【遭難X3した】人生に遭難した挙句雪山遭難したら、異世界に遭難した。【遭難X3した】

@Maroyaka-ponzu-humi

第1話~誕生日のプレゼント~

ある日、もうすぐ40歳になるニートの父親がリストラされた。コロナ禍で業績が悪化した煽りを食ったのだ。


そんなある日の正午前、便意を催したニート君はゲームを一時停止してトイレに行く、用が済んでトイレから出ると彼の母親がトイレの前に立っていた。

だが、なんだか雰囲気がおかしい。

そして、唐突に「あんたに買い物頼みたいんだけど」と言われる。

思わず「は?」と言ってしまう。

とは言え、某掲示板でニートの癖に『親に買い物頼まれたのでバカヤローと言って引っ込ませたぜ!』とか言ってイキっている書き込みに対して『おまいは最低のクズだな』などと書き込んできた手前、俺が同じことをヤルわけには行かないだろう、恥を知れ!というやつだ、よし!俺はそんじょそこいらのニートとは違うということを見せてやろうじゃないか。

「あ、はい」と肯定の意を示すと母は俺に3千円を渡してきた。「コンビニでお弁当を3人分買ってきて」とのことだ。


俺だって近所のコンビニくらいには行ける、親からお情けでもらう小遣いでコンビニで買い物をすることがあるのだ。だが、最後にコンビニに行ったのは先月…いや、先々月?かな?急に不安になってきた。

ぶっちゃけ、外に出るのが怖いし億劫だが引き受けてしまったものは仕方がない、自分の用事でなら外出できるのに親に言われると行きたくない、そんな書き込みをダセぇだのヘタレだのとディスっていた手前、自分は掲示板やSNSにたむろってイキっているお前らとは違うんだということを証明するべく、深呼吸して覚悟を決める。


「ちょ、ちょっと着替えてくるわ」と告げて自室で久々の着替えをする、パジャマ兼室内着として使ているよれよれの薄汚いスウェットからオタク仕様と言われるチェック柄シャツとジーパンに着替える、もちろん、シャツの裾はズボンにINだ。

う~ん、3か月ほど前に買ってもらったのにもうおなかがきつくなっている、少し大きめのサイズだったのに、もうちょいでパンパンになってしまう・・・。

出かけようと玄関先で久々に自分の靴を下駄箱から探し出して履いていると、母親から待ったがかかる、「マスク、忘れてるわよ」。そうだった。マスク拒否するキチガイを馬鹿にしている場合ではなかった。母から渡された不織布マスクの形状保持材を適当に成型して装着する。母は伏し目がちに俺にこう告げた「しっかり・・・ね」たかが近所のコンビニでの買い物くらいで大げさな。思わず「いゃ、ガキの使いじゃねーんだから」とこぼした。母の言葉の真意も知らずに。


*******************


ふぅ~、途中の電柱に寄りかかって肩で荒い息をする。ヤバイ、ふらふらする。引きこもりすぎて運動不足過ぎる、あと、滝のように流れ落ちる汗が半端ない。


(親の)自宅マンションから100mは来ただろうか、いや、そんなでもないか?、通り過ぎる人々が『なんだこいつ?』みたいな怪訝な表情で俺を一瞥してからすたすたと軽快に歩き去っていく。


なるほど、普段から健全な生活をしている人たちは、100m~200mくらい歩くのはどおってことはないのか。考えてみると、普通の俺ぐらいの年齢のやつらは、女房子供のためにも昼前のこの時間帯は会社で馬車馬のように働いているんだよな。


職場に行くのに満員電車に無理やり乗り込んで言っているのだろうか?

