第204話

 テスラ王国に入って早数日。マルグリットさんの目が恐いのか、最近はテレーズ殿下も大人しくしていらっしゃる。誠に結構な事だ。怒った時のマルグリットさん恐かったからね。お気持ちは分かります、姫様。


「そうは言っても退屈なのよね。あー、何か面白い事ないかしら。」

「姫様、この間の様な事はもう二度としてはなりませんよ。」

「はいはい、分かったわよ。マルグリット。」

「はい、は一回ですよ、姫様。」

「はぁい。」

「姫様の悪い評判が立つのではないかと、もう私は心配で心配で。」


 馬車の中では最近よくこの様な会話がされているとか。マルグリットさんがアンちゃんに愚痴をこぼしたらしい。ミュエーの暴走を止めたり、毎朝剣術の稽古を一緒に行ったりしてテレーズ殿下やお付きのメイドさんと仲良くなったらしい。テレーズ姫様が懐いているなら、アンちゃんに全てお任せしたいくらいだ。


「なあ、アンちゃん。」

「なあに?」

「いっそアンちゃんが馬車に乗り込んでテレーズ殿下のお相手をしてみないか?また殿下が暴発したら困るでしょ。」

「うーん、ジローと交代なら良いわよ。」

「俺は駄目だろ。外国よそから来たおっさんが姫様の馬車に乗り込んだら、後で何を言われるか分かったもんじゃないよ。皆さんだってきっと許してくれないよ。」


 それではお伺い立ててみましょう、とアンちゃんはマルグリットさんにご相談。最近は愚痴をこぼす程アンちゃんに親近感を抱いているマルグリットさんは、二つ返事でご了承して下さった。

え、俺が馬車に乗り込んで良いの?


「馬車の外で騒ぎを起こされるよりは、姫様には馬車の中に居て頂いた方が良いのです。」

「私も馬車に乗り込んで宜しいので?」


 ちょっと予想と違う展開に俺がマルグリットさんに確認すると、考えを教えてくれた。


「ジロー殿が乗り降りする際に人目を避ければ済む事でしょう?走っている時の馬車の中は、外から見えませんからね。」

「アンドレ隊長に後で怒られませんかね?」

あの人アンドレには、後で私から言っておきますから。」


 そう言って、おほほと笑うマルグリットさん。強面のアンドレ隊長より余程恐そうだ。実はマルグリットさん、家庭では”百戦危うからず”なのではないだろうか。なんか俺、アンドレ隊長の応援したくなって来たな。今度一緒に飲みますか?でも愚痴聞かされるの嫌だな。止めとこう。


「ジロー殿とアンナ殿には申し訳ありませんが、姫様の息抜きになって頂きたいのです。」


 そう言う訳で、明日から俺とアンちゃんは1日交代で鐘ひとつ分の間、テレーズ殿下のお相手をする事になった。えー、やっぱりこう言う展開ですか。アンちゃんを嗾けなきゃ良かった。

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