第211話

 ここはテスラ王国のバローロ男爵が治める領地だ。領地は広いが耕作に適さない山ばかりで、これと言った産業がない。早い話が下級貧乏貴族。おかげで街道の手入れも今一つ。山道で両側は森が迫っており、街道は狭くなっている。この幅じゃあ、馬車はすれ違えないね。前の世界でも国道を酷道なんて言われている所もあったもんなあ。


「思っていたより酷いな。もう少し街道の手入れを出来ないものかよ。」

「一応れっきとした街道です。この男爵領を抜けるのがトマヒヒンへ行く近道なんですよ。」

「道幅も狭いし、轍も酷いじゃないか。」

「この辺りは貧しいので、街道の整備まで手が回らないみたいですよ。」


 アンドレ隊長の感想に俺はそう返事をした。だって山を避けて遠回りしてたら、あと1週間以上旅程が延びるのよ。時間もお金も節約した方が良いじゃない。お金は俺の金じゃないけどさ。事前打ち合わせでご了承してくれたでしょ。


「今日はこの峠を越えた先の盆地にある街で宿泊だよな?」

「その通りです。温泉があるので疲れが癒せますよ。」

「こんな所は早く通り抜けてしまいたいもんだ。」


 漸く峠に差し掛かろうと言う所に先客がいた。どこかの商人の馬車みたいだが、あらら車軸が折れちゃってるのかよ。


「これじゃあ通り抜けられないな。お前達、様子を見て来い。」


 テレーズ殿下一行は手前で停止し、アンドレ隊長が部下に様子を見に行く様に指示した。


「相済みません。馬車の車軸が折れてしまいまして。」

「我々はベクレル王国の者だ。これからテレーズ殿下の馬車がお通りになる。この馬車をどかす事は出来ないか。」

「私どもだけでは何とも出来ません。お力をお貸し願えませんか。」

「仕方が無いな。」


 そう言ってベクレル兵士が商人に背を向けた時、馬車の中から武装した兵士が飛び出して斬りつけて来た。咄嗟に剣を抜いて防ぐベクレル兵。流石護衛役を仰せつかるだけあって精鋭だ。だてにアンドレ隊長にしごかれていない。


「敵襲!」

「囲まれているぞ!」

「木の上から矢を射掛ける奴がいる。注意しろ。」

「殿下をお守りしろ!」

 

 馬車の中からだけではなく、両側の森からも賊が出て来た。計画的な待ち伏せだな、こりゃ。ざっと見たところ、敵は50人程。寄せ集めのゴロツキに武装した兵も混ざっている様だ。


「テレーズ殿下は馬車から出ない様に。お前たちは左右に分かれて敵襲を防げ。俺は前の敵を対処する。そこの二人、一緒に来い。」


 そう言って指示を出すと、アンドレ隊長は商人に偽装した馬車の方へ走って行った。


「目的のお姫様はあの豪華な馬車の中だぞ。」

「火矢を射掛けろ。」


 このままではテレーズ姫様が馬車ごとまる焼けになっちまう。先ずは弓兵を何とかしないと。


「アンちゃん、姫様を頼む。俺は弓兵を片付けてくる。」

「分かった。ジローも気を付けて。」


 俺は弓兵を狙える位置へと走った。

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