いや、最近はコロナ禍の影響で少しは空いているのか、たまにネットでニュースを見るとはいえ興味がないせいかあまりよく覚えていない、それに、10年以上TVを見ていないのでどんなことが報道されているのかよくわからんし、興味が無いから知ろうとしてこなかったな。まじめに働いている皆さんすみません。あ、うちの親父もその一人か、しかも、ニートに脛までかじられてるし。


そんなとりとめのない事を考えながら電柱に寄りかかって休んでいるうちになんとか体力が回復してきた。情けねぇ。ガキの頃はあのコンビニまでの距離なんか駆けていったって疲れなかったのに。


ふと足元を見る。見えなかった。

下を見ると見えるのは、ぽこんと突き出した腹の上に二つの胸のふくらみがのっかっている光景だ。男も肥満すれば胸が膨らむのだ。ぶっちゃけダサい。


女の子の胸の二つのふくらみは何でもできる証拠なの!だが、醜く歳を取ったおっさんの胸の二つのふくらみは何にもしてない証拠なの!だ。・・・シャレになってねぇ。

※「魔女っ子メグちゃん」主題歌より


都合3回ほど休憩しながらようやくコンビニ前に辿り着く、振り返ると自宅マンションが少し先に見える。

ちょうどマンションから出たと思われる壮年の男性がこちらに歩いてくるところだった。

おお、早い!速いぞ?3分くらいするとコンビニ前にたどり着いて、ずっと見ていた俺のことを「なんだこいつ?」とでも言いたげな怪訝な目で一瞥するとコンビニに入っていった。


考えてみたら、イイ歳したおっさんがずっと自分を見続けるとか気持ち悪いな、まさか、ホモだと思われたか?

改まって考えてみるとヤバイ、しかも、肩で息してるし。「はぁはぁ」言っている奴にずっと見つめ続けられる、うん、これはヤバイな、相手が女だったら絶対通報されるな。事案ものだ。


ただしイケメンを除くとは言うが、俺は明らかにブサメンだし。

だがしかし、不幸中の幸い、相手は男だったので事案発生とはならなかったようだが、でも、誰かしらが『コンビニ前に不審な中年男性がいる』とかネットで書き込んでいるんだろうな。

いかん!さっさと買い物を済ませて帰ろう。ぼさっと突っ立っているだけで事案になるとか世知辛い世の中だぜ。

幕の内弁当っぽい奴で同じ種類を3個買う、数百円のおつりとレシートをもらう。もちろん、コンビニ袋も買う。手ぶらできたし。


コンビニから出ると正午の秋の日差しがまぶしい。

普段から自室のカーテンを閉め切っているのでめったに日の光を浴びることはなかった、そのせいか、不健康に青白い肌に日光が突き刺さって痛い。往きはあまり気にならなかったのに帰りはなんでこんなに日差しがきついのだろうと考える。

南から北に行くのであれば顔に日差しは当たらないが、逆ならもろに日差しにさらされるというわけか。

どうでもよいことを考えながらコンビニ前の歩行者用信号の信号待ちをしていると、目が日差しに慣れてきたようだ。


改めて南北にまっすぐな道の先にある自宅マンションまでの道のりが長大に思える。俺の親父くらいの年齢の男性が3分ほどで歩いてきた距離が、だ。

3人前のコンビニ弁当ってこんなに重いものなのか。道中のどを潤したくなったのだが自販機が一台もなかった。『こんな都会で、道中、自販機が一台もない道ってどうよ?』などと心の中でぶつぶつ言いながら、物理的に重い体を引き擦るようにしてマンションのオートロックドア前のロビーにつくが、そこには異様な光景があった。


*******************


オートロック端末と郵便受け(受け側)のあるマンションのエントランスには、誰でも出入り自由な外側の自動ドアと、招き入れられた人が住民でないと通れない内側の自動ドアがあるのだが、内側の自動ドアの脇に大きなバックパックと、昔家族旅行で温泉に行ったときに使った大きなボストンバックが置いてあり、バックパックのほうに「佐藤雅君へ」と書かれた紙がセロテープで貼ってあった。


佐藤雅(さとうまさし)、まさしく俺のフルネームだ。おやじギャグを言っている場合ではない。

嫌な予感がして手が震えると同時にコンビニ袋を落とした。コンビニ弁当がたてた音が悲鳴に聞こえたような気がした。過呼吸になるくらいに息が早くなって軽くめまいがする、というか、さっきから寒気がして頭に鈍痛がしているし、しかも、視界が少しずつ暗くなっていたのだが、このことで視界が一気に真っ暗になったような気がした。

落ち着け俺、・・・とりあえず、あの張り紙の裏に何か書いてあるみたいなので読んでみよう。


血の気が引いていく感覚とともに、ここにあるバッグたちは俺の服とかが入っていて、あの紙には「これ以上お前を養うことはできないので出ていけ」と書いてあるんではないのか?という予測が立つ。こういうことの予測だけはなぜか早いのだ。

いや、まさか、本気で追い出すとか・・・違ってほしい、いや、でも、これはついに年貢の納め時が来たのか?


