第5話 異世界?の片鱗(後半)

学術院(アカデミー)の教科書より抜粋


■細菌流行(パンデミック)後の年表


※)推定が含まれる


2022年 医療体制が崩壊

2025年 交通系のインフラが崩壊

2030年 通信系のインフラが崩壊

2040年 内閣府の崩壊、各自治体での管理に移行

2050年 日本の人口は約1/3程度に減少したがコロナへの耐性を獲得

    パンデミック後、己の第一世代出現


2100年 文明が大きく衰退

    己の第二世代出現


2150年 蟲、贔の第一世代出現、人類への侵攻が確認される

    伍劦による統治体制構築

2155年 伍劦の統括地区が正式に決定、伴い人口の集中化

2160年 众制度の制定、ガイドライン発足


2200年 蟲、贔の第二世代出現、人類と蟲と贔の覇権争いが加速



■用語解説


・己:パンデミックで進化した人類種の総称

・己第一世代:自殺因子を持った人類種

・己第二世代:自殺因子と超常因子をもった人類種

・蟲、贔:パンデミックで進化した無脊椎動物(蟲→節足動物、贔→軟体動物)の総称

・蟲、贔第一世代:寿命が人類と同等になった無脊椎動物

・蟲、贔第二世代:耐久力が増した無脊椎動物


・自殺因子(アポトーシス):100人以上の組織に属すると抑止力が働く遺伝子

・超常因子(ハイファクター):動物、物質、変換因子の総称


・動物因子(アニマル):脊椎動物の能力を持った因子

・物質因子(マテリアル):武器や道具などを生成する因子

・変換因子(コンバート):強制的に事象を変換させる因子


・伍劦(ゴリキ):第二世代で特に能力が高く、統治している者たち。


・众制度(カンパニー):伍劦によって定められた組織制度



-----------------------------


 ざっと教科書に目を通し、この世界の理に触れる。かいつまんで言うと以下の通り。

 

 1、人類は1世紀かけて細菌流行(パンデミック)を克服


 2、同時に遺伝子レベルで『組織』という枠組みを弱体化


 3、その代わり個人の能力を大幅にアップデートし文明をカバー


 4、同じく進化した無脊椎動物が脅威となっている


 パンデミック罪深いな。いやパンデミックはきっかけであり、元々崩壊していたのが明るみになっただけかもしれないが。ちなみに海外がどうなっているか分からない。交通、情報関連のインフラが死んだ時点で、世界とは日本のみを指している。



「お昼できたよー。記憶戻った?」


「残念ながら。多分何か柔らかいものを揉めば戻るかもしれません」


「きしょいねー。お昼食べたら仕事だから。あとこちらはうちの事務員さん」


「初めまして。村上里香といいます。宜しくお願いします」


「あっ、宜しくです。思わず頬張りたいくらい可愛いですね」


「えぇぇっ!?」


「きしょいねぇ!!」



 正直な第一印象を述べただけなのに殴られるのはさておき、紹介された事務員さん。


 三つ編み眼鏡に身長150cmもない感じでピンク系統のフリルで統一されたロリだった。時代は変わってもロリは変わらない。良き。


 お昼のパスタを食べながら今後の話をする。


「でも加奈ちゃん、相方が見つかって良かったですね」


「記憶喪失でセクハラってバッドステータス持ちですけどねー」


「あははは」



 ロリの苦笑いも可愛いな。



「何事も表裏一体!バッドステータスも状況によっては役に立つかもしれない!」


「前向きだけど雑だね」


「励まされるのがムカつくからほんとやめてよ。ともあれ因子くらい分からないと困るし……里香さん、因子キット手配お願いできますかー?あと討伐情報も」


「後者は既に用意していますよ。高崎方面に10体程度の集団がいるとのこと。距離は5キロ程度とのことです。脅威はレベルCです」


「りょー。それ請けます」


「受領報告出しますね。あと因子キットも依頼しときます。経費で落ちるでしょう」


「あざーす」



 そういうと事務員さんは紙にさらさらっと書いて、その紙を手に持って念じる。紙は徐々に変質し、鳥っぽい形になり窓から飛んで行った。



「因子キットは討伐後には届いていると思いますよ」


「助かりまーす。んじゃウチらは食べたら討伐に向かいます」


「補助はよかったですか?」


「レベルCなら大丈夫ですよー」



 これが変換因子(コンバート)か。紙を鳥に変換させて目的地に届ける。


「よし食べたねー。じゃ討伐行こうか。記憶は無くても荷物持ちはできるよねー。道中セクハラしたら蟲の餌にするよー」


 有無を言わさない笑顔であった。


-----------------------------



「はぁぁ!!」



 目の前で人型レベルの大きさをしたカブトムシがなぎ倒される。彼女は動物因子を持った兎人間。兎の脚力で敵(蟲)に突っ込んで薙ぎ払う。蹴り一発で蟲はバラバラに吹っ飛んでいる。


 身長180cmのカブトムシも初めて見たが、そんな規格外のカブトムシを一蹴する光景も初めてだ。


 動物因子(アニマル)とは、ヒト以外の脊椎動物(彼女の場合兎)の遺伝子情報が組み込まれており、その動物が持つポテンシャルを十全に引き出せるとのこと。


 進化という言葉で片づけていいのか疑問だが、事実ワンパンで殺されるようなモンスターを、可愛い女の子がワンパンで倒しているから受け入れるしかない。



「ペースはえーよ!初見なんだしもう少しゆっくりでー!」


「あはははー調子いいんだわー。頑張ってー!」



 俺の仕事は彼女が倒した蟲の回収。台車に乗せて素材を持ち帰る簡単だけど面倒な雑用。これまでは彼女が一人で討伐と素材回収しており効率が悪かったのが、討伐だけに集中できるので軽くバーサーク状態になっている。



「残り3匹ー!おりゃりゃりゃ!」



 5m程離れた地点から一歩で距離を詰め、横なぎにローリングソバットで1匹を上下に分割。着地と同時にそばにいたもう1匹に体ごとアタックして爆発四散させる。


 そして上空に天高く飛び跳ね、くるくる回転しながら最後の1匹にかかと落としで左右に分割して終了。お見事。できればこれからは、ショートパンツではなくスカートにしてほしい。


 どうも身体の敏捷能力だけなく、耐久性も俺の時代のそれとは比べ物にならないぐらいあがっている。あんな一撃はなっただけで四肢が粉々になる気がする。



 蟲の切断面には極力焦点を合わせないようにして台車に乗せていく。町には素材屋なるものがあり、討伐した蟲を買い取る業者が存在する。


 蟲の素材は様々な分野に活かされるとのことで、討伐した死骸は極力持って帰るよう推奨されている。


 全部台車に乗せて周りを見渡すと、朽ち果てた文明の跡、つまり廃墟や廃屋が見え隠れする。ここら辺一帯は蟲の汚染も低く、また人類の復興も追いついていないので野ざらしになっているのだ。


 200年後の未来。それはコロナによるパンデミックから、無脊椎動物によるバイオハザードへとシフトした世の中であった。


 おっぱいが無かったら耐えられない世界である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る