第210話

「水球!」

「そうそう。お上手ですよ、殿下。多少形は崩れても問題ありませんからね。」

「なかなか奇麗な玉にならないのよね。」


 テレーズ殿下と俺は魔法練習の真っ最中だ。結局のところ、テレーズ殿下は一回につきカップ1杯分の水を出すのが限界って感じ。短期間にしては良く頑張りました。まだ伸びしろが無い訳じゃ無いと思うので、これからも精進すればもっと水量を増やせますよ、殿下。飽きずにやって下さいね。


「あー、もう。浮かべるだけで精一杯。」

「大丈夫ですよ、殿下。そのうちその水を飛ばす事も出来る様になりますから。」


 今は手のひらではなく空中に水の塊を出して、そのまま浮かべる練習をしている。ちょっと気を抜くと水の塊は落下してその辺の物を濡らしてしまう。最悪俺が魔法で処理しようと思っていたら、マルグリットさんがおけを出してくれた。その桶の上に水を出すようにして、とりあえずは問題解決。


 でも何で馬車の中に桶なんてあるんだろう?あれか、エチケット袋的なものか?世の中には壊滅的に乗り物に弱い人っているからね。小学校の遠足の時に、必ずバスの前の方に乗せられたお友達がいたでしょ。酔い止めの薬飲んでも顔が真っ青になって・・・。まあ、体質だから仕方ないよね。


 こうして練習する事暫く。桶は必要なくなった。もちろん体調的な意味ではなく、魔法の練習でと言う意味だからね。もう少し具体的に言えば、馬車の窓の外に浮かべる事が出来る様になりました。ちょっと距離が伸びたね。


「何か不思議よね。馬車の外に水が浮いているって言う事は、馬車と一緒に動いているって事でしょう?これって水を飛ばしているって事なの?」

「さすがはテレーズ殿下。良い着眼点ですね。素晴らしいです。」


 ちょっとよいしょを混ぜておきました。それはさておき、これはイメージの仕方なんだよね。自分を基準にして、自分の目の前に水球を作り出すイメージをされているから、自分が動けば水球も動くと言う理屈だ。道端の木の前とか岩の上とかに水を浮かべるイメージだと、馬車だけ進んで水球は置いてきぼりだね。


「それでは、次は前後、上下、左右に動かす練習をしてみましょう。」

「よーし、見てなさい。」


 テレーズ殿下は出せる水の量こそ少ないが、コントロールは案外得意な様だ。そう時間が掛からずにある程度思い通りに動かす事が出来る様になった。ちょっと楽しそう。


「良い事思いついた。」


 そう言って、また悪い笑みを浮かべるテレーズ姫様。どうせまた碌な事じゃないんでしょ。窓の外には馬車に並走しているアンドレ隊長がいた。テレーズ姫様はアンドレ隊長に向かって水球をぶつけた。


「うわっぷ。」


 水球をぶつけられて驚くアンドレ隊長。大した威力じゃ無いにしても、いきなり水を掛けられたらそりゃ驚くわな。


「きゃはははは。アンドレに命中したわ。」

「殿下、人を的にしてはいけませんよ。」

「姫様、そのはしたない笑い方は何ですか。品性を疑われてしまいますよ。」


 俺とマルグリットさんは諫める側だったので多少ブツブツ言われたくらいだったが、テレーズ姫様はアンドレ隊長にこってり絞られていた。懲りないね、姫様。

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