第221話

「えー、本当なのー?口から出まかせじゃないでしょうね?」

「シスターに触れて頂ければわかる事です。」

「それじゃあシスターカタリナ、女神像に触れてもらえるかな。」

「は、はい。承知しました。テレーズ殿下。」


 カタリナは女神像の前で跪き、熱心に祈りを捧げた。頼む、カタリナ。いやここはコーラス様にお願いするべきか。どっちでも良いからちゃんと光ってくれ。そうじゃないと大変な事になるんだ、主に俺が。


「それでは失礼致します。」


 そう言うとカタリナは女神像に近づきそっと像に触れた。その瞬間、女神像は淡い光を放った。良かったよぅ。


「あ、光った。」

「これで嘘では無い事をお分かり頂けましたね。テレーズ殿下。」


 コーラス様、私の願いをお聞き届け頂きありがとうございます。ホント助かりました。正に綱渡り。首の皮一枚。


「あたしが触れた時は光らなかったのにー。」


 そう言ってテレーズ姫様はもう一度女神像に触れるが、やっぱり光らない。すごく悔しそうだ。姫様、何を競っているのでしょうか?


「殿下も信仰を厚くして行けば、直ぐに光らせる事が出来る様になりますよ。」

「ちょっと、何よそれ。あたしに信仰心が無いみたいじゃない。あたしだってお布施を弾んだのよ。」

「殿下、そう言う俗物的な事では無くて毎日女神様に祈りを捧げる事が大切なのだと思いますよ。」


 どういう基準か分かりませんが、毎日欠かさず祈りを捧げる信仰の厚い者も光らせて下さい。光る様になりますよね、コーラス様。お願い致します。コーラス様?お約束頂けない場合は、遺憾ながらアリア様に言いつけますよ?


(分かったよう、もう。女神使いの荒い奴だな、お前は。)


 コーラス様からの言質も取ったし、これで一安心だ。元はと言えば、コーラス様がこの様なイタズラをされるからですよ。


「さっき女神像が光らなかったか?」

「私も光ったように見えました。」

「新たな奇跡じゃないのか?」

「すぐ司祭様に連絡を!」


 イカン。段々外野が騒がしくなって来た。このままでは、またややこしい事に巻込まれてしまう。急いで脱出せねば。


「テレーズ殿下。もう時間が押しています。そろそろ出発致しましょう。早くしないと次の街へ到着するのが遅くなってしまいます。」

「えー、もうちょっと良いじゃない。」

「暗くなると物騒です。また賊に襲われないとも限りません。ささ殿下、お早く。」

「分かったわよ、もう。」


 カタリナには悪いが、俺は撤収だ。カタリナは元々この神殿の人間だから悪い様にはされないだろう。俺は冒険者だし、聖職者になったらアンちゃんと結婚出来なくなっちゃうじゃん。


「またいらして下さいね、ジローさん。」

「シスターにはご面倒をお掛けします。またそのうち礼拝に来ますよ。」


 そう言って俺達テレーズ殿下一行は神殿を後にした。今度来るときは変装でもして来ようかな。そうだ手袋したら光らないかも知れないな。今度試してみよう。


「私が触れても光らなかったわ。」


 アンちゃんは残念そうにしているけど、光ったら光ったで大変なんだよ。心労で禿げたらどうしよう。

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