第214話

「うおおおぉぉぉぉ!」


 何事か!と見れば、唸り声をあげてアンドレ隊長達が戻って来た。得物はメイスを持っている。うん、鉄の鎧じゃあ剣では切れないからね。アンちゃんは正確無比な突きで防具の隙間を狙ったけど、アンドレ隊長は鎧ごとメイスで叩き潰した訳だ。豪快と言うか、性格が出てると言うか。ま、いろいろな武器を使えると言うのは、やっぱり一種の才能なんだろう。


「前方の敵は全て叩き潰してやった。残りの敵も片付けるぞ。あ、いや、何人かは殺すな。生け捕りにしろ。」


 最初は大人数だった敵兵も、俺の魔法とベクレル兵士の活躍で大分数を減らした。中には逃げ出そうとしているヤツもいる。だめだめ、逃がさないよ。


「ストーンニードル!」


 逃げる敵兵に向けて、俺は釘よりも細くて短い石の針を撃ち出す。ストーンネイル程威力は無いけど、生け捕りにするならこっちの方が良いだろう。やがて立っている敵兵はいなくなり、倒れてうめき声をあげている奴が数名程。こちらはけが人はいるが、幸い死者は出なかった。流石は姫様護衛の皆さん。お強いこと。


「なんだジロー。お前怪我してるじゃないか。」


 俺が左腕から血を流しているのを見たアンドレ隊長が声を掛けて来た。今まで戦いに夢中でアドレナリンどばどば、痛みを忘れていたけど、思い出したらとっても痛いよ。


「どれ、俺に見せて・・・。」

「大丈夫?ジロー。怪我したところを見せて。」

 

 アンちゃんが駆け寄って来て怪我の具合を見てくれた。アンドレ隊長には悪いけど、手当てしてもらうならアンちゃんの方が断然良いよ。許嫁だし。


「腕の中に異物は残ってないみたいだから、ひとまず布を巻いて止血するわね。」


 アンちゃんは水魔法で傷口を洗って、布で縛ってくれた。後でこっそり回復魔法を掛けておこう。布を巻いておけばバレないよね。暫く痛そうな演技もしとこうかな。念には念を入れる、ヨシ。


「アンちゃんは怪我してない?」

「私は大丈夫よ。」

「アンドレ隊長は・・・大丈夫そうですね。」

「俺があんな奴らに後れを取るものか。みんなコイツで潰してやったは。」


 そう言ってアンドレ隊長はメイスを見せてくれた。うん、あっちの死体もテレーズ姫様には見せない方が良いね、きっと。まあ、戦いの跡なんて見るもんじゃないよ。トラウマになっちゃうよ。姫様には馬車に閉じこもっていて頂こう。そうしよう。


「しかし、これほどの魔法の使い手だったとはな。ヘルツ王が使いとして寄こす訳だ。」


 何かアンドレ隊長の中で俺の株が上がった様だ。アンドレ隊長に見直されるのも良いけれど、どうせなら若くて奇麗な娘の方が・・・。うそです、うそです。俺はアンちゃん一筋です。だから睨まないで。相変わらずアンちゃんの勘は鋭い。

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