第222話

「何で黙ってたのよ。」

「何の事でしょうか。」

「とぼけないでよ。奇跡が起こった時にその場に居合わせた事よ。」

「今回のお役目には、特に関係ないと思いまして。」


 ここはテレーズ殿下の馬車の中だ。いま正にテレーズ殿下に吊し上げを食らっている真っ最中。神殿の礼拝を早々に切り上げて出発して来たので、殿下はご機嫌ななめだ。あめちゃんあげるから機嫌直してくれないかなあ。


「だいたい女神様からの啓示なんて、そこいらに居る人がホイホイ受けられるものじゃないでしょう。」

「そう言われましても・・・。」


 前から勘が鋭いと言うか頭が回るとは思っていたけれど、こうやって追及されると辛いな。どうしてくれようか。


「分かった!あなた本当は神殿関係者で、高位の神官なんでしょ。」

「違いますよ。神官だったら、アンナと結婚できませんよ。」

「アンナとは婚約しているけど結婚は未だでしょ。そうやって人の目を欺くための婚約、偽装結婚なのね。」

「違いますって。アンナに言ったらアンナが泣きますからお止め下さい。」


 頭は回るけど、おかしな方向に行っちゃうんだな、この姫様は。俺としては助かるんだけどさ。


「高位の神官じゃ無ければ何?あれだけの威力の魔法が使えるのだもの。神殿のイリーガル部門所属とか?」

「そんな訳ありません。だいたい神殿にその様な部署があるのですか?小説の読み過ぎではないでしょうか。」


 何だよイリーガル部門って。こっちの世界にもそんなスパイ映画みないた物語あるのか?ちょっと興味をそそられるけど、本当にそんな奴ら居たら怖いな。真っ先に狙われそうだわ、俺。


「私はすっごい山奥の、田舎の出身でして。その山の奥に、私の師匠の導師が住んでいたのですよ。魔法はその師匠から習ったものです。」

「えー、本当なの?」

「本当ですとも。後日ヘルツ王にお尋ね頂いても結構ですよ。」


 ヘルツ王にもこんな身の上話をしたよね。うん、後で口裏を合わせる様にお願いしておこう。


「私が女神像に触れて光るのは、たまたま奇跡が起こった時に居合わせたおまけの様なものです。殿下はこの次神殿に参られた時に女神像を光らせたいのでしょう?でしたら女神様への祈りを欠かさない事です。」


「それは良い事ですね。」


 姫様の隣に座っていたマルグリットさんが話に加わって来た。


「姫様は立派なお世継ぎの誕生を祈って下さいませ。私は姫様の言葉遣いが治る様に、女神様へ祈りを捧げます。」

「え?あたしの言葉遣いをお祈りするの?」

「女神コーラス様。どうかテレーズ姫様の言葉遣いを治して下さい。」


 マルグリットさん、本当に祈ってるよ。祈っただけで治るものかな。


「勿論女神様へお祈りするだけではありません。姫様の言葉遣いが悪いのは私の責任ですから。これからは日常の会話も厳しく指導いたしますよ。」

「えー、ジロー助けてよ。」


 残念ながら、俺には助けられそうにありません。コーラス様でも無理じゃないかな。ここはマルグリットさんの指導に素直に従って下さいね。


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