緊張で体中がぶるぶる震え始めるが、とにかく、読んでみなければとバックパックに近寄り、「佐藤雅君へ」と書かれた紙を慎重に剥がし取る。

その紙を裏返して裏書を読む、随分とのたうち回った汚い字だが間違いなく母の書き癖だ。普段はもっと綺麗な字を書くはずなのに・・・。

この文章を書いているときの母には相当な心の揺れがあったのだということがわかる。

そして、自分のことなのにどこか他人事のように見ている自分がいる。

昔からそうだ。幼いころから自分のことなのにどこか他人事のように時分を客観視している自分が自分の中にいるのだ。そんな感覚まま、まるで他人事のように文章を読み始める。

そこには、つとつとと、このような暴挙に至った経緯が述べられていた。


*******************


父に対して、本来なら定年退職している人を中心に業務縮小に伴うリストラを実施し、3月いっぱいで雇止めにするという宣言が1月初旬に出たらしく、父はそれを受け入れたようだ。幸い、3年前にマンションのローンは完済できいたので、これからは共益費と管理費の3万2千円を払うだけでここに住み続けられるのだが、退職すれば厚生年金だけの収入となるとのこと。


国民年金よりも金額が多いとはいえそれほど贅沢ができる金額ではない。しかも、介護保険料が引かれるのだ。

俺一人を養うだけならなんとななるだろう、だが、いつまでもそんなことはできない、父70母68、あと15年生きられるかどうかという歳だ。


『お前も今日で40歳になる、本来なら一人で自立して生活している年齢だが、私たちの育て方が悪かったのかお前は自立できていないし、このままでは私たちが死んだらお前も野垂れ死にしてしまうのでは?と思うと心苦しい』など、母の率直な気持ちが書かれていた。


母の白髪とその顔に深く刻まれた皴の原因はこの俺一人にあるといっても過言ではないのだろう。

ふむ、出て行けと言われて嫌だと言う権利が俺にはあるのだろうか?

ここで「当然あるに決まっているだろう」などと言い出すなら、それは、ネットでそのようなことを書き立てている同族(ニートたち)たちの書き込みに対して、自分のことを棚に上げて「ヒトデナシ」と罵る書き込みをしてきた俺が自己矛盾していることになる。


他人がやっていると非難するようなことを自分が平然とやるのはダメじゃね?ダメだよね。

でも、いきなりコンビニ弁当3個だけで出て行けと言われても無茶だぜ?勘弁しろよ、と、思わなくもない。

とりあえず、まだ続きがあるので読んでみる。


『雅の分の特別定額給付金は雅の郵貯口座に振り込んであるので、当面の生活費はそれで何とかしてください、自分の誕生日くらいは覚えているでしょ?』

いつの間に俺の郵貯口座を?っつか、なんで俺の誕生日?


・・・


あ、ひょっとしなくても暗証番号って俺の誕生日ですか・・・誕生日に着の身着のままで追い出されるとか、どんな誕生パーティーだよおい!斬新だな!!!自分の不幸なのに笑えるわ!草生えるわ!もう笑うしかない。

誕生パーティーのケーキの代わりにコンビニ弁当3人前だぜ?掲示板なら草生えてるって。しかも、今落としてレジ袋の中で三段幕の内ミックスになってる・・・。


しかし、まあ、確かに、高校を中退した挙句バイトも3日で無断欠勤して自室に引きこもって、夜となく昼となくネット動画を見たりコンピューターゲームをしては食っちゃ寝している木偶の坊を死ぬまで養えというのは理不尽ではあるな。俺が親の立場ならそうするな、いや、、、う~ん、するな。うん。


で、だ。これからどうしよう?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【遭難X3した】人生に遭難した挙句雪山遭難したら、異世界に遭難した。【遭難X3した】 @Maroyaka-ponzu-humi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