第3話 ふりふりふり


「あら珍しいわね。どうしたの?」

「帰り道”迷子”拾ったんだよ。どうだ見覚えあるか?」

「うーん……ないわね」

「ということは初犯か。大方どっかの雑用係が錯乱して逃げたしたんだろうか」

「でしょうね。どっちも運がいいわね」

「おう!大した金額じゃないが酒代にはなるわ」

「では規定通り2000円で。受付で受け取って」

「りょーかい。良い事して金ももらって最高だわガッハッハ」

「はいはい。ちなみにご飯は?」

「食べてなさそうだったぞ。そこらへんもよろしく!」

「はぁ、それは面倒だわ」


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 目を覚ます。何はともあれ現状確認。


 手には縄がかけられており、番号表らしきものがかかっている。


 所在地は四角い部屋である。殺風景な部屋だ。壁面も小さい窓しかない。換気悪くない?消防法大丈夫?スプリンクラーもないよ?


 暫定異世界であろう世界に、突っ込んだところで栓も無し。


 でもなんか見覚え有るんだよなーここ。周りを見渡すと似たように、縄をかけられた老若男女が10人ほど座っている。


 恐らくこの状況から察するに、売られるんだろうと予想がつく。これから値段が付けられるのか。まったく人身売買が許されるのは中世だけだぞ。いや中世が許されていたかは知らんけどさ。


 ほんと分からないことだらけで腹が立つ。


 いっそ暴れてやろうか。いや暴れたところでどうにもならない。精々買ってくれる人が良い人であることを願おう。できれば美人であってほしい。何ならおっぱいも大きい方が良い。



「時間よ。番号順に来て頂戴」



 一般的なOLが着るような制服を着た黒髪ロングの妖艶なお姉さまが、扉を開けてそう告げる。ちなみに順番待ちの人々も普通に現代の服を着ている。

 

 イベントは中世っぽいのに、環境が現代ってどう言うこと?更に言うと、普通売られる人って悲壮感あるんじゃないの?見てる限りそんなのは全然感じない。何だろ、就活生の面接待ちみたいな緊張感があるような。



 そして始まるオークション。オークション会場は学校の体育館のような、舞台と客席に分けられている。ていうか体育館だここ。バスケットゴールあるし。床とか内装が完全に体育館。さっきの場所は跳び箱とか置く倉庫だろうな。そら見覚え有るわ。


 舞台袖で自分の順番を待っていたら、先ほどの妖艶なお姉さんがサンドイッチとコーヒーを持ってきてくれた。どちらも食べなれた味だった。ほんとなんで?



 お腹も人心地付いたところで、俺の番が回ってきた。


 手を引かれ、舞台中央へつれられる。舞台下にいた人たちの視線が集まる。そんなに見られると、その、照れる。


「はい、お次は”迷子”です。本日飛び入りでございまして前情報はありません。取り分は運び屋が2000円、管理費1000円の3000円になります」


「よっしゃー!」


 萌えボイスな感じの声が聞こえた気がする。


「それでは3000円からスタートです!」



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「いやーいい買い物したわ。ちょうど小銭もなくなったし」



 俺を買った女は、コンビニで買い物した感じでそう言った。


 そうか俺は小銭を消化するレベルの価値だったのか。更に言えば7777円がポケットでじゃらじゃらなっている。つまりこの女の財布で邪魔になっていた小銭がうつったのか。


 おい死にたくなってきたぞ。ちなみにお金の概念は現代と変わらないようだ。ポケットには1000円札が7枚と777円分の硬貨がある。ただし札も硬化もデザインは全く見覚えが無かった。



「んじゃ職場にいくからついてきてー」



 何が職場か。さも当然のように言うんじゃない。こちとらもう限界はとっくに超えているんだ。異世界転生の順序は知らんが、何の説明もないままイベントが進みすぎじゃない?

 


 ねぇ、もうちょっと優しくしてくれませんかね?



