第213話

 ベクレルの兵士たちはまだ敵兵と交戦しているが、精強な兵士たちは賊が姫様に近づくのを阻んでいる。一番厄介な弓兵を斃したので、テレーズ姫様への直接攻撃は無くなった。馬車の火も消したし、ひとまず姫様には馬車に立て籠っていて頂こう。こんな所をウロチョロされたら危なくて仕方ない。


「殿下、馬車にお戻りください。ここは危険です。」

「えー、嫌よ。私も戦うわ。」

「はっきり申し上げて足手まといです。マルグリットさん、殿下をお願いします。」

「お任せください。ジローさん、アンナさんもお気を付けて。さ、殿下。こちらへ。」


 足手まといと言われてしょぼくれたテレーズ殿下は、マルグリットさんに促されて馬車に乗り込んだ。素直に言う事を聞いてくれて良かったよ。ここで駄々をこねられたら、ふんじばってでも馬車に放り込むところだ。そんな事したら後が怖いけど、命には代えられないもんね。


「それじゃあアンちゃん。俺達も行こうか。」

「うん、任せて。」


 そう言って駆け出すアンちゃん。後に続く俺。傍から見ると、うら若い女の子を前面に押し立てておっさんが後ろから付いて行くと言う絵柄は如何なものか。鬼畜と言うか、根性無しと言うか・・・。だって仕方が無いじゃない。おっさん、物理攻撃力はほぼ皆無だし、紙装甲なんだから。死んだら終わりよ?


 アンちゃんは一番苦戦しているところへ突撃して行く。


「加勢します。」

「おう、助かる。」


 アンちゃんが加勢した事で少し隙間が出来た。俺も何時までも後ろに隠れている訳にいかないしな。ちょっと怖いけど、俺も前線に出ない訳にいかないだろう。さっき熱湯のしぶきが飛んで熱い想いをした兵士の皆さんごめんなさいね。その代わり、これからこのおっさんが加勢しますから。


「みんな、少し下がってくれ。」

「皆さん少し下がって!ジローの魔法が来るわよ。」


切り結んでいたベクレル兵が敵と距離を取った瞬間を狙って、俺は魔法を発動させた。


「散水!」


 今度は熱湯のシャワーをお見舞いした。広範囲に広がった熱湯は、一度に数人の敵兵を行動不能にする。

 

「あの厄介な魔法使いを狙え。先に始末しろ!」


 ありゃりゃ、俺がタゲを取っちゃったよ。だから俺は紙装甲なんだってばさ。そんな俺を守ってくれるのがアンちゃんだ。いつも大変お世話になります。


「くそ、近づけないならこれでも喰らえ。」


 ナイフを投擲して来た奴がいやがった。俺は躱しきれず左腕にナイフが突き刺さった。痛い、すごく痛いよ。でも戦いでアドレナリンがドバドバ出ている状態なんだろう。俺はお返しに魔法を放つ。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。射線は通っているんだよ。


火球パチンコ玉!」


 火球が命中した敵兵はバラバラになって吹き飛んだ。グロい。これ姫様には見せられないね。熱湯被った人も見せられたものじゃないけど。だから戦いは嫌いさ。

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