第一章 異世界?始まりました
第2話 ラッキーセブン
―群馬(武力統括地) 競売所―
「それでは3000円からスタートです!」
「3500円!」
「5000円!」
「5500円!」
「7000円!」
「7000円頂きました!他には?他には如何でしょう?」
「7777円!!」
「細かく刻まれました!刻みすぎな気がしますが他にはどうでしょう?―――いらっしゃらないということで!毎度!7777円でお取引!」
どうやら俺は7777円で売られたらしい。ラッキーセブンで幸先良いね!ってアホか!くそ!7777円が高いのか安いのかもまだ判断つかない。ってかやっぱり通貨は円かよ!
ただ俺を買ったと思われる人めちゃくちゃ可愛いなおいうへへへやっぱり幸先良いのかー……ってちげーよちげーよどうしてこうなった!どうしてこうなったんだぁ!!
嬉しいのか悲しいのか、悔しいのか戸惑えばいいのか感情を処理しきれない。
改めて一連の流れを思い返そう。
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俺は木々が生い茂る森の中で目を覚ました。最初に思ったのは死んだのか?だった。
まず自分を確かめた。
名前は
次に体の調子を確かめた。
確か昨日は研究室の飲み会でしこたま飲んで、後半の記憶が無い。それだけ飲んだら翌日はゲロまき散らしているのがデフォだが、特に不調は見当たらない。
次に身の回りを確かめた。
寝る時に着るジャージを身に着けていたが、スマホもマクラもベッドも無い。
最後に周囲を確かめた。
木と草しかない。
結論死んでるねコレ。そしてここは天国だ。じゃなかったら説明つかねぇよ。
なので迎えの天使を待ったが現れる様子はなかった。
天国じゃないのかよ!死んだことないから分かんねぇよ!
死んでないとしたらどういう状況だよ!研究室の仲間がドッキリでも仕掛けたんか?どうせ仕掛けるんなら、おっぱい大きい女の子も一緒に並べといてくれよ!
しばし考えを巡らしてみたが、一向に状況は変わらなかった。
しょうがないので、歩くとした。
歩くこと小一時間。特に目的も目印もないままふらふらと歩いていたら、道路っぽいところにでた。ぽいとはなぜか。慣れ親しんだコンクリートではなく、土むき出しの踏み歩いてできたであろう道だからだ。
森の近くの道ならこんなもんかなと思うが割と道幅が広い。二車線くらいありそう。ていうか喉が渇いた。ほんと誰か助けて……!!
「おいにーちゃん。そんな恰好にこんな場所で何してんだ?」
思案していたら後ろから声をかけられる。振り向いて声の主を視認して深呼吸。目の前の情報を処理する。
そう、目の前の人、人?言葉を話すという定義を人とするなら人として、
その人の口先はとんがっており、
牙と形容するような歯が生えており、
下半身にはしっぽが生えており、
何より肌が鱗に覆われていることを人として定義していいのだろうか。
この鱗の人が新種の病気でなければ多分答えは一つ。
俺は異世界へ転移してきたのだろう。神様早くお告げとチート能力ください。
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「大方逃げてきたんだろうけど運が悪かったな、いや運がいいのか。そのうち蟲にやられてただろうしな。感謝しろよーガッハッハ」
「しっかしこんなとこまで歩いてくるとか根性あるなー。いや無いから逃げてきたのかガッハッハ」
「いやでもいくら蟲の活動時間が落ち着いてるとはいえその恰好で歩くのは根性があるのか……いやこれはバカだなガッハッハ」
馬二頭にひかれた馬車を操り、鱗の人はぺらぺらと話す。俺の相槌は求めていない。
大きなタルが10個以上乗った荷馬車と共に、知らない目的地へと向かっている。別に逃げてきたわけでもなく転移?しただけなんだけどな。
神の声も世界システムの声も聞こえない現状だと、この鱗の人の価値観にあわせるのが無難か。腹の虫が「そうだな」と相槌をうつ。
というか、空腹の主張がヤバい。先ほど水だけはもらったんだが、ついでに腹も減ったニュアンスを伝えてみたら「えっ食い物も欲しがるの?」的な顔をされた為、あきらめた。
まぁ見ず知らずの人間に水はあげても食べ物までは無理、という価値観がわかっただけ良しとしよう。現状食べ物がどの程度の価値があるかもわからない。無理言って食べれたとして、あとから法外な要求を吹っ掛けられても困るし。
「町に着いたらガイドライン通りにオークションへ連れていくぞ。せいぜい高値付けられるよう祈っておこう。袖すりあうも何とやらってなガッハッハ」
いやいや待て待て、オークションってなんだよ。ガイドラインってなんだよ。何よりここはどこだよ。何されるんだよ。俺は誰だよ。上崎悠太だよ。それは知ってるよ!それ以外わかんないんだよ!そろそろ情報処理能力が限界だ。
正直口の軽そうなこの鱗の人なら、道中色々質問してみても良かったがここは推定中世ヨーロッパ。価値観に乖離がありすぎるとどんな誤解を招くか分からない。
そもそも俺の価値観で人に鱗はない。様子見でいこう。またの名を問題の先送りともいう。正しく日本人である。
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馬車に揺られること10分程で、視界を覆う程の壁が見えてきた。高さ10mはあると思われる。
レンガ作りの壁には入口があり、鱗の人は衛兵らしき人と何か話している。ファンタジーだと普通だけど実際目の当たりにするとシュールすぎるな。もはや芸人のコントを見ているみたいだ。
ともあれ門を潜り抜けて壁の中に入る。
そして限界を迎えた脳回路がはっきりと悲鳴をあげた。なぜなら中世とおもいきや壁の中は思いっきり日本だ。
それも現代、つまり俺が知っている日本に酷似していたのだ。車道と歩道に分かれ舗装された大通りがあり、左右に商業ビルが立ち並び、突き出すようにいろんな看板が出ている。
商業ビルの作りも直線状のコンクリート造りで階層ごとにガラスがあるように見える。道行く人の衣服も現代の水準と遜色ない。
ただし全てが俺の知っている日本ではない。
突き出す看板の内容は見覚えが無いものばかりで、書いてある文字も『武具屋』『修理屋』『運び屋』などと、まず現代では使わない単語。
道行く人は普通の人もいたら、送ってくれた鱗の人と同系統、つまり獣人のような人もいて、そんな人たちが普通に笑顔で会話しながら歩いている。
違和感、しか、無い。
極めつけの違和感は電線と車が無いのだ。車の代わりに馬車が走っている。
馬車かー馬車ね。明治?明治かな?
「おいにーちゃん、そんなキョロキョロすんな。もうこの時間じゃ逃げたって人も多くて逃げきれねーよ。それに次逃げたら問答無用で外壁送りにされるぞ。おとなしく座ってな」
先ほどのおどけた調子とは違い、凄みのある声で注意を受ける。大人しく荷馬車に座り改めて情報を整理する。
鱗の人と通じる言葉
意味の分からない単語
原始的な作りのバカでかい壁
見覚えのある街並み
見当たらない文明の象徴
見たことが無い獣の人種
知らないようで知っているようで
やっぱり知らない世界
最後の最後で脳の回路が焼き付いたらしく、何かが焦げる音を聞いて意識を手離した。
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