第7話 職場のクセが凄い!
町に戻り兎の人は素材屋へ立ち寄る。蟲の死骸は武器や防具、道具の素材になるらしくそれなりの値段で買い取ってくれるとのこと。
「レベルCが12体ですね。一部はオークションにかけますか?」
「お願いしまーす」
「かしこまりました。報酬のお届け先はデイムで間違いありませんか?」
「そーです」
「いつもご利用ありがとうございます。2日後にお届けに参ります」
「宜しくですー」
手慣れた様子で手続きを終える。素材屋は窓口が数か所あり、他にも蟲を持ち込んでいる団体がいた。
「蟲を持ち込んでいるのは全部狩り屋ってことですか。結構な数なんですね」
「狩り屋がいないと蟲に攻め込まれるからねー。そーだなー、この町で大体20ぐらいはいると思うよー」
この世界は職種が被っていても、特に商売仇とならず共存できている。正確には一分野において複数の組織が無いと運用出来ないわけだが。
ちなみに『狩り屋』とは主に蟲退治を行う職種で、その蟲を買い取り、武器屋や色んな職種に売りさばくのが『素材屋』の職種になる。問屋みたいなものか。
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「お疲れさまでした。早かったですね」
「やっぱり素材回収要員がいると楽ですねー」
「上崎さんもお疲れ様です。怪我とかありませんか?」
「狂暴な兎に受けた傷も貴女の笑顔で癒されま痛い痛い痛い!!」
後ろから思いっきりつねられる。だから本当のことを言って何が悪い!!
「はは、随分仲良くやってるやん。面白いコンビになりそやな」
「別に仲良くないですー。セクハラするような新入社員に教育してるだけですー」
「おや、セクハラはいけませんね。必要ならば間接を外すよう折檻しましょうか?」
「あっ、そこまでは大丈夫です!はい!」
職場に戻ると事務員さんの他に見知らぬ人が2人。関西弁は身長160センチくらいで、短い金髪とニヤっと笑う際に見える犬歯が特徴的だ。服装もパーカーにGパンとやんちゃ坊主な感じ。
一方間接を外そうとする物騒な人は、黒髪メガネで身長180センチを超えるスーツ姿が良く似合っている。一見すると普通のサラリーマンだが、多分ドSだ。
「初めまして。私は真白猩平ましらしょうへい。こっちの粗雑そうに見えて、その通りなのが白西大我しらにしたいがです」
「粗雑ちゃうわ!これでも繊細な心もっとる!」
「自己認識が出来ない哀れな人は置いておきましょう。これから宜しくお願いしますね。あとセクハラはほどほどにね」
物腰柔らかそうな感じで微笑んでくれるが、その目の奥は笑っていないように見える。気を付けよう。
「哀れてなんやねん!えっ、加奈ちゃん俺って繊細な部分有るよな?」
「えーまぁ……有るような無いような多分無い可能性寄りの有りかもですねー」
「分かりにくい!有るか無いかで答えてや!」
「やっぱ無いですー」
「無いんかい!まぁええわ。よろしくな。」
見た目通り大雑把な人と見受けられるが、人懐っこい笑顔でテンポよく会話しているところを見るとムードメーカーなのか。
「里香さんから聞きましたが記憶喪失なんですね。大変だとは思いますが、働かざるもの食うべからず。我々もフォローするので頑張っていきましょう」
「上崎悠太です。こちらこそ我ながらやっかいな人間を引き取ってもらったと感謝しています。出来ることからやっていこうと思います」
何はともあれ歓迎ムードであることは間違いない。安堵の気持ちが駆け巡る。記憶喪失ということで不信感など持たれても挽回のしようがないわけだし。
「えと、貴方がこの組織の代表ですか?」
「え?あぁ違いますよ。代表はあなたの後ろにいますよ」
「へ?ぎゃぁああああ!!」
振り向くと男が立っていた。ていうか気配が全く無く突然現れたので、腰を抜かした。
「ど、どうも……狩り屋『デイム』の代表をやってます黒井沢七巳こくいざわななみです。イ、インパクトのある自己紹介が出来て、ううう嬉しいです」
「インパクトが過ぎませんかねぇ!?」
他の誰よりも特徴的なファーストインプレッションで思わず突っ込みを入れる。
「七巳さん悪趣味ですよ。悠太君が驚きすぎて顎関節が外れたらどうするんです。もちろん痛みを伴って直しますが」
「ひ、久々の新入社員でテ、テ、テンションが上がってしまいました。ご、ごめんなさい」
「い、いえ、こちらこそ失礼な物言いすいません」
「ふ、ふふふそんなこと気にしませんよ。た、大我君の方がよっぼど失礼ですから」
部下の無礼を気にしないタイプなのか。それはそれで理想の上司ではあるんだが、心臓に悪いのは間違いない。なんせ見た目からして不気味具合が半端ない。
長身長髪切れ長の目をしており、骨と皮だけかなってくらい細身である。体の線がわかるくらいぴったりとした全身黒系統の服を着ており、吃音癖も相まって何だか生気が無い。
「社長が人を驚かすのはいつものことだから気にしないでー」
そういうと兎の人は丸いシールのようなものを持ってきた。
「これは?」
「因子パッチだよー。お待ちかねの能力開示いってみよー」
一通り自己紹介が済んだところで、最大の関門が待っていた。
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