」」




「良い返事です。では配置についてください。そろそろ来ますよ」






 『アカイ流』はメンバー全員が盾役に特化しておりヌキチさんが後方支援で全体の指揮を執っている。一方『デイム』は俺を除いた全員が攻撃力に特化した組織なので、この2つの組織は相性が良い。


 普段『アカイ流』は盾で守って盾で倒す為、時間効率が悪く討伐数もそこまで多くない。『デイム』は当たらなければ問題ないを地で行く面子で、即効性はあるものの危険性が高い。


 なのでこの2つの組織は一緒にハントすることが多い。安全に討伐できるに越したことは無いわけだ。


 俺はというと、役に立つ場面が少なく精々長丁場になった時にかすり傷を治すか疲労回復するか、終わった後台車で運ぶくらいしか出番が無い。更に言えば後方待機なので久原のおっぱいもケツも見れない。歯がゆさと劣情の間に挟まれている。




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 特に危うげなく討伐は終了し、積み上げた蟲の残骸を台車で押して帰る。回復する場面もなかった。いや回復する場面は無い方が良いが、こうやって台車を押すだけで給料もらっていいのか?




「どうした悠太、浮かない顔してるじゃん。加奈ちーの揺れるおっぱいを間近で見れず凹んでんの?」




 負のスパイラルに陥っていたところを、隣でもう一台の台車を引いていたユウさんに少し戸惑ってしまった。




「あーいや、それもありますが特に役に立ってなくて申し訳ないなーと」




 その答えにユウさんが少し考えんで、




「そんなに気にすんなよ。新人で後方支援の仕事なんざ死なないことが大優先。バカな新人は己の力量も分からず突っ込んで、サクッと死ぬからな。それに比べたら良い仕事してるよ……ってそうは言っても思うところはあるか」




 そう言って朗らかに微笑んで背中を叩いて励ましてくれる。気を使わせたこともそうだが、それ以外にちょっと後ろめたい気持ちもあって言葉が詰まる。






「そんな気にするなら俺から依頼を出してやろう」


「へっ?」




 ユウさんは先程の朗らかな雰囲気はガラッと変わって、邪悪な笑みを浮かべる。




「アカイさんとの打ち上げに参加だ。依頼拒否は不可能だ」






 今日は何時に帰れるかな……


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