「キミ、無口だねー。そんなに前の職場で嫌なことがあったの?」



 知らんがな。どちらかといえば俺はおしゃべりだ。無口なのは状況が分からなさ過ぎてやむを得ずだ。



「まぁ無口の方が好みだし良いんだけど、名前くらいは教えてよー」


「……上崎悠太カミサキユウタ


「あっ、やっと喋った!教えてくれてありがと!あたしは久原加奈クハラカナ。宜しくねー」



 あぁ、また違和感だ。これ以上ない違和感だ。


 なぜなら久原加奈と名乗った女は、鱗の人同様獣人なのである。頭にはウサギのミミが生えており、おしりにはふわふわのしっぽが生えている。瞳は綺麗な琥珀色をしており、分かりやすくウサギの獣人だ。


 そんな獣人が日本名を名乗ったのである。違和感しかない。



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「ここが職場ー。適当に座ってくださいなー」


 オークション会場から、歩いて10分ほどの雑居ビルの一室に案内された。狭くも広くもない部屋で中央にソファーとテーブルが置いてある。ソファーに腰を掛け、向かいにウサギ女が座る。しっぽは邪魔にならないのか?



「えっと、とりあえずお願いしたいのは討伐ハントの荷物持ち!必需品と素材をおねがーい。倒すのは私がやるからねー」


「住むところは……迷子だもんないよねー。いいよ。ここの空いてる部屋で寝泊まりしてー。私もここに住んでるから気を使わなくても大丈夫!」


「流石にその恰好じゃ、荷物持ちとはいえまずいなー。装備はあまってるやつあったかなー」



 笑顔で説明をするウサギっ子。可愛い。言っている単語はわかるが、背景が分からないし可愛いので全く頭に入ってこない。



 そして後ろにあった荷物入れを、ガサゴソと探っている。おしりはこっちに向いている。

 しっぽがフリフリしている。フリフリふりふりふりふりフリ―――



「一つお願いがあるんですが」


「えっ?何なに?何でも言って、なんでもするよー!」



 どうやら会話を振ったことがよっぽど嬉しかったらしい。


 そらそうだ。道中ここに至るまで、俺は名前しか発言していない。終始間を埋めるようひたすら喋っていたのだが、たまに声が震えている時があった。

 

 俺は俺で理解が追い付かなかっただけなのだが、相手からしたらひらすら無視をされていたのだ。


 ウサギっ子は机に手を置き身を乗り出して、満面の笑みこちらの回答を待っている。これまでの寂しさと、やっとコミュニケーションがとれるという嬉しさが隠しきれないみたいだ。



 そんな可愛いらしい彼女に、最上の微笑みで切り出した。



「おっぱいを、揉ませてくれませんか?」



「うんいいよ!まかせ……はぁ?えっ、おっぱ……いやぁぁ!」



 ウサギっ子は瞬時に胸の前で腕を組み、真っ赤な顔でこちらを睨む。


 さて、ここでこのウサギさんのスタイルを紹介しよう!


 まず上半身!髪の色は茶髪、髪型はツインテールでうさみみがアクセント!さらに白のぴっちりTシャツがお胸をくっきりさせているぞ!


 更に下半身はショートパンツで生足がバッチりである!またおしりにはふわふわのしっぽを付けてキュートさをアピール!

 

 ショーパンはサスペンダーで固定しており、万が一ずり落ちないようになっている。機能的だね!

 

 忘れてはいけないのがお胸のサイズ!推定Gカップ!おっきいね!揉みたいね!仕方ないね!





 つまりだな、とても魅力的な女性というわけだ。しかも今は腕で胸を隠しているつもりだが、逆効果だ。お肉がむにゅっとなって更に揉みたくなる。



 よっぽどひどい顔をしていたのだろう。そんな俺を見て自分が視姦されていることに気づき、うっすら涙を滲ませ、親の仇のような眼をしながらでこめかみにトゥキックをくらわした。



 残念、パンツは見えなかった。ほんと残念!

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